639 / 1,046
被殺人計画(4)慰霊祭
しおりを挟む
仁川さんの亡くなったマンションの敷地内に祭壇が設けられ、遺族、僕、直、徳川さん、刑事課の数人、美里、保険会社からは楓太郎を含めた3人、仁川さんの勤めていた会社の上司等が8人。それに、遺族、マンションオーナー、目撃者3人、住人有志20名ほど。それが出席者だった。
敷地外には、記者やレポーターがズラリと並んでいる。
「申し訳ありません」
遺族である妻の早栄子さんと娘の加奈さんが、小さくなりながら頭を下げて回っている。
美里は黙ってパイプ椅子に座っていた。
「美里、くれぐれもーー」
「わかってるわよ。むやみにケンカを売ったりしないわよ」
「……理由があれば売るんだ」
「……」
目を逸らした。
その時、時間になったとオーナーが告げ、僧侶が5人、祭壇の前に現れた。
チラッとこちらを見る。かなり霊能師を意識しているようだ。別に、競合するわけでもないし、張り合う気も無いから、普通にしてくれればいいのに、と思う。
キンキラの袈裟に色んな仏具を持って登場し、果物や花の飾られた立派な祭壇の前の綺麗な椅子に座って、慰霊祭は始まった。
花弁の色と形の紙を撒き、楽器のように法具を鳴らしながら経を唱える。
仏教の慰霊祭と言うのはこういう段取りでやるものなのかと、数珠を片手にパイプ椅子に座りながらそれを眺めていた。
仁川さんは少し前から近くにいるが、表情を変えず、その様子をただ見ていた。
慰霊祭でどう変化するのか興味があったのだが、どうも、変化は見られないかも知れない。
順番に焼香をする段になって、まずは遺族が焼香をした。仁川さんは悲しそうな顔をしていた。
次に会社の人が焼香をする。仁川さんは、数人には申し訳なさそうに頭を下げていたが、他の数人にはとり殺しそうな目つきを向けていた。
次は保険会社の社員だったが、仁川さんは、怒りを必死に抑えようとしているようだった。まあ、自殺という警察の判断に従って処理しただけと、理性が働いているのか。
次は警察関係者だったが、ここで、仁川さんが怒りをあらわにした。
冷気が漂い始め、一般人にもそれがわかるくらいに気配が高まる。
ここで僧侶は読経をやめ、腰を浮かせてキョロキョロとした。
「見当違いの方を見てるなあ。
こっちですよ、こっち」
「え?」
「仁川さん、ずっと最初からここで見てましたよねえ」
僕と直が親切心で教えてあげたら、僧侶は物凄い目で睨んで来た。
「いや、後ろからやられたら危ないし。なあ?」
「だよねえ」
その間にも、仁川さんは恨みを大きく募らせ、実体化し始める。
皆、仁川さんから距離を取るように離れ、僧侶は朗々と経文を唱え始めた。
が、効いている様子はない。
「交代したら失礼なのか?」
「メンツもあるだろうしねえ」
言いながらオーナーに目をやると、オーナーは実家からの僧侶の背後にいたが、危険と見たか、僕達の背後に逃げて来た。
残してやりたかったのに
自殺じゃだめなのに
早栄子さんと加奈さんは、オロオロと仁川さんに目を向けている。
「やめて、あなた!」
「お父さん!」
余計な事をしやがって
「仁川さん。話をしましょう」
言うと、仁川さんがこちらを向いた。そして何か言いかけたが、読経がひたすらうるさい。
仁川さんもそう思ったのか、
うるさい!
と僧侶に怒鳴って、黙らせた。
「仁川さん。あなたは奥さんとお嬢さんに、保険金を残したかったんですよね」
そうだ
なのに、警察が
そこで、大人しくしていた美里が傲然と胸を張った。僕の後ろで。
「八つ当たりしてるだけじゃないの」
皆が、ギョッとしたように美里を見た。
「警察のせいだと言って警察官に嫌がらせして、目撃者や保険会社に嫌がらせして。私達なんて、別に捜査にタッチしてないのにおかしいでしょ」
陰陽課で知ってるのがその2人で
「言い訳ばかりね。
妻子の為って言うんなら、生きてどうにかしなさいよ。保険金を逃げる言い訳にするんじゃないわ」
何も、何も知らないくせに!
誰にも大して迷惑をかけないだろう!?
大した額でもないのに!
僕は頭痛をこらえて、美里を背後に隠した。
「心情的にはわかりますが、それを通すわけにはいかないんです。
例えば、いもしない犯人をずっと捜しまわる警察官は?もし誰かが犯人だと疑われてしまったら?支払われる保険金は正当なものか?
それは、サギだ。あなたを苦しめた、憎むべき犯罪で得たお金だ。それをあなたは奥さんとお嬢さんに渡すというのか?」
あああああ――!!
「あなた、もうやめて、お願いだから!」
「お父さん、どうして死んじゃったの!?私、公立でいいのに!お父さんがいてくれた方がいいのに!高校も、奨学金だってあるのに!」
早栄子さんと加奈さんが、叫ぶように言うが、もうその声は届かないようだ。仁川さんは叫び、嘆き、恨み、
オマエノセイダ!
コロシテヤル!
ミチヅレニシテヤル!
と言いながら、手あたり次第と言う感じで、腕を振るい出した。
「だめか。奥さん。もう、祓うしかありません」
「……悲しみを終わらせてやって下さい」
「お父さんを、優しいお父さんに戻して」
「……わかりました。
直、頼む。楓太郎!皆を直の結界で囲む。集める手助けをしてくれ!」
「はい、怜先輩!直先輩!」
「了解だねえ。美里もこっちに」
皆が直と楓太郎の指示で動き出す気配を背中に感じながら、右手に刀を出す。
「遺族の前で、あんまりやりたくはないが……逝こうか」
僕は、鬼と化した仁川さんに向かって足を踏み出した。
敷地外には、記者やレポーターがズラリと並んでいる。
「申し訳ありません」
遺族である妻の早栄子さんと娘の加奈さんが、小さくなりながら頭を下げて回っている。
美里は黙ってパイプ椅子に座っていた。
「美里、くれぐれもーー」
「わかってるわよ。むやみにケンカを売ったりしないわよ」
「……理由があれば売るんだ」
「……」
目を逸らした。
その時、時間になったとオーナーが告げ、僧侶が5人、祭壇の前に現れた。
チラッとこちらを見る。かなり霊能師を意識しているようだ。別に、競合するわけでもないし、張り合う気も無いから、普通にしてくれればいいのに、と思う。
キンキラの袈裟に色んな仏具を持って登場し、果物や花の飾られた立派な祭壇の前の綺麗な椅子に座って、慰霊祭は始まった。
花弁の色と形の紙を撒き、楽器のように法具を鳴らしながら経を唱える。
仏教の慰霊祭と言うのはこういう段取りでやるものなのかと、数珠を片手にパイプ椅子に座りながらそれを眺めていた。
仁川さんは少し前から近くにいるが、表情を変えず、その様子をただ見ていた。
慰霊祭でどう変化するのか興味があったのだが、どうも、変化は見られないかも知れない。
順番に焼香をする段になって、まずは遺族が焼香をした。仁川さんは悲しそうな顔をしていた。
次に会社の人が焼香をする。仁川さんは、数人には申し訳なさそうに頭を下げていたが、他の数人にはとり殺しそうな目つきを向けていた。
次は保険会社の社員だったが、仁川さんは、怒りを必死に抑えようとしているようだった。まあ、自殺という警察の判断に従って処理しただけと、理性が働いているのか。
次は警察関係者だったが、ここで、仁川さんが怒りをあらわにした。
冷気が漂い始め、一般人にもそれがわかるくらいに気配が高まる。
ここで僧侶は読経をやめ、腰を浮かせてキョロキョロとした。
「見当違いの方を見てるなあ。
こっちですよ、こっち」
「え?」
「仁川さん、ずっと最初からここで見てましたよねえ」
僕と直が親切心で教えてあげたら、僧侶は物凄い目で睨んで来た。
「いや、後ろからやられたら危ないし。なあ?」
「だよねえ」
その間にも、仁川さんは恨みを大きく募らせ、実体化し始める。
皆、仁川さんから距離を取るように離れ、僧侶は朗々と経文を唱え始めた。
が、効いている様子はない。
「交代したら失礼なのか?」
「メンツもあるだろうしねえ」
言いながらオーナーに目をやると、オーナーは実家からの僧侶の背後にいたが、危険と見たか、僕達の背後に逃げて来た。
残してやりたかったのに
自殺じゃだめなのに
早栄子さんと加奈さんは、オロオロと仁川さんに目を向けている。
「やめて、あなた!」
「お父さん!」
余計な事をしやがって
「仁川さん。話をしましょう」
言うと、仁川さんがこちらを向いた。そして何か言いかけたが、読経がひたすらうるさい。
仁川さんもそう思ったのか、
うるさい!
と僧侶に怒鳴って、黙らせた。
「仁川さん。あなたは奥さんとお嬢さんに、保険金を残したかったんですよね」
そうだ
なのに、警察が
そこで、大人しくしていた美里が傲然と胸を張った。僕の後ろで。
「八つ当たりしてるだけじゃないの」
皆が、ギョッとしたように美里を見た。
「警察のせいだと言って警察官に嫌がらせして、目撃者や保険会社に嫌がらせして。私達なんて、別に捜査にタッチしてないのにおかしいでしょ」
陰陽課で知ってるのがその2人で
「言い訳ばかりね。
妻子の為って言うんなら、生きてどうにかしなさいよ。保険金を逃げる言い訳にするんじゃないわ」
何も、何も知らないくせに!
誰にも大して迷惑をかけないだろう!?
大した額でもないのに!
僕は頭痛をこらえて、美里を背後に隠した。
「心情的にはわかりますが、それを通すわけにはいかないんです。
例えば、いもしない犯人をずっと捜しまわる警察官は?もし誰かが犯人だと疑われてしまったら?支払われる保険金は正当なものか?
それは、サギだ。あなたを苦しめた、憎むべき犯罪で得たお金だ。それをあなたは奥さんとお嬢さんに渡すというのか?」
あああああ――!!
「あなた、もうやめて、お願いだから!」
「お父さん、どうして死んじゃったの!?私、公立でいいのに!お父さんがいてくれた方がいいのに!高校も、奨学金だってあるのに!」
早栄子さんと加奈さんが、叫ぶように言うが、もうその声は届かないようだ。仁川さんは叫び、嘆き、恨み、
オマエノセイダ!
コロシテヤル!
ミチヅレニシテヤル!
と言いながら、手あたり次第と言う感じで、腕を振るい出した。
「だめか。奥さん。もう、祓うしかありません」
「……悲しみを終わらせてやって下さい」
「お父さんを、優しいお父さんに戻して」
「……わかりました。
直、頼む。楓太郎!皆を直の結界で囲む。集める手助けをしてくれ!」
「はい、怜先輩!直先輩!」
「了解だねえ。美里もこっちに」
皆が直と楓太郎の指示で動き出す気配を背中に感じながら、右手に刀を出す。
「遺族の前で、あんまりやりたくはないが……逝こうか」
僕は、鬼と化した仁川さんに向かって足を踏み出した。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる