体質が変わったので

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タルパ(3)家庭訪問

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 学校へ行って、事情を訊く。公立の高校で、共学。斎藤君と山野君のクラスは1年2組だ。
 担任は問題は何もないと言うので、仲のいい、同じグループの生徒と会った。
「白いワンピースの女?」
 怪訝そうな顔をして訊き返すのは、高井由人たかいよしと君。
「聞いた事ないけど」
 そう首を傾けながら上目遣いにこちらを見て来るのは、桐生美奈恵きりゅうみなえさん。斎藤君の彼女らしい。
「白いワンピースはともかく、女というのはどうですか」
「さあ……」
「ナンパしたいとか言う割に、声をかける度胸もないしね」
 ハッキリ言う子だ。
「じゃあ、ケンカした相手の彼女とか」
「ケンカ?しないよ、弱いヤツをいじるだけだし」
 最低な行為を堂々と言った自覚はあるのだろうか、この高井君に。
「じゃあ、その、いじった子って誰かねえ?」
「宇田川。宇田川圭一。何かもっさりしてて根暗で、オドオドしてるから。なあ?」
「そうね。何か、キモイやつよね」
 アッサリと2人は言った。
「宇田川、ゴールデンウイークからずっと学校来なくなったわね」
「でも、宇田川に彼女なんているわけないよな」
「宇田川に彼女なんて、うける」
 2人は笑い出した。
 もう、僕と今の高校生との間には、深いジェネレーションギャップがあるのだろうか……。
「宇田川君に、具体的に何をしたのかねえ」
 直が、感情を抑えて訊いた。
「肩叩きとか、教科書の隠しっことか、靴隠しに、ちょっとジュース奢ってもらったり?」
「女子は、消臭剤をかけたり、感想文をネットに晒したり、恋人募集の広告を出してあげたり?」
 こいつら、最低だな。しかも、頭が悪すぎる。
 担任教師と学年主任も、そばで青い顔をしながら冷や汗をかいていた。
「なるほど。何も問題はなかった、と」
「いや、あの、その、ですね」
「まだ入学したてで、その、コミュニケーションが、ですね」
「傷害、器物損壊、窃盗、恐喝、名誉棄損、肖像権の侵害。引っかからないといいですがね。少なくとも、民事では宇田川君が負ける事はないでしょうね」
 ますます教師2人は慌て、生徒2人はやっとまずいことをしたのだろうかと考え始めたらしい。
「え、でも、皆やってるもん」
「じゃあ、皆共犯だねえ」
「遊びだろ?」
「被害者はそう思っていないと思うが」
 完全に4人共、青い顔で凍り付いた。
「そちらはともかく、白いワンピースの女です。
 宇田川君の住所を教えてもらえますか」
「は、はい!」
 担任があたふたと立ち上がる。
「あの、今回の件は」
「ボク達は陰陽課ですのでねえ」
 ホッとした顔をする。
「担当部署に連絡しておきますかねえ」
 直が、笑顔でそう言いながら、スマホを取り出した。

 宇田川君の家は、普通の建売住宅だった。つるバラのアーチを潜った先の庭は、小さいながらも色んな草花が植えられた、暖かな庭だった。
 玄関ドアを開けた母親は、戸惑い、憔悴したような様子で、
「息子は2階の自室に閉じこもっていて、トイレと入浴以外は出て来ないんです。食事は毎食私が運んでいます」
そう言って、心配そうな顔を僕と直に向ける。
「あの、息子が何か」
「お母さん、心配はわかりますが、まずは落ち着いて下さい。僕達は、圭一君が何かしたと思って来たわけじゃありませんから。むしろ、された方ですよね」
「ああ……!」
 母親は涙ぐんだ。
「圭一君と話をさせて下さい」
「よろしくお願いいたします」
 僕と直は、階段を上がって、そのドアの前に立ち、ノックした。
「圭一君、ちょっといいかな。警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申します。話がしたいんだけどねえ?」
 ドアの内側は静まり返っていたが、やがて、か細い声が返って来た。
「何ですか」
「君の学校に行って来た。被害届を出すか?少なくとも民事でやるなら勝てるだろうな。知り合いに弁護士がいるから紹介しようか。間違いなく凄腕で容赦ないやつだぞ、そうは見えないのに」
「年季の入った凄腕も知ってるねえ。恩師の奥さんで、こういうの、大っ嫌いなタイプだねえ」
 部屋の中で微かに物音がして、鍵の開く音がした。
 ほんの片目分だけ開いたドアの隙間から、まだ幼さの残ったような目が覗く。
「入ってもいいかねえ?生憎、手土産はないんだけどねえ」
 彼は瞬時迷うように目を動かし、大きくドアを開けた。
「どうぞ」
「お邪魔しますねえ」
「失礼します」
 僕達は礼儀正しく部屋に入った。
 この子が霊をけしかけてるのかどうか、これから、調べなくてはいけない。


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