体質が変わったので

JUN

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とおりゃんせ(1)七五三

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 羽織袴の凛々しい姿を見て、うん、と頷く。
「似合うぞ、敬。格好いい」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
 甥の敬も5歳になり、七五三のお参りだ。
 まずは写真館で写真だけを撮り、当日、貸衣装で神社へ行くのだ。
「えへへ」
 敬は嬉しそうに笑った。
 写真はもう写真館で撮ったが、それはそれ、今日は今日だ。冴子姉は、写真撮影に忙しい。
「こっち向いて、敬。シャキッと」
 注文をつけ、角度を変えたりして写真を撮る。
 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「冴子姉も兄ちゃんも、敬と一緒に撮らないのか?僕が撮るから」
「そうだな。じゃあ、頼む、怜」
 兄と冴子姉は敬の隣に並んで、本殿をバックに撮る。
 ああ。敬もいいが、兄ちゃんも格好いい。冴子姉もハンサムなタイプでスーツが似合うし。この写真、僕ももらおう。
 11月の土日にお参りをという人が多く、この神社でも敬のほかに8人いる。どの子も、写真館の写真ではスーツも撮るようだが、当日は和装が多いらしい。
 着慣れない着物に動きづらそうな子もいるし、チャンバラごっこをしたそうな子もいる。
 そんな子供達はまとめて、巫女さんに連れられ、祈祷の為に本殿に上がる。それに、居並ぶ親達が、カメラやビデオを向ける。
「敬も5歳か。早いなあ」
 しみじみと言うと、兄も、
「昨日の事みたいなのにな、生まれたの」
と言う。
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「怜も七五三、可愛かったぞ。千歳あめを半分くれて、その後あめにかぶりついたら、歯がくっついて涎まみれになって」
「ええー。それ、恥ずかしい」
「子供だからいいんだ」
 兄は笑った。
 子供達は並んだパイプ椅子に座って祈祷を受けるのだが、すでに落ち着きなくそわそわとしている子もいれば、不安そうに親の方を見ている子もいるし、じっと神主さんや巫女さんを見ている子もいる。
 敬は大人しく神主さんを見ていた。
 やがて祈祷が終わると、各々千歳あめの袋を貰って、また、並んで廊下をグルッと回って出て来る。
 が、不意に、何か気配がした。
「ん?何だ、これ」
「どうした、怜」
「何か、短く気配がした」
 僕と兄が、たちどころに緊張する。
 いつまでたっても子供達が出て来ないので、ほかの親達も、伸び上がって廊下の奥を覗き込んだりし始める。
 やがて、血相を変えた巫女が本殿に走り込んで、何かを神主に言い、神主も顔色を変えた。
「ちょっと行って来る」
 僕は本殿に近付き、小声で神主に話しかけた。
「陰陽課で霊能師の御崎です。何かありましたね。次元の穴、とか」
 神主と巫女は、息を呑んだ。
「あの、こちらに」
 言われ、子供達が通って行った通路を辿って行く。向こうからも神主と巫女が足早にやって来た。
 気配の残滓がある所で足を止めると、巫女は泣きそうな顔で言った。
「そこです。そこに陽炎みたいなものができて、そこに子供達が皆」
「わかりました。ちょっと行ってきます」
「は?」
「警察官の兄に説明したら、上手く混乱を避けるように説明できるはずですから」
 言って、次元の穴の痕跡を辿るように潜り込んだ。
 敬、今行くからな!待ってろよ!


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