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狼男(2)取り返す
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被害者の写真を見ながら、直が言う。
「狼男ねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「犬をけしかけて人を殺してるだけじゃないのかねえ」
「そう思うよな」
「おかしいよねえ」
僕達はどちらも、懐疑的だった。
「猟奇的事件である事には違いないけどね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「大体、変身している所そのものは誰も見ていないですよね」
「大きな犬か狼が食いつくところ、男が心臓を抜き取る所、この2点が主な目撃情報で、後は、いつの間にか近寄っていたとか、いつの間にかいなくなっていたとかだもんねえ」
「衝撃的な部分に目が行ってて、視野狭窄になっていたんだろうな。本当に変身するなら、ぼくだって見て見たいよね」
徳川さんは、少しウキウキとしている。
「捕まえたら、変身して見せてもらいたいな」
「……本当なら、興味はあるな」
「確かにねえ」
頑張ってみることになった。
被害者はこれまでに3人。レストラン経営者の飯島さん、バー経営者の美作さん、画家の末野さん。
3人は同じ大学の登山同好会の仲間だ。
仲の良かった会員はあと2人いるので、その2人に会いに行ってみる事にした。
ウェブデザインの会社を経営している里中さんと、内科医院の医師である桐生さんだ。
桐生さんが地方に学会で出かけていると言うので、里中さんからだ。
「桐生さんは実家の医院を継いだけど、飯島さんも美作さんも里中さんも卒業後すぐに起業してるな」
「末野さんは留学したようだねえ」
「桐生さん以外は実家はそこまで資産家ってわけでもないのに、よくそんな資金があったな」
「レストランもバーも一等地だし、末野さんは寸前まで普通に就職する予定だったのを、いきなり趣味の油絵で留学したしねえ。
卒業前に、何かあったかねえ」
言いながら、里中さんの家に行く。
3階建ての家で、ガレージになっている1階には、外車が4台と高級国産車が2台とまっているのが見えた。
その時、フッと霊の気配がした。
「まさか……?」
緊急事態だと、門を開けて入ろうとするのだが、鍵がかかっていて、門が開かない。
「怜!」
直の札で内側に跳び、鍵を開けて建物へ急ぐ。
ガレージの床に男性が倒れ、喉笛から大量の血液を流しているのを見たのはその時だ。そのそばには簡素なつくりの服を着た男の霊がしゃがんでおり、胸に突っ込んだ手に赤黒い何かを掴んでそれを引き抜いた。
それから滴る血液が止まり、濡れた外観のそれが、乾いた赤い何かになる。
「お前は何者だ。何をしようとしている」
霊の男はこちらに顔を向け、足元に伏せた大型の犬か狼かの動物の霊を立たせながら、
「盗まれたものを取り返しただけだ」
と言い、唸り声を上げて体を低くして威嚇する動物と共に、スッと消えた。
「盗まれたもの?心臓が?」
直は肩を竦め、
「取り敢えず、男と狼は別々だったねえ」
と言った。
倒れているのは里中さんで、喉笛を食いちぎられ、心臓を抜かれ、生きているようには見えなかった。
電話を取り出しながら、
「あれ、古代の神官の服装だよねえ。狼の生存していた時代の神官って事かねえ?」
「こいつらどこかから、何かを盗み出したのかもな。だとしたら、ターゲットは後1人か?
ああ。面倒臭い事をして、全く」
溜め息が出た。
「狼男ねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「犬をけしかけて人を殺してるだけじゃないのかねえ」
「そう思うよな」
「おかしいよねえ」
僕達はどちらも、懐疑的だった。
「猟奇的事件である事には違いないけどね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「大体、変身している所そのものは誰も見ていないですよね」
「大きな犬か狼が食いつくところ、男が心臓を抜き取る所、この2点が主な目撃情報で、後は、いつの間にか近寄っていたとか、いつの間にかいなくなっていたとかだもんねえ」
「衝撃的な部分に目が行ってて、視野狭窄になっていたんだろうな。本当に変身するなら、ぼくだって見て見たいよね」
徳川さんは、少しウキウキとしている。
「捕まえたら、変身して見せてもらいたいな」
「……本当なら、興味はあるな」
「確かにねえ」
頑張ってみることになった。
被害者はこれまでに3人。レストラン経営者の飯島さん、バー経営者の美作さん、画家の末野さん。
3人は同じ大学の登山同好会の仲間だ。
仲の良かった会員はあと2人いるので、その2人に会いに行ってみる事にした。
ウェブデザインの会社を経営している里中さんと、内科医院の医師である桐生さんだ。
桐生さんが地方に学会で出かけていると言うので、里中さんからだ。
「桐生さんは実家の医院を継いだけど、飯島さんも美作さんも里中さんも卒業後すぐに起業してるな」
「末野さんは留学したようだねえ」
「桐生さん以外は実家はそこまで資産家ってわけでもないのに、よくそんな資金があったな」
「レストランもバーも一等地だし、末野さんは寸前まで普通に就職する予定だったのを、いきなり趣味の油絵で留学したしねえ。
卒業前に、何かあったかねえ」
言いながら、里中さんの家に行く。
3階建ての家で、ガレージになっている1階には、外車が4台と高級国産車が2台とまっているのが見えた。
その時、フッと霊の気配がした。
「まさか……?」
緊急事態だと、門を開けて入ろうとするのだが、鍵がかかっていて、門が開かない。
「怜!」
直の札で内側に跳び、鍵を開けて建物へ急ぐ。
ガレージの床に男性が倒れ、喉笛から大量の血液を流しているのを見たのはその時だ。そのそばには簡素なつくりの服を着た男の霊がしゃがんでおり、胸に突っ込んだ手に赤黒い何かを掴んでそれを引き抜いた。
それから滴る血液が止まり、濡れた外観のそれが、乾いた赤い何かになる。
「お前は何者だ。何をしようとしている」
霊の男はこちらに顔を向け、足元に伏せた大型の犬か狼かの動物の霊を立たせながら、
「盗まれたものを取り返しただけだ」
と言い、唸り声を上げて体を低くして威嚇する動物と共に、スッと消えた。
「盗まれたもの?心臓が?」
直は肩を竦め、
「取り敢えず、男と狼は別々だったねえ」
と言った。
倒れているのは里中さんで、喉笛を食いちぎられ、心臓を抜かれ、生きているようには見えなかった。
電話を取り出しながら、
「あれ、古代の神官の服装だよねえ。狼の生存していた時代の神官って事かねえ?」
「こいつらどこかから、何かを盗み出したのかもな。だとしたら、ターゲットは後1人か?
ああ。面倒臭い事をして、全く」
溜め息が出た。
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