体質が変わったので

JUN

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被殺人計画(4)慰霊祭

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 仁川さんの亡くなったマンションの敷地内に祭壇が設けられ、遺族、僕、直、徳川さん、刑事課の数人、美里、保険会社からは楓太郎を含めた3人、仁川さんの勤めていた会社の上司等が8人。それに、遺族、マンションオーナー、目撃者3人、住人有志20名ほど。それが出席者だった。
 敷地外には、記者やレポーターがズラリと並んでいる。
「申し訳ありません」
 遺族である妻の早栄子さんと娘の加奈さんが、小さくなりながら頭を下げて回っている。
 美里は黙ってパイプ椅子に座っていた。
「美里、くれぐれもーー」
「わかってるわよ。むやみにケンカを売ったりしないわよ」
「……理由があれば売るんだ」
「……」
 目を逸らした。
 その時、時間になったとオーナーが告げ、僧侶が5人、祭壇の前に現れた。
 チラッとこちらを見る。かなり霊能師を意識しているようだ。別に、競合するわけでもないし、張り合う気も無いから、普通にしてくれればいいのに、と思う。
 キンキラの袈裟に色んな仏具を持って登場し、果物や花の飾られた立派な祭壇の前の綺麗な椅子に座って、慰霊祭は始まった。
 花弁の色と形の紙を撒き、楽器のように法具を鳴らしながら経を唱える。
 仏教の慰霊祭と言うのはこういう段取りでやるものなのかと、数珠を片手にパイプ椅子に座りながらそれを眺めていた。
 仁川さんは少し前から近くにいるが、表情を変えず、その様子をただ見ていた。
 慰霊祭でどう変化するのか興味があったのだが、どうも、変化は見られないかも知れない。
 順番に焼香をする段になって、まずは遺族が焼香をした。仁川さんは悲しそうな顔をしていた。
 次に会社の人が焼香をする。仁川さんは、数人には申し訳なさそうに頭を下げていたが、他の数人にはとり殺しそうな目つきを向けていた。
 次は保険会社の社員だったが、仁川さんは、怒りを必死に抑えようとしているようだった。まあ、自殺という警察の判断に従って処理しただけと、理性が働いているのか。
 次は警察関係者だったが、ここで、仁川さんが怒りをあらわにした。
 冷気が漂い始め、一般人にもそれがわかるくらいに気配が高まる。
 ここで僧侶は読経をやめ、腰を浮かせてキョロキョロとした。
「見当違いの方を見てるなあ。
 こっちですよ、こっち」
「え?」
「仁川さん、ずっと最初からここで見てましたよねえ」
 僕と直が親切心で教えてあげたら、僧侶は物凄い目で睨んで来た。
「いや、後ろからやられたら危ないし。なあ?」
「だよねえ」
 その間にも、仁川さんは恨みを大きく募らせ、実体化し始める。
 皆、仁川さんから距離を取るように離れ、僧侶は朗々と経文を唱え始めた。
 が、効いている様子はない。
「交代したら失礼なのか?」
「メンツもあるだろうしねえ」
 言いながらオーナーに目をやると、オーナーは実家からの僧侶の背後にいたが、危険と見たか、僕達の背後に逃げて来た。

     残してやりたかったのに
     自殺じゃだめなのに

 早栄子さんと加奈さんは、オロオロと仁川さんに目を向けている。
「やめて、あなた!」
「お父さん!」

     余計な事をしやがって

「仁川さん。話をしましょう」
 言うと、仁川さんがこちらを向いた。そして何か言いかけたが、読経がひたすらうるさい。
 仁川さんもそう思ったのか、

     うるさい!

 と僧侶に怒鳴って、黙らせた。
「仁川さん。あなたは奥さんとお嬢さんに、保険金を残したかったんですよね」

     そうだ
     なのに、警察が

 そこで、大人しくしていた美里が傲然と胸を張った。僕の後ろで。
「八つ当たりしてるだけじゃないの」
 皆が、ギョッとしたように美里を見た。
「警察のせいだと言って警察官に嫌がらせして、目撃者や保険会社に嫌がらせして。私達なんて、別に捜査にタッチしてないのにおかしいでしょ」

     陰陽課で知ってるのがその2人で

「言い訳ばかりね。
 妻子の為って言うんなら、生きてどうにかしなさいよ。保険金を逃げる言い訳にするんじゃないわ」

     何も、何も知らないくせに!
     誰にも大して迷惑をかけないだろう!?
     大した額でもないのに!

 僕は頭痛をこらえて、美里を背後に隠した。
「心情的にはわかりますが、それを通すわけにはいかないんです。
 例えば、いもしない犯人をずっと捜しまわる警察官は?もし誰かが犯人だと疑われてしまったら?支払われる保険金は正当なものか?
 それは、サギだ。あなたを苦しめた、憎むべき犯罪で得たお金だ。それをあなたは奥さんとお嬢さんに渡すというのか?」

     あああああ――!!

「あなた、もうやめて、お願いだから!」
「お父さん、どうして死んじゃったの!?私、公立でいいのに!お父さんがいてくれた方がいいのに!高校も、奨学金だってあるのに!」
 早栄子さんと加奈さんが、叫ぶように言うが、もうその声は届かないようだ。仁川さんは叫び、嘆き、恨み、

     オマエノセイダ!
     コロシテヤル!
     ミチヅレニシテヤル!

と言いながら、手あたり次第と言う感じで、腕を振るい出した。
「だめか。奥さん。もう、祓うしかありません」
「……悲しみを終わらせてやって下さい」
「お父さんを、優しいお父さんに戻して」
「……わかりました。
 直、頼む。楓太郎!皆を直の結界で囲む。集める手助けをしてくれ!」
「はい、怜先輩!直先輩!」
「了解だねえ。美里もこっちに」
 皆が直と楓太郎の指示で動き出す気配を背中に感じながら、右手に刀を出す。
「遺族の前で、あんまりやりたくはないが……逝こうか」
 僕は、鬼と化した仁川さんに向かって足を踏み出した。


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