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肉まん(3)まだまだあるのよ、材料は
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僕と直は、会社、松園の昔の家、父親と視て回り、どこにも松園さんがいない事を確認した。
「近くに、幽霊の目撃談が出始めたところもないしねえ」
「成仏したのかなあ」
会社ビルを見る。葬儀会社で、この本社ビルにある営業部に、営業事務として松園さんは勤務していた。所河は営業マン、由佐さんは営業事務だ。
エンバーミングや骨を人工ダイヤにしたりという事も行っているらしく、他にも、プロメッションという、人を文字通り土に返すという方法も行っているそうだ。今や死後の処理も様々だ。
新恋人の由佐さんの事を含め、松園さんと所河が付き合っている事は、誰も知らなかった。知っていたのは、アパートの隣の部屋に住む住人だけだ。
ましてや所河がDVをしているというのは、この住人の推測だけだ。
どうも捜査しにくい。
「由佐さんがDV被害に合わないように、それも気を付けていた方がよさそうだしな。何とも、面倒臭い」
「松園さんの遺体はどこかねえ」
ふと、嫌な事を思いついた。
「なあ、直。この会社、葬儀社だよな」
「そうだねえ。でも、火葬は勝手にできないよう」
「いや、火葬じゃない。プロメッションだ。遺体を液体窒素で凍結させたのちに粉砕して、生分解性の棺に入れて土の浅い所に埋めたら、バクテリアに分解されて腐葉土になるらしい。北欧で始まった新しいやり方だそうだ」
「この会社でもやってるのかねえ?」
「やっているらしい」
僕と直は、顔を見合わせた。
「……調べるには、令状がいるねえ」
「令状を取るだけの根拠が今の所ないんだよなあ、困った事に」
そのまま、困り果ててしまった。
「霊がいれば根拠になるのに」
「何が何でも探さないとダメってことかねえ」
どうしたものかと2人で唸っていると、由佐さんが会社から出て来た。
「ん?」
それに気付く。
「なあ、直。あれ」
「いるねえ」
僕と直は、由佐さんにくっついている霊に気付いた。
「すみません」
急いで近寄る僕達を由佐さんが振り返り、襟元のバッジに気付いて表情を硬くする。
「霊能師?」
「警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田ですう」
「あの子が見付かったの!?」
僕達は顔を見合わせた。
「あの子というのは、松園頌子さんの事ですか」
「そうです」
僕は、松園さんの関係資料を思い出していた。この人は――。
由佐は、今日も肉まんを持って所河の所へ行った。
「今日のはオイスター風味」
「熱っ、うん、はふっ、美味しいなあ」
所河は肉まんにかぶりついた。
「いつも悪いなあ。俺は嬉しいけど」
「いいのよ。材料は、まだまだいっぱいあるんだから。いっぱい食べてね」
由佐が笑う。
それを見て、一瞬所河は凍り付いた。
「あら。どうしたの?」
「え、あ、いや」
慌てて取り繕う。まさか、由佐が一瞬頌子に見えたなんて言えやしない。
「手作り肉まんをこんなに毎回、大変じゃないか?」
「大丈夫よ。あなた、肉まん好きでしょう?材料もたくさんある事だし。ねえ」
ゾクリとした。
ふと、所河は気付いた。肉まんが好きだと、夏帆にいつ言った?
急に怖くなってきた。どうして肉まんが好きだと知っている?どうして頌子に見間違えた?材料はたくさんあるってどういう事だ?
まさか……。
「あら。顔色が悪いわ。どうかしたの?」
「え!?い、いや。ああ、風邪かも。移ったらいけないし、来たところで悪いけど、今日はもう帰った方がいいかも」
「そう?1人で大丈夫?」
「だだ大丈夫!今から大人しく寝てるよ!1晩寝たら治るよ!」
所河はどうにかこうにか由佐を追い出し、皆が退社する時間を待って、家を出た。
「頌子……いや、まさか、そんなばかな事が……」
生きた心地がしないまま、会社を目指したのだった。
捜査車両の中で、ホットコーヒーの缶とカイロと肉まんで暖を取っていた僕達は、動き出した所河に、静かに興奮した。
「動き出したよう」
「成功、成功」
さあ、次の段階だ。
逃がすものか。
「近くに、幽霊の目撃談が出始めたところもないしねえ」
「成仏したのかなあ」
会社ビルを見る。葬儀会社で、この本社ビルにある営業部に、営業事務として松園さんは勤務していた。所河は営業マン、由佐さんは営業事務だ。
エンバーミングや骨を人工ダイヤにしたりという事も行っているらしく、他にも、プロメッションという、人を文字通り土に返すという方法も行っているそうだ。今や死後の処理も様々だ。
新恋人の由佐さんの事を含め、松園さんと所河が付き合っている事は、誰も知らなかった。知っていたのは、アパートの隣の部屋に住む住人だけだ。
ましてや所河がDVをしているというのは、この住人の推測だけだ。
どうも捜査しにくい。
「由佐さんがDV被害に合わないように、それも気を付けていた方がよさそうだしな。何とも、面倒臭い」
「松園さんの遺体はどこかねえ」
ふと、嫌な事を思いついた。
「なあ、直。この会社、葬儀社だよな」
「そうだねえ。でも、火葬は勝手にできないよう」
「いや、火葬じゃない。プロメッションだ。遺体を液体窒素で凍結させたのちに粉砕して、生分解性の棺に入れて土の浅い所に埋めたら、バクテリアに分解されて腐葉土になるらしい。北欧で始まった新しいやり方だそうだ」
「この会社でもやってるのかねえ?」
「やっているらしい」
僕と直は、顔を見合わせた。
「……調べるには、令状がいるねえ」
「令状を取るだけの根拠が今の所ないんだよなあ、困った事に」
そのまま、困り果ててしまった。
「霊がいれば根拠になるのに」
「何が何でも探さないとダメってことかねえ」
どうしたものかと2人で唸っていると、由佐さんが会社から出て来た。
「ん?」
それに気付く。
「なあ、直。あれ」
「いるねえ」
僕と直は、由佐さんにくっついている霊に気付いた。
「すみません」
急いで近寄る僕達を由佐さんが振り返り、襟元のバッジに気付いて表情を硬くする。
「霊能師?」
「警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田ですう」
「あの子が見付かったの!?」
僕達は顔を見合わせた。
「あの子というのは、松園頌子さんの事ですか」
「そうです」
僕は、松園さんの関係資料を思い出していた。この人は――。
由佐は、今日も肉まんを持って所河の所へ行った。
「今日のはオイスター風味」
「熱っ、うん、はふっ、美味しいなあ」
所河は肉まんにかぶりついた。
「いつも悪いなあ。俺は嬉しいけど」
「いいのよ。材料は、まだまだいっぱいあるんだから。いっぱい食べてね」
由佐が笑う。
それを見て、一瞬所河は凍り付いた。
「あら。どうしたの?」
「え、あ、いや」
慌てて取り繕う。まさか、由佐が一瞬頌子に見えたなんて言えやしない。
「手作り肉まんをこんなに毎回、大変じゃないか?」
「大丈夫よ。あなた、肉まん好きでしょう?材料もたくさんある事だし。ねえ」
ゾクリとした。
ふと、所河は気付いた。肉まんが好きだと、夏帆にいつ言った?
急に怖くなってきた。どうして肉まんが好きだと知っている?どうして頌子に見間違えた?材料はたくさんあるってどういう事だ?
まさか……。
「あら。顔色が悪いわ。どうかしたの?」
「え!?い、いや。ああ、風邪かも。移ったらいけないし、来たところで悪いけど、今日はもう帰った方がいいかも」
「そう?1人で大丈夫?」
「だだ大丈夫!今から大人しく寝てるよ!1晩寝たら治るよ!」
所河はどうにかこうにか由佐を追い出し、皆が退社する時間を待って、家を出た。
「頌子……いや、まさか、そんなばかな事が……」
生きた心地がしないまま、会社を目指したのだった。
捜査車両の中で、ホットコーヒーの缶とカイロと肉まんで暖を取っていた僕達は、動き出した所河に、静かに興奮した。
「動き出したよう」
「成功、成功」
さあ、次の段階だ。
逃がすものか。
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