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霊能師という生き方(3)凜
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夜、我が家にはたくさんの人が集まっていた。僕と直の一家に、兄の一家、京香さんの一家。津山先生、徳川さん。
お下がりの米や酒や海産物などもふんだんに使って、たくさんの料理を用意した。
「おじいちゃん!」
「おお、おお。康介に敬。大きゅうなって」
津山先生に、敬と康介がくっついている。どこから見ても、おじいちゃんと孫だ。
「ぼく、今度サッカーチームに入るんだよ!」
「ほう、そうかそうか。Jリーガーになるや知れんなあ」
「ぼくは春から幼稚園に行くんだよ!」
「楽しみやなあ。仰山友達作ろな」
その様子を、大人達は目を細めて眺めていた。
まずは乾杯をし、適当に食べ物をつまみながら、話をする。
僕は津山先生と話を始めた。
「先生。ありがとうございました」
「ん、何や?」
「直や京香さんや兄ちゃんに頼まれて来てくれたんでしょう?」
津山先生は苦笑した。
「何や。わかっとったんか。
そうや。徳川さんもや。怜を心配してくれとる人は、仰山おるで。迷ったら、訊いたらええ。困ったら、頼ったらええ。皆も、わしも、そうやって支え合って生きていくんや。
迷ってもかまへん。考える事をやめてへん証拠や。感じる事を放棄してへん証拠やからなあ」
「はい」
「祓うんは、辛いこともある。でもな、迷てはる人を送ってやるんも、我を忘れた人をヒトとして送ってやれるんも、わしらやからなあ。
最初の気持ちを、思い出し。何で、送ってやるんか。どういう気ィやったんか。
ええか、怜。霊能師いうんは、仕事やない。生き方やで」
「はい、先生。ありがとうございます」
津山先生はにこにことして、子供達の方へ、ジュースのピッチャーを持って行った。
入れ替わりに、兄と直と徳川さんと京香さんが来る。どこか心配そうな顔の4人に、僕は礼を言った。
「ありがとう。それと、心配をかけてごめん」
「真面目にやってれば、まあ、ありがちな迷いなのよねえ」
京香さんはあっけらかんと笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、実家の隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「できる事なら何でも力になるからな。いいな、怜」
兄はそう言って、子供の時のように頭を撫でる。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「できない事まで力になりそうなのがこの兄弟なんだよなあ」
徳川さんが言うのに、直がおっとりと笑う。
「それはもう」
直と京香さんと徳川さんの声がハモる。
「双方向のブラコンだから」
ありがたくもくすぐったい、不思議な気持ちがした。
「怜、怜。一緒に食べよ?怜の春巻き、凄く美味しいよ?」
敬が来て、手を引く。
「ん、そうだな」
「取ったげるね!」
康介は、大皿から取り分けてくれるらしい。
「お、サンキュ」
康介も、お兄ちゃんポジションに慣れつつあるようだな。
「あうう、あう、あう」
優維ちゃんが、皿に手を伸ばそうとしている。
「優維ちゃんはこっちね」
優維ちゃん用にと分けておいた食事を千穂さんが食べさせると、優維ちゃんは手足をパタパタさせて笑った。
「冴子姉」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「うん、大丈夫そうね」
「ありがとう。心配かけてごめん」
「何言ってんの」
また明日から、やれそうだ。
皆帰り、後片付けも済み、僕は美里とソファに座っていた。
「お腹いっぱい。苦しいぃ」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻でもあり、7月には子供が生まれる予定だ。
「コーヒー飲む?」
「飲む!カフェオレで!」
ノンカフェインのコーヒーを淹れて、持って行く。
「もう、結婚して1年かあ。早いわねえ」
「そうだなあ。仕事の予定が切れた頃に旅行に行こうって言ってたが、子供が生まれるしな。もう少し先だな」
「新婚旅行じゃなくて、家族旅行でいいじゃない。皆で行ったキャンプ、楽しかったわ!」
ああ、あれか。仕事込みで行った、アレだな。
少し心が痛むが、本人は楽しそうだからいい事にしておこう。
「ねえ」
「はい!?」
美里が怪訝な顔をする。
「あ、いや、何でもない。考え事をしてて。何?」
「子供の名前、考えた?」
「ああ、まあ」
「まあ?」
「いや。考えた。うん。よく考えたよ?」
慌てて言い直す。
「何?」
「凜、とか。凜とした生き方をして欲しいなあ、と」
美里は、笑った。
「へえ。いいじゃない。凜。私もそれは候補にしてたわ。凜。
あなたの名前は凛。気に入った?」
お腹に向けて美里が言う。
「あ、動いた!?」
「え!?」
「気に入ったのね」
「……文句だったらどうしよう」
「意外と心配性なのね」
「だって、一生ものなんだぞ、名前って。昔、『悪魔』とか『火星』とかいう名前を付けて騒がれた事があったらしいしな。
火星なら本当はマーズで、二重に恥ずかしいよな」
美里は噴き出した。
「戸籍係、教えてあげればいいのに」
「確かに」
「大丈夫。怜も凛も、誰かが何か言っても、私が守ってあげるから」
「美里と凛は、僕が守る」
「あら。凛はダブルだわ」
「カウントはシングルでも、美里の事は物凄く守るから関係ない」
「変な日本語」
僕達はクスクスと笑い合った。
この先、迷う事があるかも知れない。それでも僕は、大切な事は迷わない。見失わない。守り通す。
「7月か。楽しみだな」
「ねえ」
桜の蕾が、膨らんで来ている。春はもう、すぐそこだ。
お下がりの米や酒や海産物などもふんだんに使って、たくさんの料理を用意した。
「おじいちゃん!」
「おお、おお。康介に敬。大きゅうなって」
津山先生に、敬と康介がくっついている。どこから見ても、おじいちゃんと孫だ。
「ぼく、今度サッカーチームに入るんだよ!」
「ほう、そうかそうか。Jリーガーになるや知れんなあ」
「ぼくは春から幼稚園に行くんだよ!」
「楽しみやなあ。仰山友達作ろな」
その様子を、大人達は目を細めて眺めていた。
まずは乾杯をし、適当に食べ物をつまみながら、話をする。
僕は津山先生と話を始めた。
「先生。ありがとうございました」
「ん、何や?」
「直や京香さんや兄ちゃんに頼まれて来てくれたんでしょう?」
津山先生は苦笑した。
「何や。わかっとったんか。
そうや。徳川さんもや。怜を心配してくれとる人は、仰山おるで。迷ったら、訊いたらええ。困ったら、頼ったらええ。皆も、わしも、そうやって支え合って生きていくんや。
迷ってもかまへん。考える事をやめてへん証拠や。感じる事を放棄してへん証拠やからなあ」
「はい」
「祓うんは、辛いこともある。でもな、迷てはる人を送ってやるんも、我を忘れた人をヒトとして送ってやれるんも、わしらやからなあ。
最初の気持ちを、思い出し。何で、送ってやるんか。どういう気ィやったんか。
ええか、怜。霊能師いうんは、仕事やない。生き方やで」
「はい、先生。ありがとうございます」
津山先生はにこにことして、子供達の方へ、ジュースのピッチャーを持って行った。
入れ替わりに、兄と直と徳川さんと京香さんが来る。どこか心配そうな顔の4人に、僕は礼を言った。
「ありがとう。それと、心配をかけてごめん」
「真面目にやってれば、まあ、ありがちな迷いなのよねえ」
京香さんはあっけらかんと笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、実家の隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「できる事なら何でも力になるからな。いいな、怜」
兄はそう言って、子供の時のように頭を撫でる。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「できない事まで力になりそうなのがこの兄弟なんだよなあ」
徳川さんが言うのに、直がおっとりと笑う。
「それはもう」
直と京香さんと徳川さんの声がハモる。
「双方向のブラコンだから」
ありがたくもくすぐったい、不思議な気持ちがした。
「怜、怜。一緒に食べよ?怜の春巻き、凄く美味しいよ?」
敬が来て、手を引く。
「ん、そうだな」
「取ったげるね!」
康介は、大皿から取り分けてくれるらしい。
「お、サンキュ」
康介も、お兄ちゃんポジションに慣れつつあるようだな。
「あうう、あう、あう」
優維ちゃんが、皿に手を伸ばそうとしている。
「優維ちゃんはこっちね」
優維ちゃん用にと分けておいた食事を千穂さんが食べさせると、優維ちゃんは手足をパタパタさせて笑った。
「冴子姉」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「うん、大丈夫そうね」
「ありがとう。心配かけてごめん」
「何言ってんの」
また明日から、やれそうだ。
皆帰り、後片付けも済み、僕は美里とソファに座っていた。
「お腹いっぱい。苦しいぃ」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻でもあり、7月には子供が生まれる予定だ。
「コーヒー飲む?」
「飲む!カフェオレで!」
ノンカフェインのコーヒーを淹れて、持って行く。
「もう、結婚して1年かあ。早いわねえ」
「そうだなあ。仕事の予定が切れた頃に旅行に行こうって言ってたが、子供が生まれるしな。もう少し先だな」
「新婚旅行じゃなくて、家族旅行でいいじゃない。皆で行ったキャンプ、楽しかったわ!」
ああ、あれか。仕事込みで行った、アレだな。
少し心が痛むが、本人は楽しそうだからいい事にしておこう。
「ねえ」
「はい!?」
美里が怪訝な顔をする。
「あ、いや、何でもない。考え事をしてて。何?」
「子供の名前、考えた?」
「ああ、まあ」
「まあ?」
「いや。考えた。うん。よく考えたよ?」
慌てて言い直す。
「何?」
「凜、とか。凜とした生き方をして欲しいなあ、と」
美里は、笑った。
「へえ。いいじゃない。凜。私もそれは候補にしてたわ。凜。
あなたの名前は凛。気に入った?」
お腹に向けて美里が言う。
「あ、動いた!?」
「え!?」
「気に入ったのね」
「……文句だったらどうしよう」
「意外と心配性なのね」
「だって、一生ものなんだぞ、名前って。昔、『悪魔』とか『火星』とかいう名前を付けて騒がれた事があったらしいしな。
火星なら本当はマーズで、二重に恥ずかしいよな」
美里は噴き出した。
「戸籍係、教えてあげればいいのに」
「確かに」
「大丈夫。怜も凛も、誰かが何か言っても、私が守ってあげるから」
「美里と凛は、僕が守る」
「あら。凛はダブルだわ」
「カウントはシングルでも、美里の事は物凄く守るから関係ない」
「変な日本語」
僕達はクスクスと笑い合った。
この先、迷う事があるかも知れない。それでも僕は、大切な事は迷わない。見失わない。守り通す。
「7月か。楽しみだな」
「ねえ」
桜の蕾が、膨らんで来ている。春はもう、すぐそこだ。
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