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七夕の短冊(1)笹飾り
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3係が逮捕したインチキ霊能師は、ふてぶてしい様子で取り調べに応じていた。
「どうやって客を?」
「病院とか居酒屋とかで世間話をして、『実は霊能師なんだ。特別に早くやってあげようか。予約もなしで、すぐにかかれるよ』とか言うんですよ。依頼した事のない人は、待ち時間がかかるのかな、とか、その値段で安いんだな、とか勝手に思ってくれるから」
「それで、腰痛のおばあちゃんに先祖供養と称して適当なお経でお金を取ったり、失恋した子に呪われてるから呪い返しをと称して適当な小袋をお守りとして高く売りつけたりしたんだな」
「まあね。イワシの頭も信心から、病は気から。そうでしょ?」
あっけらかんと詐欺師は言って、笑った。
「で、受けた依頼はこれで全部か」
「そう――ああ……」
思い出し、頭を掻く。
「あともう1件。
若い男なんだけど、死んだ元恋人が迎えに来るって言ってるから何とかしてくれって」
「それで、どうしたんだ」
「受けた直後に刑事さん達に逮捕されちゃったんだよね。
神社で見かけた時、思いつめたような顔で、相当怯えてたから、これは大分取れると思ったんだけどなあ」
とんでもない事を言い出し、取り調べをしていた千歳は、すぐに美保に、
「係長に知らせて下さい」
と言った。
リビングのテラスに面したガラス戸際に、笹飾りが置いてある。
笹は昨日山の神が持って来てくれたもので、そこに、甥の敬や京香さんの所の康介が色紙で飾り付けをした。願い事を書いた短冊は、兄一家、直一家、京香さん一家に短冊を渡してあるので、今日の昼間にでも吊るす事になるだろう。
皆、何を書いたのだろう。
僕は、美里と子供の無事と、皆の安全、平穏無事で面倒臭い事件が起こらないように、という願いを書いた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
美里は、子供が無事に生まれる事と、僕の安全、今の毎日が続くように、と書いていた。
「美味しそう。ベーグル、買いに行ってくれたの?夜中に」
美里は機嫌よく朝食を食べている。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻でもあり、もうそろそろ子どもが生まれる予定だ。
「いや、作った」
昨日の夜、美里がテレビに映ったベーグルを見て、
「何か、ベーグルが食べたい」
と言ったので、夜のうちに作ったのだ。
強力粉、塩、ドライイーストをふるい、砂糖、水を加えて混ぜ、5分程よくこねる。
これをまとめ、ボウルに入れてラップをし、2倍くらいに膨らむまで1時間程度温かい所に置いて発酵させる。
軽くこねてガスを抜いたら、数個に分け、両端を折りたたんで下から巻いて、両端が太い円柱にする。これを転がし、リング状にしたら、ラップをして30分から40分二次発酵させる。
熱湯にはちみつか砂糖を混ぜ、火を止め、そっと生地を入れて、20秒ほどであげる。
水気を切って天板に並べ、200℃のオーブンで15分焼き、余熱でもう5分焼くと完成だ。
これに、レタス、スライスチーズ、卵焼き、昨日の晩御飯から取っておいたミートローフを挟んだベーグルサンド。サラダほうれん草とトマトのサラダ、グレープフルーツ、ノンカフェインのコーヒー。それが今日の朝食だ。
「ありがとう!美味しい!」
美里は機嫌よくぱくついている。
「あと、昼はざるうどんと味噌の焼きおにぎり。うどんは茹でて。ネギとおろししょうがと天かすと桜エビは冷蔵庫に入れたから。おにぎりは、アルミホイルごとグリルに入れて、味噌に焦げ目が付いたらOKだから。
できる?」
「うどんをゆでるのと、ホイルごと焼くくらいは大丈夫よ」
「しんどいようなら冴子姉にしてもらって。ご飯もうどんもたくさんあるから」
「わかったわ」
「おやつは、ナッツとドライフルーツのシリアルバーとグレープフルーツゼリーと桃のムースを作っておいたよ。たくさんあるから、短冊を吊るしに来た皆で食べたらいいから」
「ありがとう!シリアルバー、市販品より美味しいのよねえ」
「好きなナッツとフルーツで贅沢に作れるからなあ。
あ。短冊吊るすの、高い所はやるなよ」
「わかってるって。心配症ねえ、怜は」
「美里は意外と大胆だからなあ。
くれぐれも」
「はい。何かあったら、冴子姉か京香さんか千穂ちゃんに言います。入院セットを入れたバッグも見える所に置いてあります」
僕達は真面目な顔で確認し合った。
予定日が近いのだ。ああ。毎日ドキドキする。
僕は一足早く笹飾りに手を合わせた。
「どうやって客を?」
「病院とか居酒屋とかで世間話をして、『実は霊能師なんだ。特別に早くやってあげようか。予約もなしで、すぐにかかれるよ』とか言うんですよ。依頼した事のない人は、待ち時間がかかるのかな、とか、その値段で安いんだな、とか勝手に思ってくれるから」
「それで、腰痛のおばあちゃんに先祖供養と称して適当なお経でお金を取ったり、失恋した子に呪われてるから呪い返しをと称して適当な小袋をお守りとして高く売りつけたりしたんだな」
「まあね。イワシの頭も信心から、病は気から。そうでしょ?」
あっけらかんと詐欺師は言って、笑った。
「で、受けた依頼はこれで全部か」
「そう――ああ……」
思い出し、頭を掻く。
「あともう1件。
若い男なんだけど、死んだ元恋人が迎えに来るって言ってるから何とかしてくれって」
「それで、どうしたんだ」
「受けた直後に刑事さん達に逮捕されちゃったんだよね。
神社で見かけた時、思いつめたような顔で、相当怯えてたから、これは大分取れると思ったんだけどなあ」
とんでもない事を言い出し、取り調べをしていた千歳は、すぐに美保に、
「係長に知らせて下さい」
と言った。
リビングのテラスに面したガラス戸際に、笹飾りが置いてある。
笹は昨日山の神が持って来てくれたもので、そこに、甥の敬や京香さんの所の康介が色紙で飾り付けをした。願い事を書いた短冊は、兄一家、直一家、京香さん一家に短冊を渡してあるので、今日の昼間にでも吊るす事になるだろう。
皆、何を書いたのだろう。
僕は、美里と子供の無事と、皆の安全、平穏無事で面倒臭い事件が起こらないように、という願いを書いた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
美里は、子供が無事に生まれる事と、僕の安全、今の毎日が続くように、と書いていた。
「美味しそう。ベーグル、買いに行ってくれたの?夜中に」
美里は機嫌よく朝食を食べている。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻でもあり、もうそろそろ子どもが生まれる予定だ。
「いや、作った」
昨日の夜、美里がテレビに映ったベーグルを見て、
「何か、ベーグルが食べたい」
と言ったので、夜のうちに作ったのだ。
強力粉、塩、ドライイーストをふるい、砂糖、水を加えて混ぜ、5分程よくこねる。
これをまとめ、ボウルに入れてラップをし、2倍くらいに膨らむまで1時間程度温かい所に置いて発酵させる。
軽くこねてガスを抜いたら、数個に分け、両端を折りたたんで下から巻いて、両端が太い円柱にする。これを転がし、リング状にしたら、ラップをして30分から40分二次発酵させる。
熱湯にはちみつか砂糖を混ぜ、火を止め、そっと生地を入れて、20秒ほどであげる。
水気を切って天板に並べ、200℃のオーブンで15分焼き、余熱でもう5分焼くと完成だ。
これに、レタス、スライスチーズ、卵焼き、昨日の晩御飯から取っておいたミートローフを挟んだベーグルサンド。サラダほうれん草とトマトのサラダ、グレープフルーツ、ノンカフェインのコーヒー。それが今日の朝食だ。
「ありがとう!美味しい!」
美里は機嫌よくぱくついている。
「あと、昼はざるうどんと味噌の焼きおにぎり。うどんは茹でて。ネギとおろししょうがと天かすと桜エビは冷蔵庫に入れたから。おにぎりは、アルミホイルごとグリルに入れて、味噌に焦げ目が付いたらOKだから。
できる?」
「うどんをゆでるのと、ホイルごと焼くくらいは大丈夫よ」
「しんどいようなら冴子姉にしてもらって。ご飯もうどんもたくさんあるから」
「わかったわ」
「おやつは、ナッツとドライフルーツのシリアルバーとグレープフルーツゼリーと桃のムースを作っておいたよ。たくさんあるから、短冊を吊るしに来た皆で食べたらいいから」
「ありがとう!シリアルバー、市販品より美味しいのよねえ」
「好きなナッツとフルーツで贅沢に作れるからなあ。
あ。短冊吊るすの、高い所はやるなよ」
「わかってるって。心配症ねえ、怜は」
「美里は意外と大胆だからなあ。
くれぐれも」
「はい。何かあったら、冴子姉か京香さんか千穂ちゃんに言います。入院セットを入れたバッグも見える所に置いてあります」
僕達は真面目な顔で確認し合った。
予定日が近いのだ。ああ。毎日ドキドキする。
僕は一足早く笹飾りに手を合わせた。
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