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この世の終わり(4)竜胆
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視界が揺れ、揺さぶられているのだと気付いた。続いて、その声が脳に届く。
「怜!!」
直が必死の形相で僕を揺すっていた。
「あ、直。すまん。つい」
直はホッとしたように肩の力を抜いた。
「どうなった?」
「多分、恐ろしく強い神威が、恐ろしく広範囲に広がったと思うねえ」
「……まずいかな」
「……ゲリラ部隊は困るだろうけど、ボク達的には問題なしだねえ」
直は肩を竦めて、捕縛された形で白目を剥いて失神したゲリラ兵士をチラリと見た。
「ああ……まあ……」
「霊と霊がぶつかって想定外のこれを引き起こした所に神威も別の霊力もほかの霊も加わって、検証不可能だなんて、怖いよねえ」
直はそう言って、笑った。
まあ、いいか。
僕は表情を引き締めた。
「美里が取り込まれた。追う。直はこいつを結界で覆って引き留めておいてくれ」
「了解だよう。気を付けて。
念のため、札を持って行くかねえ」
結界とブースターだった。
「サンキュ」
僕はそれを受け取り、そこに飛び込んだ。
直は、結界でそれを覆った。念のために2重に。これ以上大きくも、移動もさせないためだ。
「直君!」
千穂が、走って来た。
「千穂ちゃん!無事だったんだねえ。優維は母さんの所かねえ?」
「ええ。美里ちゃんが入った検査室にあれがぶつかって、通り過ぎたら美里ちゃんの姿がなくって――!」
「大丈夫だよう。今、怜が行ったから。任せておけば向こうは大丈夫。美里を捕まえさえすれば、例えこいつが妨害したって、ボクが引っ張り出して見せるからねえ。
だから、千穂ちゃんは安全な所に避難しておいて欲しいねえ」
「わかった。私だって警察官よ、休職中でも。避難誘導の助けくらいはするわ」
千穂は笑って片手を上げ、小走りに、制服警官の方へ走って行った。
直は、それを見た。
それは動けないのでそれ以上のものを取り込めなくてイライラしているかのように、体を揺らして札を軋ませていた。
「怜。無事で帰って来てくれよねえ」
つながったパスを、強く意識せずにはいられなかった。
暗闇の中に、色々な意識があった。恐怖、怒り、悲しみ、畏れ、混乱――。
憑りついて飲み込もうとする絶望を退け、心配を避け、探す。
どこだ。
闇一色の中、ふっと、青紫色が視界をよぎる。
「何だ?」
そちらに意識を向けて視る。竜胆の花。
「美里か――!」
手を伸ばす。果てしなく遠いようにも、すぐそこのようにも感じられる、不可思議な空間だ。その指先に、暖かいものが触れる。
それを手繰り寄せるようにして、抱き込む。
「美里!?」
「怜!?ここどこよ!いきなり停電になったら、足元がふわふわしちゃって――!
何笑ってるのよう」
「いや。その様子だと大丈夫だな。ここを出てから、説明するよ」
僕は直との間につないだパスを強く意識した。
帰り道が、光る糸のような物で示されたように知覚される。
「さあ、帰ろうか」
僕達は、その糸を辿り始めた。
黒い何かを割って出て来るかのように、僕と美里は外へ出る。
「怜!」
「直、頼む」
「了解」
美里を直の方へ押しやり、それと向かい合う。
「直」
「ここで大人しくしててねえ」
直が背後で美里を結界で包んだのがわかった。
「さあ。逝こうか」
刀を出して、1歩踏み出す。それは、全体をブルブルと震わせて、札を引きちぎらんとしていた。
「何……ひいっ!?」
失神から醒めたゲリラ兵士が再び失神しそうになるのに、声をかける。
「起きてろよ。自分のしでかした事を見ておけ。いっそ、中に取り込まれて見ると分かりやすいか?1回体験してみるか?
返事が無いな。言葉がわからないか?」
韓国語、英語、台湾語、広東語、上海語、タイ語――。
「もういい!いいから!わかったから!早く何とかしてくれ!!」
それは、緩めた札の隙間から伸ばした触手を彼らの方へ伸ばしており、拘束されて転がされた彼らは、触手から逃れる事も出来ず、震えていたのだ。
「言えた義理かと訊きたいところだが、犯人は生かして捕まえるのが基本だしな。
まあ、死んだ方が楽って事も世の中にはあるが……」
彼らはそれを真に受けたのか、引き攣った顔を向けて来た。
「じゃあ、いくか、直」
「そうだねえ」
直がのんびり言って、僕は触手を断ち斬った。
即座に跳んで来た札で上に跳ぶと、追いかけるように新たな触手が延びて来るので、それを斬り、天辺から本体を斬り下ろす。
2つになったそれはまだ動いていたので、各々を斬ると、それは黒い煙のような物になり、消えて行った。
「病院の危険物体、排除完了しました」
自衛隊員が報告している。
「美里。救護班のところで見てもらって来て。僕達はまだやる事があるから、ついて行ってやれないんだ」
「わかったわ。そんな心配そうな顔しないで。
ありがとう。
あら。千穂ちゃん」
「美里ちゃあん!」
千穂ちゃんが美里を見付けて、走って来た。
「じゃあ、千穂さん。美里を頼みます」
「OK!」
「2人共、また後でねえ」
僕と直はその場を後にして歩き出した。
「良かったよう」
「うん。色々、ありがとうな、直」
「何言ってんだよう。
それに驚いたねえ」
「ん?」
「怜の表情が読めるのって、司さんとボクくらいだったのに」
「ああ、そう言えば……」
「あはは!良かったよう。さあて。もうひと頑張りだねえ」
僕達は気合を入れ直した。
「怜!!」
直が必死の形相で僕を揺すっていた。
「あ、直。すまん。つい」
直はホッとしたように肩の力を抜いた。
「どうなった?」
「多分、恐ろしく強い神威が、恐ろしく広範囲に広がったと思うねえ」
「……まずいかな」
「……ゲリラ部隊は困るだろうけど、ボク達的には問題なしだねえ」
直は肩を竦めて、捕縛された形で白目を剥いて失神したゲリラ兵士をチラリと見た。
「ああ……まあ……」
「霊と霊がぶつかって想定外のこれを引き起こした所に神威も別の霊力もほかの霊も加わって、検証不可能だなんて、怖いよねえ」
直はそう言って、笑った。
まあ、いいか。
僕は表情を引き締めた。
「美里が取り込まれた。追う。直はこいつを結界で覆って引き留めておいてくれ」
「了解だよう。気を付けて。
念のため、札を持って行くかねえ」
結界とブースターだった。
「サンキュ」
僕はそれを受け取り、そこに飛び込んだ。
直は、結界でそれを覆った。念のために2重に。これ以上大きくも、移動もさせないためだ。
「直君!」
千穂が、走って来た。
「千穂ちゃん!無事だったんだねえ。優維は母さんの所かねえ?」
「ええ。美里ちゃんが入った検査室にあれがぶつかって、通り過ぎたら美里ちゃんの姿がなくって――!」
「大丈夫だよう。今、怜が行ったから。任せておけば向こうは大丈夫。美里を捕まえさえすれば、例えこいつが妨害したって、ボクが引っ張り出して見せるからねえ。
だから、千穂ちゃんは安全な所に避難しておいて欲しいねえ」
「わかった。私だって警察官よ、休職中でも。避難誘導の助けくらいはするわ」
千穂は笑って片手を上げ、小走りに、制服警官の方へ走って行った。
直は、それを見た。
それは動けないのでそれ以上のものを取り込めなくてイライラしているかのように、体を揺らして札を軋ませていた。
「怜。無事で帰って来てくれよねえ」
つながったパスを、強く意識せずにはいられなかった。
暗闇の中に、色々な意識があった。恐怖、怒り、悲しみ、畏れ、混乱――。
憑りついて飲み込もうとする絶望を退け、心配を避け、探す。
どこだ。
闇一色の中、ふっと、青紫色が視界をよぎる。
「何だ?」
そちらに意識を向けて視る。竜胆の花。
「美里か――!」
手を伸ばす。果てしなく遠いようにも、すぐそこのようにも感じられる、不可思議な空間だ。その指先に、暖かいものが触れる。
それを手繰り寄せるようにして、抱き込む。
「美里!?」
「怜!?ここどこよ!いきなり停電になったら、足元がふわふわしちゃって――!
何笑ってるのよう」
「いや。その様子だと大丈夫だな。ここを出てから、説明するよ」
僕は直との間につないだパスを強く意識した。
帰り道が、光る糸のような物で示されたように知覚される。
「さあ、帰ろうか」
僕達は、その糸を辿り始めた。
黒い何かを割って出て来るかのように、僕と美里は外へ出る。
「怜!」
「直、頼む」
「了解」
美里を直の方へ押しやり、それと向かい合う。
「直」
「ここで大人しくしててねえ」
直が背後で美里を結界で包んだのがわかった。
「さあ。逝こうか」
刀を出して、1歩踏み出す。それは、全体をブルブルと震わせて、札を引きちぎらんとしていた。
「何……ひいっ!?」
失神から醒めたゲリラ兵士が再び失神しそうになるのに、声をかける。
「起きてろよ。自分のしでかした事を見ておけ。いっそ、中に取り込まれて見ると分かりやすいか?1回体験してみるか?
返事が無いな。言葉がわからないか?」
韓国語、英語、台湾語、広東語、上海語、タイ語――。
「もういい!いいから!わかったから!早く何とかしてくれ!!」
それは、緩めた札の隙間から伸ばした触手を彼らの方へ伸ばしており、拘束されて転がされた彼らは、触手から逃れる事も出来ず、震えていたのだ。
「言えた義理かと訊きたいところだが、犯人は生かして捕まえるのが基本だしな。
まあ、死んだ方が楽って事も世の中にはあるが……」
彼らはそれを真に受けたのか、引き攣った顔を向けて来た。
「じゃあ、いくか、直」
「そうだねえ」
直がのんびり言って、僕は触手を断ち斬った。
即座に跳んで来た札で上に跳ぶと、追いかけるように新たな触手が延びて来るので、それを斬り、天辺から本体を斬り下ろす。
2つになったそれはまだ動いていたので、各々を斬ると、それは黒い煙のような物になり、消えて行った。
「病院の危険物体、排除完了しました」
自衛隊員が報告している。
「美里。救護班のところで見てもらって来て。僕達はまだやる事があるから、ついて行ってやれないんだ」
「わかったわ。そんな心配そうな顔しないで。
ありがとう。
あら。千穂ちゃん」
「美里ちゃあん!」
千穂ちゃんが美里を見付けて、走って来た。
「じゃあ、千穂さん。美里を頼みます」
「OK!」
「2人共、また後でねえ」
僕と直はその場を後にして歩き出した。
「良かったよう」
「うん。色々、ありがとうな、直」
「何言ってんだよう。
それに驚いたねえ」
「ん?」
「怜の表情が読めるのって、司さんとボクくらいだったのに」
「ああ、そう言えば……」
「あはは!良かったよう。さあて。もうひと頑張りだねえ」
僕達は気合を入れ直した。
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