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選択(1)緊急指令
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そろそろ暑くなる6月の空を見上げ、
「冷麺が美味しくなってきたな」
などと、僕と直は話していた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「もう、アイス食べちゃったよう、ボク」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「アイスかあ。去年はかき氷系が多かったなあ」
「かき氷はいいよねえ。汗が引くのは、クリームよりもかき氷だよねえ」
呑気に、イチゴがいいか、メロンがいいか、ブルーハワイって何味だ、と話していると、同期の城北が飛び込んで来た。
「あ、怜、直」
「城北。なあ、ブルーハワイって何味?あと、昔味って何味だと思う?」
訊くと、城北はキレ気味に、
「そんなのどうでもいい!」
と怒鳴って、机にドンと手を突いた。
「何だ、何だ?」
「あのゴリラ女を何とかしてくれ!」
僕と直は、顔を見合わせた。
「ひょっとして、筧の事かねえ?」
「ほかに誰がいる?」
「いやあ、その呼び方はまずいぞ」
「でも、一発で通じたじゃないか」
まあなあ。藪蛇になる前に、話を戻そう。
「で、筧がどうしたって?」
城北は顔を歪めた。
「どうもこうも……。
突然イライラとしたかと思えば、般若のような顔になって、『付き合え』と有無を言わさず道場に引っ張って行かれて、ストレス発散のように暴れまくられるんだよ。
逃げてたら、道場で顔を合わせてしまった生贄がそんな目に合わされて、『同期だろ、お前がやれよ』と。
でも、あんなのに付き合ってたら、1週間で私は死ぬ。
なあ、訳を訊き出して何とかしてくれ。同期のメンバーで、困った時はお前らだろ」
「え!?苦情処理係か!?」
「一番頼りになるのは、何だかんだ言って学校時代からお前らじゃないか!」
「ええー……」
絶句したが、考える。
「まあ、気になる事は気になるな。それに、そっちで暴れる相手がいなくなったら、こっちに来そうだし」
「そうだねえ。訊いてみようかねえ」
城北はホッとしたように肩の力を抜き、
「良かった。頼む」
と、涙まで浮かべた。どれだけ辛かったんだ。
というわけで、僕と直は、怒れる女空手チャンピオンの凶暴化の原因を突き止めるという緊急指令を受けたのだった。
道場に行ってみる。
昼休みに少し稽古をという人がいるのだが、閑散としていた。筧のせいだろう。その筧は、目を吊り上げて、1人黙々と型の練習をしていた。
「よう!」
筧が顔を上げる。
「練習しに来たのではなさそうね」
「まあねえ」
「大方、泣きついたんでしょう?情けない。これだから男は」
言って、自分の言葉で益々怒りが増したように激しく型を繰り出し始めた。
「筧、八つ当たり気味にやるな。丁寧にやった方が、お前らしくてきれいなフォームだぞ」
「フン!」
不機嫌丸出しながらも、練習は終えたようだ。
「何があったのかねえ?喋るだけでも、整理できたりするんだけどねえ」
筧はしばらく迷っていたようだが、
「着替えて来る。
今日、退社後に、ちょっといい?」
と訊く。
「OK。飲むか?」
「3人で」
「わかったねえ。じゃあ、場所とかはまた電話でねえ」
筧が更衣室へ向かうと、ドアの外から様子を窺っていた警察官数名が、両手を合わせて来た。
「筧よ……おまえ、どれだけ暴れたんだ……」
僕と直は、組み手に付き合えと言われなくて良かったと、胸を撫で下ろした。
「冷麺が美味しくなってきたな」
などと、僕と直は話していた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「もう、アイス食べちゃったよう、ボク」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「アイスかあ。去年はかき氷系が多かったなあ」
「かき氷はいいよねえ。汗が引くのは、クリームよりもかき氷だよねえ」
呑気に、イチゴがいいか、メロンがいいか、ブルーハワイって何味だ、と話していると、同期の城北が飛び込んで来た。
「あ、怜、直」
「城北。なあ、ブルーハワイって何味?あと、昔味って何味だと思う?」
訊くと、城北はキレ気味に、
「そんなのどうでもいい!」
と怒鳴って、机にドンと手を突いた。
「何だ、何だ?」
「あのゴリラ女を何とかしてくれ!」
僕と直は、顔を見合わせた。
「ひょっとして、筧の事かねえ?」
「ほかに誰がいる?」
「いやあ、その呼び方はまずいぞ」
「でも、一発で通じたじゃないか」
まあなあ。藪蛇になる前に、話を戻そう。
「で、筧がどうしたって?」
城北は顔を歪めた。
「どうもこうも……。
突然イライラとしたかと思えば、般若のような顔になって、『付き合え』と有無を言わさず道場に引っ張って行かれて、ストレス発散のように暴れまくられるんだよ。
逃げてたら、道場で顔を合わせてしまった生贄がそんな目に合わされて、『同期だろ、お前がやれよ』と。
でも、あんなのに付き合ってたら、1週間で私は死ぬ。
なあ、訳を訊き出して何とかしてくれ。同期のメンバーで、困った時はお前らだろ」
「え!?苦情処理係か!?」
「一番頼りになるのは、何だかんだ言って学校時代からお前らじゃないか!」
「ええー……」
絶句したが、考える。
「まあ、気になる事は気になるな。それに、そっちで暴れる相手がいなくなったら、こっちに来そうだし」
「そうだねえ。訊いてみようかねえ」
城北はホッとしたように肩の力を抜き、
「良かった。頼む」
と、涙まで浮かべた。どれだけ辛かったんだ。
というわけで、僕と直は、怒れる女空手チャンピオンの凶暴化の原因を突き止めるという緊急指令を受けたのだった。
道場に行ってみる。
昼休みに少し稽古をという人がいるのだが、閑散としていた。筧のせいだろう。その筧は、目を吊り上げて、1人黙々と型の練習をしていた。
「よう!」
筧が顔を上げる。
「練習しに来たのではなさそうね」
「まあねえ」
「大方、泣きついたんでしょう?情けない。これだから男は」
言って、自分の言葉で益々怒りが増したように激しく型を繰り出し始めた。
「筧、八つ当たり気味にやるな。丁寧にやった方が、お前らしくてきれいなフォームだぞ」
「フン!」
不機嫌丸出しながらも、練習は終えたようだ。
「何があったのかねえ?喋るだけでも、整理できたりするんだけどねえ」
筧はしばらく迷っていたようだが、
「着替えて来る。
今日、退社後に、ちょっといい?」
と訊く。
「OK。飲むか?」
「3人で」
「わかったねえ。じゃあ、場所とかはまた電話でねえ」
筧が更衣室へ向かうと、ドアの外から様子を窺っていた警察官数名が、両手を合わせて来た。
「筧よ……おまえ、どれだけ暴れたんだ……」
僕と直は、組み手に付き合えと言われなくて良かったと、胸を撫で下ろした。
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