720 / 1,046
黒田先生(2)来訪
しおりを挟む
陰陽課に、来客4人が着いた。秀也君とクラスメイトの女子3人だ。昼頃、ムスッとした声で秀也君から電話があり、
「クラスのやつが、どうも霊だと思うから、その、お、おに、お兄さん、に、紹介してくれって」
という事だった。なので、放課後陰陽課に寄るようにと言っておいたのだ。
秀也君はソファに座って、ムスッとしていた。
残る3人は、青い顔ながらも、どこかそわそわしている。
「まず、名前から伺いましょうか」
「あんたから言ってよ、霜月」
小声で言われ、
「何で俺が」
と言いながらも、秀也君がまず口火を切った。
「霜月秀也です」
「三葉心音です」
「浜田明菜です」
「浦敷双羽です」
そして、三葉さんが代表して、話し始めた。
「今朝、駅前の交差点で、一緒にいた倉辺七美っていう友達が車にはねられたんですけど、誰かに突き飛ばされるように車の前に飛び出したんです」
すぐに、千歳さんがノートパソコンを操作し、それを持って来る。
「係長、ありました。丸の内署で処理しています」
東京駅近くの交差点で、女子高生がワゴン車の前に飛び出して重体。救急車で搬送中に亡くなったとある。
「ありがとう。
突き飛ばした人を見たか、心当たりはありますか」
訊くと、女子3人は、目を見交わして、押し付け合った挙句、浜田さんが言った。
「黒田先生が……」
「黒田先生?それは、学校の先生かねえ?」
「いえ……熊です」
「熊?」
全員、キョトンとした。
「昨日、4人で一緒に試験勉強してて、飽きーー疲れたので、気分転換に黒田先生を呼び出したんです。
黒田先生っていうのは、若くして亡くなった先生で、呼び出すことに成功したら、お願いをきいてもらえるんですよ」
「つまり、降霊術?」
嬉しそうに3人は頷き、僕達陰陽課員はげんなりし、秀也君は溜め息をついた。
そして、どのように降霊術をし、どうなったかをきく。
「それで、事故の後、誰が突き飛ばしたのかって振り返ると、そこに熊のぬいぐるみがいたんです。それで、ほんの2秒くらい目を離してもう1度見たら、無くなってたんです」
美保さんが、嬉しさを抑えて、
「やっちゃいましたね」
と言った。
ああ。やっちゃったみたいだ。
「それで、その写真は残ってるんですか」
「はい。指1本だったのが七美で、2本は心音、3本は私、4本は双羽」
言いながら、3人はスマホで写真を表示させて、並べる。
「ガッツリ写ってるねえ」
「お願いをきいてくれる感じじゃないな」
僕達は眺めて、各々言った。秀也君も、
「お前ら、バカだろ。黒田先生って誰だよ。どこの誰かも知らない人のお願いを、きいてくれるか?」
と言う。
「何よ。霜月のくせに」
「裏拍手の都市伝説に反応してたくせに」
「あれ、誰にしようとしてたのよ」
「う、うるさいな。何かなって思っただけだろ」
口喧嘩を始めかけたが、女子が目をギラギラさせているのに反して秀也君はしどろもどろだ。感情優先の口喧嘩で男が女に勝てると思ってはいけない。やるなら、理論的なディベートで――いや、それも秀也君は苦手そうだ。
救命ボートが必要だろう。
「それはともかく、そういうのはもし何かが入り込んでしまったら危険なので、2度とやらないように」
「とりあえずお守りを渡しておこうかねえ。入浴時も、とにかく離さないで下さいねえ」
直は人数分の札を作るために立ち上がった。
三葉は皆と別れて家に帰ると、着替えて一応は机に向かった。
が、
「あ。夜食のお菓子買って帰るの忘れた」
と、コンビニへ行く事にした。
玄関を出て、鼻歌を歌いながら歩く。
と、前方に何かいた。
「んん?あ。くま」
それは間違いなく、黒田先生を降ろした熊のぬいぐるみだった。暗い夜道の真ん中に、ポツンと立っている。
「く、黒田、先生……」
サッと血の気が引いた。本当に、2番目のピースだったのだ。
「お願いは、もういいです」
熊は無言で無表情だ。ぬいぐるみだから当然だが、今はそれが怖い。
「あ、あの……」
いきなり、そばのマンションのベランダから、植木鉢や物干し竿が降り注ぐ。
「きゃあああ!?」
ありえない。
そしてそれはもっとあり得ない事に、皆、三葉の近くに落ちながらも当たらないのだ。
「あ……?」
三葉はそれに気付いて呆然とした。
我に返った時は、もう、熊のぬいぐるみはどこにも見当たらなかった。
「で、電話しなくちゃ……!」
震える指で、夕方登録したばかりの電話番号をタップした。
「クラスのやつが、どうも霊だと思うから、その、お、おに、お兄さん、に、紹介してくれって」
という事だった。なので、放課後陰陽課に寄るようにと言っておいたのだ。
秀也君はソファに座って、ムスッとしていた。
残る3人は、青い顔ながらも、どこかそわそわしている。
「まず、名前から伺いましょうか」
「あんたから言ってよ、霜月」
小声で言われ、
「何で俺が」
と言いながらも、秀也君がまず口火を切った。
「霜月秀也です」
「三葉心音です」
「浜田明菜です」
「浦敷双羽です」
そして、三葉さんが代表して、話し始めた。
「今朝、駅前の交差点で、一緒にいた倉辺七美っていう友達が車にはねられたんですけど、誰かに突き飛ばされるように車の前に飛び出したんです」
すぐに、千歳さんがノートパソコンを操作し、それを持って来る。
「係長、ありました。丸の内署で処理しています」
東京駅近くの交差点で、女子高生がワゴン車の前に飛び出して重体。救急車で搬送中に亡くなったとある。
「ありがとう。
突き飛ばした人を見たか、心当たりはありますか」
訊くと、女子3人は、目を見交わして、押し付け合った挙句、浜田さんが言った。
「黒田先生が……」
「黒田先生?それは、学校の先生かねえ?」
「いえ……熊です」
「熊?」
全員、キョトンとした。
「昨日、4人で一緒に試験勉強してて、飽きーー疲れたので、気分転換に黒田先生を呼び出したんです。
黒田先生っていうのは、若くして亡くなった先生で、呼び出すことに成功したら、お願いをきいてもらえるんですよ」
「つまり、降霊術?」
嬉しそうに3人は頷き、僕達陰陽課員はげんなりし、秀也君は溜め息をついた。
そして、どのように降霊術をし、どうなったかをきく。
「それで、事故の後、誰が突き飛ばしたのかって振り返ると、そこに熊のぬいぐるみがいたんです。それで、ほんの2秒くらい目を離してもう1度見たら、無くなってたんです」
美保さんが、嬉しさを抑えて、
「やっちゃいましたね」
と言った。
ああ。やっちゃったみたいだ。
「それで、その写真は残ってるんですか」
「はい。指1本だったのが七美で、2本は心音、3本は私、4本は双羽」
言いながら、3人はスマホで写真を表示させて、並べる。
「ガッツリ写ってるねえ」
「お願いをきいてくれる感じじゃないな」
僕達は眺めて、各々言った。秀也君も、
「お前ら、バカだろ。黒田先生って誰だよ。どこの誰かも知らない人のお願いを、きいてくれるか?」
と言う。
「何よ。霜月のくせに」
「裏拍手の都市伝説に反応してたくせに」
「あれ、誰にしようとしてたのよ」
「う、うるさいな。何かなって思っただけだろ」
口喧嘩を始めかけたが、女子が目をギラギラさせているのに反して秀也君はしどろもどろだ。感情優先の口喧嘩で男が女に勝てると思ってはいけない。やるなら、理論的なディベートで――いや、それも秀也君は苦手そうだ。
救命ボートが必要だろう。
「それはともかく、そういうのはもし何かが入り込んでしまったら危険なので、2度とやらないように」
「とりあえずお守りを渡しておこうかねえ。入浴時も、とにかく離さないで下さいねえ」
直は人数分の札を作るために立ち上がった。
三葉は皆と別れて家に帰ると、着替えて一応は机に向かった。
が、
「あ。夜食のお菓子買って帰るの忘れた」
と、コンビニへ行く事にした。
玄関を出て、鼻歌を歌いながら歩く。
と、前方に何かいた。
「んん?あ。くま」
それは間違いなく、黒田先生を降ろした熊のぬいぐるみだった。暗い夜道の真ん中に、ポツンと立っている。
「く、黒田、先生……」
サッと血の気が引いた。本当に、2番目のピースだったのだ。
「お願いは、もういいです」
熊は無言で無表情だ。ぬいぐるみだから当然だが、今はそれが怖い。
「あ、あの……」
いきなり、そばのマンションのベランダから、植木鉢や物干し竿が降り注ぐ。
「きゃあああ!?」
ありえない。
そしてそれはもっとあり得ない事に、皆、三葉の近くに落ちながらも当たらないのだ。
「あ……?」
三葉はそれに気付いて呆然とした。
我に返った時は、もう、熊のぬいぐるみはどこにも見当たらなかった。
「で、電話しなくちゃ……!」
震える指で、夕方登録したばかりの電話番号をタップした。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる