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誕生日(2)遺体の形
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僕と直は、翌朝から出張で東北に来ていた。
「幼稚園の頃に欲しかったものかあ。ボクは電話だったねえ」
直が言う。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「ああ。携帯電話か?」
「そう!羨ましかったんだよねえ、大人の持つおもちゃでない携帯が。
怜は?」
「本だったな。怪人二十面相のシリーズにあの頃夢中で」
「そう言えばいつも読んでたねえ。明智探偵や少年探偵団のあれ」
「面白かったなあ。将来は、図書館で働きたいと思ってた。まあ、図書館に勤めても本読み放題とは行かないとは子供にはわからなかったが」
「ケーキ屋さんに勤めたら毎日ケーキが食べられると思うようなものだよねえ」
「かわいいもんだな」
言っているうちにタクシーは県警本部前に着き、僕と直は、仕事の顔に切り替わった。
連続怪死事件が起こっているらしい。被害者は皆女性で、中絶手術をした人ばかりだった。周囲の人の話によると、皆
「赤ちゃんの泣き声がする」
と死ぬ前には言っていたそうだ。それと、遺体の状態も皆一致していた。
型通りの挨拶をして、さっさと刑事課に行き、捜査員から直接話を聞く。
「資料は見ました。皆、中絶した女性で、赤ん坊の声を聞いていて、遺体は切断された自分の頭部を抱いていたとありましたが」
早速切り出す。
「はい。共通点はその3点です。
赤ん坊の声は、他の人には聞こえないようです。だから最初はノイローゼかと思ったんです。それで、同じ神経科にでも通っていたのかと。
しかし、誰も受診歴はありませんでした。
中絶手術をした病院もバラバラでした」
「なるほど。それで、病院で犯人と接点があったという説は否定されたと」
僕が言うと、管理官は悔しそうに頷いた。
「遺体の状態も、普通じゃないですしねえ」
直が言う。
その時、緊急指令の入電が入った。
『110番通報で遺体発見の入電あり。連続怪死事件の被害者の模様。場所は――』
聞きながら、慌ただしく立ち上がり、部屋を急ぎ足で出て行く。僕と直も、捜査員の車に乗り込んだ。
現場は制服警官と規制線、青いビニールシートによって隠されていたが、野次馬と報道陣が既に集まっていた。
「どうぞ」
手渡されたビニールのカバーを靴に被せ、中へ入る。
現場は自宅マンションの一室で、Tシャツにショートパンツ、すっぴんと、ラフな格好をしていた。
機動捜査隊員によると、被害者は友人と電話中で、突然、『え、何。また赤ちゃんの声が……。え、何、誰よあんた!?嫌!あああ!!』という声を最後に声が途絶えて、通話相手が何かあったんじゃないかと110番通報して来、駆け付けた地域の交番勤務の巡査が遺体を発見したらしい。
「同じだねえ」
「ああ」
遺体は首がねじ切られ、千切れた頭部を両手で抱え込んで体育座りをしているようなポーズを取っていた。
皆、このポーズなのだ。
「首の傷口は、刃物を使ったとは思えないな」
「解剖所見を読むまでもなく、ねじ切られたものだねえ」
「うっ、うぷっ」
遺体のそばにしゃがみ込んでしげしげと観察する僕と直の後ろで、管理官はハンカチで口元を覆って外へ出て行った。
僕と直も、
「人には無理そうだな」
と結論付いたところで、外に出た。
「ここには誰もいない」
「何だろうねえ」
言いながら管理官に近付いて行くと、声がした。
「あれは埋葬の姿勢だよ」
声の方を向く。そこに、制服警官に止められた女がいた。年は30代初め。化粧はせず、ジャージとTシャツにスニーカーという出で立ちだ。目は爛々と輝き、口元は楽しそうに笑っていた。
「新聞の解説の文章からしたらね。見せてよ」
「だめですって、もう」
警官に止められ、肩を竦めている。
「あなたは?」
「大学の准教授で、土井清良。
専門分野だよ。とある状況の埋葬時のポーズと同じだよ」
「それはどういう状況ですかねえ」
「見せてくれたら教えてあげる」
「おい!」
管理官がイラッとした声を出し、警官が慌てて土井さんをつまみ出そうとする。
「土井さん。どうしてここへ?」
「だって、この真裏があたしの住んでる大学の寮だもん」
遺体を見せるわけにはいかない。いかないが、情報は欲しい。
「情報の内容によっては、遺体は無理だが写真なら見せてもいい」
「警視!?」
ギョッとしたように僕を見る管理官を、直が笑顔でなだめる。
「ううん。まあ、いいか」
土井さんは言うと、真面目な表情になった。
「昔この辺りは貧しくてね。間引きがあったんだよ。まあ、ここに限らない事だけどね、それは。
ここのやり方は、まず生まれた時に弱い子や多すぎる子を殺し、1年後にもまた同様に間引き、2年後も。そうやって、優良な子供だけを残して間引いていったんだ。
眠らせた子供の首を、こう、ねじ切ってね。ちぎれた頭部を抱えるような形に座らせて、木箱に収めて埋めたんだよ」
確かに聞く限り、一緒だ。
「その風習があった集落は今はもうないけど、見に行くかい?それが見付かった墓地跡」
僕達は、土井さんとそこへ行く事にした。
「幼稚園の頃に欲しかったものかあ。ボクは電話だったねえ」
直が言う。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「ああ。携帯電話か?」
「そう!羨ましかったんだよねえ、大人の持つおもちゃでない携帯が。
怜は?」
「本だったな。怪人二十面相のシリーズにあの頃夢中で」
「そう言えばいつも読んでたねえ。明智探偵や少年探偵団のあれ」
「面白かったなあ。将来は、図書館で働きたいと思ってた。まあ、図書館に勤めても本読み放題とは行かないとは子供にはわからなかったが」
「ケーキ屋さんに勤めたら毎日ケーキが食べられると思うようなものだよねえ」
「かわいいもんだな」
言っているうちにタクシーは県警本部前に着き、僕と直は、仕事の顔に切り替わった。
連続怪死事件が起こっているらしい。被害者は皆女性で、中絶手術をした人ばかりだった。周囲の人の話によると、皆
「赤ちゃんの泣き声がする」
と死ぬ前には言っていたそうだ。それと、遺体の状態も皆一致していた。
型通りの挨拶をして、さっさと刑事課に行き、捜査員から直接話を聞く。
「資料は見ました。皆、中絶した女性で、赤ん坊の声を聞いていて、遺体は切断された自分の頭部を抱いていたとありましたが」
早速切り出す。
「はい。共通点はその3点です。
赤ん坊の声は、他の人には聞こえないようです。だから最初はノイローゼかと思ったんです。それで、同じ神経科にでも通っていたのかと。
しかし、誰も受診歴はありませんでした。
中絶手術をした病院もバラバラでした」
「なるほど。それで、病院で犯人と接点があったという説は否定されたと」
僕が言うと、管理官は悔しそうに頷いた。
「遺体の状態も、普通じゃないですしねえ」
直が言う。
その時、緊急指令の入電が入った。
『110番通報で遺体発見の入電あり。連続怪死事件の被害者の模様。場所は――』
聞きながら、慌ただしく立ち上がり、部屋を急ぎ足で出て行く。僕と直も、捜査員の車に乗り込んだ。
現場は制服警官と規制線、青いビニールシートによって隠されていたが、野次馬と報道陣が既に集まっていた。
「どうぞ」
手渡されたビニールのカバーを靴に被せ、中へ入る。
現場は自宅マンションの一室で、Tシャツにショートパンツ、すっぴんと、ラフな格好をしていた。
機動捜査隊員によると、被害者は友人と電話中で、突然、『え、何。また赤ちゃんの声が……。え、何、誰よあんた!?嫌!あああ!!』という声を最後に声が途絶えて、通話相手が何かあったんじゃないかと110番通報して来、駆け付けた地域の交番勤務の巡査が遺体を発見したらしい。
「同じだねえ」
「ああ」
遺体は首がねじ切られ、千切れた頭部を両手で抱え込んで体育座りをしているようなポーズを取っていた。
皆、このポーズなのだ。
「首の傷口は、刃物を使ったとは思えないな」
「解剖所見を読むまでもなく、ねじ切られたものだねえ」
「うっ、うぷっ」
遺体のそばにしゃがみ込んでしげしげと観察する僕と直の後ろで、管理官はハンカチで口元を覆って外へ出て行った。
僕と直も、
「人には無理そうだな」
と結論付いたところで、外に出た。
「ここには誰もいない」
「何だろうねえ」
言いながら管理官に近付いて行くと、声がした。
「あれは埋葬の姿勢だよ」
声の方を向く。そこに、制服警官に止められた女がいた。年は30代初め。化粧はせず、ジャージとTシャツにスニーカーという出で立ちだ。目は爛々と輝き、口元は楽しそうに笑っていた。
「新聞の解説の文章からしたらね。見せてよ」
「だめですって、もう」
警官に止められ、肩を竦めている。
「あなたは?」
「大学の准教授で、土井清良。
専門分野だよ。とある状況の埋葬時のポーズと同じだよ」
「それはどういう状況ですかねえ」
「見せてくれたら教えてあげる」
「おい!」
管理官がイラッとした声を出し、警官が慌てて土井さんをつまみ出そうとする。
「土井さん。どうしてここへ?」
「だって、この真裏があたしの住んでる大学の寮だもん」
遺体を見せるわけにはいかない。いかないが、情報は欲しい。
「情報の内容によっては、遺体は無理だが写真なら見せてもいい」
「警視!?」
ギョッとしたように僕を見る管理官を、直が笑顔でなだめる。
「ううん。まあ、いいか」
土井さんは言うと、真面目な表情になった。
「昔この辺りは貧しくてね。間引きがあったんだよ。まあ、ここに限らない事だけどね、それは。
ここのやり方は、まず生まれた時に弱い子や多すぎる子を殺し、1年後にもまた同様に間引き、2年後も。そうやって、優良な子供だけを残して間引いていったんだ。
眠らせた子供の首を、こう、ねじ切ってね。ちぎれた頭部を抱えるような形に座らせて、木箱に収めて埋めたんだよ」
確かに聞く限り、一緒だ。
「その風習があった集落は今はもうないけど、見に行くかい?それが見付かった墓地跡」
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