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虫(4)逆襲
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僕達と睨み合って、うさぎは後ろ脚を、タシッ、タシッと床に叩きつけて音を立てて威嚇している。ハムスターは前歯を時々剥いているし、小鳥は羽をばたつかせて体を低くし、いつでも飛べる構えだ。
直が札で千春さんを囲い、僕が千春さんの前に立つのが、面白くないらしい。
「何があったか教えてほしいが、無理なのか?」
直が言う。
「アオは眷属だからできるけど、他は無理だねえ」
「じゃあ、あなたは?心当たりはありますか」
千春さんは短く声を詰まらせて、
「あああ……だって、だって……ひいっ、やめて!こないで!」
うさぎがぴょんと1歩跳ねたのを見て、頭を抱えた。
まあ、立てかけた三脚やビデオカメラ、空の檻、土の入ったプランターで想像は付く。
「動物を虐待して動画を撮り、死体をプランターに埋めた?」
似たようなプランターは、庭にざっと10はあった。
「そりゃ、動物も怒るよ」
千春さんは、何かをぶつぶつ呟いているが、よく聞こえない。直は、
「さっきの混乱が大きいねえ」
と言う。
たしっ、たしっ、たしっ。
「怒るのも尤もだと思う。だが、関係のない町内の人にまで被害を及ぼしたのは、だめじゃないか」
たしっ。……。
もしかして、ちょっと、反省しているのか?
しかし、また、再開された。たしっ、たしっ、たしっ。
「力で報復とは、認めるわけにはいかないんですよ。それ以上するなら、祓わないといけません。今のうちに逝きませんか」
たしっ、たしたしたしたしっ。
だめか。
と思った時、こちらのタイミングから完全に外れた時にハムスターが飛びかかって来た。
完全に不意を突かれたが、半身を引いて避けながら刀を滑らせて斬る。
小鳥が低空から滑空するように来る。
刀をスイッと避けるのは見事だ。しかし、刀を返して再度振り、斬る。
うさぎの後ろ脚は強いというが、想像以上だった。前歯を剥きだしにして飛び掛かって来るのを、斬る。
うさぎとハムスターと小鳥。その見た目だけをみると、心が痛む。ここだけ見たら、子供だったら泣くんじゃないか?完全にこっちが悪い人だ。
振り返ったら、千春さんはガタガタ震えて何かをぶつぶつ言い続けていた。
「散らばったゴキブリ、駆除できるのかな」
「どうだろうねえ。今の3匹がいなくなったからとは思うけどねえ」
「保健所に連絡だな」
救急車のサイレンが、近付いて来ていた。
プランターには色々な小動物の死体が埋まっており、その上に花が植えられていた。色とりどりの花を咲かせていて、それがグロテスクで、鑑識課員をげんなりさせていた。
そして動物を虐待していた動画は部屋に保管してあり、少しだけ見ても、胸が悪くなるようなものだった。
その死んだ動物の死体を食べたゴキブリを怒りで支配し、同じ巣の仲間を支配し、町内中に、拡散していったようだ。ホウ酸団子の仕掛けと、仕組みは同じだ。
その後の消毒で、今度は駆除できたらしい。町内の人も喜んだと思うが、聞いた僕達も、心から安堵した。
そして岩宮千春は、ゴキブリに体中を齧られた事もさることながら、その時の精神的ショックの方が深刻で、精神病院に入院中だ。今の所、回復の兆しはないらしい。
「想像もしたくないよな。その時の状況」
言うと、直も、体を震わせた。
「絶対にお断りだねえ」
「1匹でも手に余る」
「ゴキには本当に注意しようっと」
部屋に飛び込んだ時の衝撃は、一生忘れられそうにない。
副アカウントを使っていた方のSNSなどでは本音が語られていて、良い子でいる事へのストレスの蓄積、動物を虐待している時の全能感、そんな自分の素顔やプランターの花の養分も知らずに花を愛でる周囲の人達への嘲りなどが綴られていた。
「岩宮家、引っ越すらしいな」
「もう、住めないよねえ、あそこでは」
「あの子も、日常生活に復帰できるのか怪しいらしいしな」
「因果応報かあ」
僕と直は溜め息をついた。
「お疲れさん。まあ、その、あれで。チョコレート食べます?」
楕円形のチョコレートを槇村さんが差し出した。ちょっとは悪いと、皆思っているらしい。
「ありが……」
言って、直と2人、固まった。
色、形、大きさ。それはアレに似ていた。
「ぎゃあああ!!」
「うわあああ!!」
一瞬キョトンとした槇村さんだったが、チョコレートを見て、わかったらしい。他の皆もチョコレートをじっと見て、次に、
「ひえええ!」
「うわわわわっ!」
と奇声を上げ始めた。
「しばらく、だめだ。ダメージが大きい……」
面倒臭い事になってしまったと、溜め息が出たのだった。
直が札で千春さんを囲い、僕が千春さんの前に立つのが、面白くないらしい。
「何があったか教えてほしいが、無理なのか?」
直が言う。
「アオは眷属だからできるけど、他は無理だねえ」
「じゃあ、あなたは?心当たりはありますか」
千春さんは短く声を詰まらせて、
「あああ……だって、だって……ひいっ、やめて!こないで!」
うさぎがぴょんと1歩跳ねたのを見て、頭を抱えた。
まあ、立てかけた三脚やビデオカメラ、空の檻、土の入ったプランターで想像は付く。
「動物を虐待して動画を撮り、死体をプランターに埋めた?」
似たようなプランターは、庭にざっと10はあった。
「そりゃ、動物も怒るよ」
千春さんは、何かをぶつぶつ呟いているが、よく聞こえない。直は、
「さっきの混乱が大きいねえ」
と言う。
たしっ、たしっ、たしっ。
「怒るのも尤もだと思う。だが、関係のない町内の人にまで被害を及ぼしたのは、だめじゃないか」
たしっ。……。
もしかして、ちょっと、反省しているのか?
しかし、また、再開された。たしっ、たしっ、たしっ。
「力で報復とは、認めるわけにはいかないんですよ。それ以上するなら、祓わないといけません。今のうちに逝きませんか」
たしっ、たしたしたしたしっ。
だめか。
と思った時、こちらのタイミングから完全に外れた時にハムスターが飛びかかって来た。
完全に不意を突かれたが、半身を引いて避けながら刀を滑らせて斬る。
小鳥が低空から滑空するように来る。
刀をスイッと避けるのは見事だ。しかし、刀を返して再度振り、斬る。
うさぎの後ろ脚は強いというが、想像以上だった。前歯を剥きだしにして飛び掛かって来るのを、斬る。
うさぎとハムスターと小鳥。その見た目だけをみると、心が痛む。ここだけ見たら、子供だったら泣くんじゃないか?完全にこっちが悪い人だ。
振り返ったら、千春さんはガタガタ震えて何かをぶつぶつ言い続けていた。
「散らばったゴキブリ、駆除できるのかな」
「どうだろうねえ。今の3匹がいなくなったからとは思うけどねえ」
「保健所に連絡だな」
救急車のサイレンが、近付いて来ていた。
プランターには色々な小動物の死体が埋まっており、その上に花が植えられていた。色とりどりの花を咲かせていて、それがグロテスクで、鑑識課員をげんなりさせていた。
そして動物を虐待していた動画は部屋に保管してあり、少しだけ見ても、胸が悪くなるようなものだった。
その死んだ動物の死体を食べたゴキブリを怒りで支配し、同じ巣の仲間を支配し、町内中に、拡散していったようだ。ホウ酸団子の仕掛けと、仕組みは同じだ。
その後の消毒で、今度は駆除できたらしい。町内の人も喜んだと思うが、聞いた僕達も、心から安堵した。
そして岩宮千春は、ゴキブリに体中を齧られた事もさることながら、その時の精神的ショックの方が深刻で、精神病院に入院中だ。今の所、回復の兆しはないらしい。
「想像もしたくないよな。その時の状況」
言うと、直も、体を震わせた。
「絶対にお断りだねえ」
「1匹でも手に余る」
「ゴキには本当に注意しようっと」
部屋に飛び込んだ時の衝撃は、一生忘れられそうにない。
副アカウントを使っていた方のSNSなどでは本音が語られていて、良い子でいる事へのストレスの蓄積、動物を虐待している時の全能感、そんな自分の素顔やプランターの花の養分も知らずに花を愛でる周囲の人達への嘲りなどが綴られていた。
「岩宮家、引っ越すらしいな」
「もう、住めないよねえ、あそこでは」
「あの子も、日常生活に復帰できるのか怪しいらしいしな」
「因果応報かあ」
僕と直は溜め息をついた。
「お疲れさん。まあ、その、あれで。チョコレート食べます?」
楕円形のチョコレートを槇村さんが差し出した。ちょっとは悪いと、皆思っているらしい。
「ありが……」
言って、直と2人、固まった。
色、形、大きさ。それはアレに似ていた。
「ぎゃあああ!!」
「うわあああ!!」
一瞬キョトンとした槇村さんだったが、チョコレートを見て、わかったらしい。他の皆もチョコレートをじっと見て、次に、
「ひえええ!」
「うわわわわっ!」
と奇声を上げ始めた。
「しばらく、だめだ。ダメージが大きい……」
面倒臭い事になってしまったと、溜め息が出たのだった。
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