体質が変わったので

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選択(3)怒りの一撃

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 翌々日の朝、やけに機嫌のいい筧から
「心配させたな。佐和子も礼を言っていた。ありがとう。
 まあ、何だ。お前達は男だが、いい奴だ」
と、筧としては最大級であろう礼を受け取った。
「どういたしまして。それにしても、筧らしいなあ」
「そうだねえ」
 明らかに照れまくりの筧は、ちょっとこっちを睨んで、自分の部屋に向かった。
 昼休みには城北から礼の電話が入り、まあ、話し合いができて、筧も落ち着いたようで安心した。
 と思っていたら、数日後、筧が飛び込んで来た。そして、
「ちょっと来て」
と言うなり、僕と直を強制連行して行く。
 焦った顔の課員達に見送られて外に行くと、佐和子さんがいた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
 挨拶をしていると、筧がイライラと乱入してくる。
「そんなのいいから。
 あのね、見合いはしたの。断ったけど」
「そうなんだあ」
「だけど、相手の男が、勝手に婚約したと言い張って付きまとって来るのよ!」
「ストーカーって事か?」
「そう!恋人がいるって言うにも、私が女だから向こうは信じないし。だから腹が立つけど、あんた達のどっちかが恋人だって言い張って納得させてくれない?」
「待て。僕は無理だ」
「……まあね。美里様と結婚した事は、一般人で名前を明らかにしていないとは言え、心霊特番でお馴染みの霊能師という事で、言ってるも同然だしね。
 じゃあ、直で」
「いやいやいや。うちの千穂ちゃんや優維の事がばれたらどうなるかねえ」
「ほかの独身連中に言えば?」
「男は嫌」
「僕も直も男だぞ」
「あんた達はいいの。男にしてはいいやつだから」
「それはどうも」
 頭が痛くなってきた。
「その相手に、その気にはなれないともう1度言って、それでだめなら、ストーカー事案として普通に処理したらいいんじゃないのか?」
「その過程で、佐和子が同性愛者ってばれるでしょう。佐和子は職場や親にカミングアウトしてないんだから」
 そういう事か。
 皆で、唸った。
「とにかく、その相手ってのはどんな奴だ?」
長野良一ながのりょういち、30歳。両親と姉が1人いたけど、姉は見合いの翌日事故で即死。
 趣味はアイドルグループの追っかけとアイドルのフィギュア制作。見合いの時はあまり気がなさそうで、断っても『あ、そう』という感じだったのに、姉の死後、態度が急変。佐和子の親にも勝手に連絡して、式の予定とか決める勢いだって」
 メモ帳を見ながら筧が言う。
「いつもどこかから見てるんですよ。今も撒くのに、女子トイレとか婦人用下着屋とかを通って、カーディガンも用意したりして来たんです」
 佐和子さんが、ビクビクしながら言う。
 そして、
「あ!」
と、声を上げて固まった。
 そちらを見ると、女の霊を憑けた男が立っていた。
「憑いてるなあ」
「憑いてるねえ」
 佐和子さんを、筧はかばうようにして立った。
「佐和子。帰ろう?式の日取りも決めないと」
 長野さんは言って近付いて来るが、表情が無い。
「ああ。操られてるんだな」
「誰かな。お姉さん?それとも、仲人したがりの人とかかねえ?」
 女は驚いたように僕と直を見て、長野さんは足を止めた。
「あなたは、どちら様ですか」
 女は振り返り、それから、自分を指さした。僕と直が頷くと、
「長野良一の姉の、美知留みちるです。驚いたわ」
と言う。
「良一さんは、お付き合いをお断りしたのを納得したのに、あなたが付きまとわせているんですか」
 美知留さんは、相変わらずぼんやりとしたままの良一さんに後ろから抱きつくようにして言う。
「アイドルばっかり追いかけて、このままじゃ困るわ。だから、結婚させようと思って」
「本人は無視ですかねえ?このままでは、良一さんがストーカー扱いされて逮捕されるだけですが」
「結婚したらどうにかなるわよ」
「そんな、乱暴だねえ」
 霊も見えず、声も聞こえていない筧と佐和子さんはわけがわからないようだったが、筧がキレた。
「何かいるの?もういい。どうでもいい。そいつをぶっ飛ばす」
 据わった目で一歩を踏み出す筧を、3人で必死で止める。
「だめだめだめ!空手のチャンプが何言ってんの!」
「落ち着け、ねえ」
「夏海ちゃん、落ち着いて!」
「いいか、筧。こいつには姉が憑りついていて、弟の行く末が心配でおせっかいをしてるんだ。姉を祓えば丸く収まる」
「佐和子を怖がらせた罪は重いわ」
「死ぬから!筧の一発で人は死ぬんだよう!」
「やめて、夏海ちゃん!」
「おちつけ。今から霊を引き剥がして実体化させる。もう死んでるから、遠慮しなくていい。そっちをやれ」
「ウス!」
 力強く筧が吠え、腰を落として拳を固めた。
「こ、怖いねえ」
 腰が引ける。
「な、何?何なの?」
 美知留さんも、不穏な空気に不安を感じているようだ。霊をビビらせるとは。
 浄力をポンと当てて、良一さんから美知留さんを剥がす。それを間髪入れず直が実体化させ、フラフラと崩れる良一さんを、引きずってそこから離した。
 気合の入った蹴りが、きれいに美知留さんを直撃する。
「うわお。容赦、まったくなしだねえ」
 美知留さんは、悲鳴を上げる事もできずに吹っ飛ぶ。人なら、間違いなく死んでいる。
「い、逝きましょうか。弟さんの人生は、弟さんが何とかしないと」
 何か言おうとしているようだが、顎が砕けているし、立つ事もできないらしい。
 ちょっと気の毒かとも思うが、自業自得だ。僕は浄力を当てて祓った。
「んん?ここは……?」
 目を醒ました良一さんは、キョロキョロとした。
「警視庁?何で?あれ。見合いの、何とかさん」
 名前すら覚えていないくらい、本人はどうでも良かったのか。
「あ、どうも」
 複雑そうな佐和子さんとは対照的に、上機嫌の筧は、ニイッと笑った。
「暑くなってきたから、熱中症じゃないですか」
「ああ、そうかも……」
「コンビニ、ありますよ」
「ご親切に、どうも」
 良一は立って近くのコンビニに近付き、ポスターに目を留めた。
「ん?ナナちゃんの限定ライブの予約受付中!?おかしい、いつの間に!?急がなくっちゃ!!」
 叫んで、中へ飛び込んで行った。
 それを僕達は呆然と見送る。
「何て言うか、心配ないな」
「あの様子じゃ、ナナちゃんでいっぱいだねえ」
「良かった!」
「はあ。その、ありがとうございました」
 佐和子さんが複雑そうな顔をしているが、何となく気持ちはわかる。
「まあ、良かったよ。
 さあ、今のうちに撤収、撤収」
 そして、そそくさとその場を後にした。






 
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