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異世界へ(3)異世界の正体
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先程橋田君がやった面倒臭い手順を踏む。4階、2階、6階、2階、10階、5階。ここで、さっきの女が入って来た。そして、パーカーのポケットに手を入れたまま、黙って背後に立つ。
1階のボタンを押す。するとエレバーターはなぜか上へと上がって行く。
橋田君がいれば、狂喜乱舞したに違いない。
やがて10階に着き、扉が開いた。
降り立ってみるが、先程と同じ、10階フロアだ。壁の傷も窓の汚れも変わっていない。
ただ、エレベーターホールから廊下を奥まで見た時、あるドアの前に造花の花束が飾られていた。目星を付けていた部屋だ。
僕と直は、そのドアを目指して行った。
何の変哲もない、事務所のスチールドアだ。
「この奥が異世界か」
「さあてさて」
ドアを開ける。途端に、低い音量の民族音楽か何かが聞こえた。それに、甘いような匂いと、ゆったりと漂う雲のような煙。
ベニヤ板で奥に向かって細い通路が作ってあり、ベニヤ板の所々に布がカーテンのようにかかっていた。
入り口に小さな受付のようなデスクがあり、そこには、オーガンジーを重ねたようなドレスとベールを付けた女が座っていた。
「異世界へようこそ」
異世界ねえ。まあ、ある種異世界か。
「どうもお」
直がにこやかに応じた。
「何になさいますか」
言いながらデスクの天板をスライドさせると、吸引機やお香を焚くような器具や注射器まであり、葉っぱや粉を入れた透明な小袋がズラリと並んでいた。そこに、小さな価格表示の札も付いていた。
「先払いですかねえ」
「はい。ご注文の品を、部屋までお持ちいたします」
「成程ぉ」
「先に部屋を見たい。落ち着けるかどうかが気になる」
「かしこまりました」
若い男性スタッフが現れ、後ろに付かれる形で通路を奥へ進んでいく。奥まで行くと通路は折れ、また、同じような光景になる。
カーテンの閉められた小部屋が「使用中」というわけらしい。
その突き当りには「立入禁止」の札のかかった幾分大きなスペースがある。ここに商品の在庫や売上金が置かれており、スタッフが詰めているのだろう。
「異世界からの帰還は?」
「先程のドアからエレベーターで。その他、緊急時には避難路も確保しております」
「確実に安全かねえ?」
「ご確認なさいますか」
スタッフに頷いて言う。
「万が一の避難路は確認しておかないと」
「こちらでございます」
スタッフは先に立って歩き、掃除用具入れのロッカーを開ける。そして、モップをかき分けて向こうの壁をスライドさせる。
「空だねえ」
「非常階段にでもつながってるのか」
「はい。非常階段をそのまま下りられるか、すぐそばの非常口から入って右扉が系列のマッサージ屋になっておりますので、そこの客としてお出になられるかですね」
「なるほど。よくできてるな」
僕と直は半ば本気で感心し、スタッフは笑った。
「だ、そうですよう」
直が言うと、電話をつなげていた相手がなだれ込んで来る。
「警察だ。全員動くな」
「ゲッ!?」
「はい、動かないで下さいね」
非常口から逃げ出そうとしたスタッフの腕をねじって押し戻し、非常口は完全にふさいでおく。
外で刑事達をこの部屋へ導いた直の眷属であるインコのアオが飛んで来た。
「アオ、ご苦労様。帰ったらレタスをあげるからねえ」
「チチッ!」
アオは機嫌よく鳴いて、頭を直に擦り付ける。
店員も、エレベーターへ5階から乗り込んで、客ならポケットのボタンを押して合図を送っていた女も、客も、次々に手際よく捕まって行く。
「異世界にトリップね。ある意味、その通りだがな」
異世界エレベーターの手順を踏む事でここの客だと知らせ、それをエレベーターの動きから知った女が5階から乗り込んで、客ならこっそりとボタンを押して仲間に知らせ、仲間がエレベーターを制御室から操作して10階に上げ、別の仲間は入り口に目印の花束を出す。そういう仕組みで訪れた客は、ここで、違法薬物を摂取していたというわけだ。
客の中には重度の依存性を見せている者もおり、刑事に抱えられて廊下に引き出されても、抵抗し、喚く。
「異世界に行ってたのに邪魔するなよお!」
「悪いやつよ、化け物よお!」
「じゃあ、退治しないとなあ。へへっ」
足元も目つきも怪し気にそう言う彼らから、意識体のようなものが出る。それが集まり、1つの形になる。
「はいはい、大人しくしてね。病院に行くからね――と、何だ?」
普通の警察官達も、それに気付いた。
「異世界に行っていたい意識の集まりが作り出した、何と言うか、集合体ですね」
言いながら、刀を出す。
「へへへ。怪獣をやっつけろぉ!」
「俺は異世界の勇者だぁ!」
「魔獣よぉ、魔獣が私を狙ってる!」
彼らには、僕達が魔獣に見えているらしい。
彼らの作り出した意識体の怪獣が、吠えた。
1階のボタンを押す。するとエレバーターはなぜか上へと上がって行く。
橋田君がいれば、狂喜乱舞したに違いない。
やがて10階に着き、扉が開いた。
降り立ってみるが、先程と同じ、10階フロアだ。壁の傷も窓の汚れも変わっていない。
ただ、エレベーターホールから廊下を奥まで見た時、あるドアの前に造花の花束が飾られていた。目星を付けていた部屋だ。
僕と直は、そのドアを目指して行った。
何の変哲もない、事務所のスチールドアだ。
「この奥が異世界か」
「さあてさて」
ドアを開ける。途端に、低い音量の民族音楽か何かが聞こえた。それに、甘いような匂いと、ゆったりと漂う雲のような煙。
ベニヤ板で奥に向かって細い通路が作ってあり、ベニヤ板の所々に布がカーテンのようにかかっていた。
入り口に小さな受付のようなデスクがあり、そこには、オーガンジーを重ねたようなドレスとベールを付けた女が座っていた。
「異世界へようこそ」
異世界ねえ。まあ、ある種異世界か。
「どうもお」
直がにこやかに応じた。
「何になさいますか」
言いながらデスクの天板をスライドさせると、吸引機やお香を焚くような器具や注射器まであり、葉っぱや粉を入れた透明な小袋がズラリと並んでいた。そこに、小さな価格表示の札も付いていた。
「先払いですかねえ」
「はい。ご注文の品を、部屋までお持ちいたします」
「成程ぉ」
「先に部屋を見たい。落ち着けるかどうかが気になる」
「かしこまりました」
若い男性スタッフが現れ、後ろに付かれる形で通路を奥へ進んでいく。奥まで行くと通路は折れ、また、同じような光景になる。
カーテンの閉められた小部屋が「使用中」というわけらしい。
その突き当りには「立入禁止」の札のかかった幾分大きなスペースがある。ここに商品の在庫や売上金が置かれており、スタッフが詰めているのだろう。
「異世界からの帰還は?」
「先程のドアからエレベーターで。その他、緊急時には避難路も確保しております」
「確実に安全かねえ?」
「ご確認なさいますか」
スタッフに頷いて言う。
「万が一の避難路は確認しておかないと」
「こちらでございます」
スタッフは先に立って歩き、掃除用具入れのロッカーを開ける。そして、モップをかき分けて向こうの壁をスライドさせる。
「空だねえ」
「非常階段にでもつながってるのか」
「はい。非常階段をそのまま下りられるか、すぐそばの非常口から入って右扉が系列のマッサージ屋になっておりますので、そこの客としてお出になられるかですね」
「なるほど。よくできてるな」
僕と直は半ば本気で感心し、スタッフは笑った。
「だ、そうですよう」
直が言うと、電話をつなげていた相手がなだれ込んで来る。
「警察だ。全員動くな」
「ゲッ!?」
「はい、動かないで下さいね」
非常口から逃げ出そうとしたスタッフの腕をねじって押し戻し、非常口は完全にふさいでおく。
外で刑事達をこの部屋へ導いた直の眷属であるインコのアオが飛んで来た。
「アオ、ご苦労様。帰ったらレタスをあげるからねえ」
「チチッ!」
アオは機嫌よく鳴いて、頭を直に擦り付ける。
店員も、エレベーターへ5階から乗り込んで、客ならポケットのボタンを押して合図を送っていた女も、客も、次々に手際よく捕まって行く。
「異世界にトリップね。ある意味、その通りだがな」
異世界エレベーターの手順を踏む事でここの客だと知らせ、それをエレベーターの動きから知った女が5階から乗り込んで、客ならこっそりとボタンを押して仲間に知らせ、仲間がエレベーターを制御室から操作して10階に上げ、別の仲間は入り口に目印の花束を出す。そういう仕組みで訪れた客は、ここで、違法薬物を摂取していたというわけだ。
客の中には重度の依存性を見せている者もおり、刑事に抱えられて廊下に引き出されても、抵抗し、喚く。
「異世界に行ってたのに邪魔するなよお!」
「悪いやつよ、化け物よお!」
「じゃあ、退治しないとなあ。へへっ」
足元も目つきも怪し気にそう言う彼らから、意識体のようなものが出る。それが集まり、1つの形になる。
「はいはい、大人しくしてね。病院に行くからね――と、何だ?」
普通の警察官達も、それに気付いた。
「異世界に行っていたい意識の集まりが作り出した、何と言うか、集合体ですね」
言いながら、刀を出す。
「へへへ。怪獣をやっつけろぉ!」
「俺は異世界の勇者だぁ!」
「魔獣よぉ、魔獣が私を狙ってる!」
彼らには、僕達が魔獣に見えているらしい。
彼らの作り出した意識体の怪獣が、吠えた。
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