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穴(2)覗かれる
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飾り用にいくつかはイガ付きのままだが、残りは全てイガから出して袋に詰めると、なかなかの量になった。敬も気を付けながら栗を拾い集め、御満悦だ。
そしてお弁当を食べた後、土産物屋でやっていた万華鏡体験教室で、冴子姉と敬が万華鏡を作っているところだ。
キットは揃っていて、区切ってある小さいスペースに好みのビーズを入れて、順番通りに組み立て、好みの和紙をぐるりと本体部分に貼り付けるだけだ。
僕と兄はそれを横から見ていた。
「喜んでたな。リクエストは、栗ご飯か」
「冴子姉はモンブランだったな。兄ちゃんは?」
「俺か。前に作ってくれただろ。豚とかゴマとかと渋皮ごと炊いたの」
「ああ、あれ」
「あれも美味かったな」
「わかった。
おすそ分けしてもまだできるな。マロングラッセとか、栗羊羹とか、栗のリゾットなんかもいいなあ」
「そうそう。リゾットも美味かったな」
部屋には敬達の他にも、遠足か何かで来ているらしい高校生くらいの集団もいた。皆、楽しそうに、万華鏡作りをしている。ちょっとした色と量の違いで、出来上がりが変わって来るのだろう。
さて。敬の作った万華鏡はどういう柄になるんだろうか。
ぼつぼつ出来上がった子もいるようだ。ビーズを選ぶのは敬が、本体に和紙を貼るのは冴子姉がした万華鏡も、完成らしい。僕と兄は、満面の笑みを浮かべる敬と冴子姉のそばへ向かった。
と、スッと霊の気配がして、高校生らしい少年が悲鳴を上げた。
何事かと、全員がそちらを注目した。
その子は出来上がったばかりの万華鏡を放り出して、それを恐怖の目で見て凍り付いていた。
「おい、大丈夫か?」
「せっかく作ったのに」
女生徒が拾い上げる。
「目、いや、何でもない。手が滑って」
「どんくせえなあ」
笑って、各々、万華鏡を覗いたり、交換してみたりし始める。
もう、気配はない。
その少年は恐る恐る万華鏡を受け取って、硬い表情でそれを指先で持っていた。そのそばに、同じような顔付きの少年がもう2人近寄り、3人で何かひそひそと深刻そうに話している。
「面倒臭い予感がするな」
僕はスマホを取り出し、さり気なく、その3人の顔、揃いのジャージの校章を写しておいた。
「怜、見て見て」
敬が万華鏡を差し出して来る。
「さあて、何が見えるかな。
わあ、きれいだなあ。凄いぞ、敬。芸術的センスがあるよな、兄ちゃん」
「そうだな。花火みたいできれいだぞ、敬」
「えへへへへ」
敬は嬉しそうに笑い、冴子姉も――あれ。何か、苦笑している?何でだ?
「敬、お茶飲むか?」
「飲む!」
「じゃあ、お母さんと手を洗っておいで」
「はあい」
2人が行くと、兄は表情を引き締めて、小声でそっと訊いて来た。
「どうした。あの生徒か」
兄ちゃんにはかなわない。
「短時間だけど、気配がしたんだ。あのグループの様子がおかしいし、戻ったら調べてみるよ」
「気を付けろよ」
「うん。ありがとう」
僕と兄は何事も無かったかのように、笑顔で戻って来る敬の方へと歩いて行った。
彼らは、しゃがみ込んで、小声で喋っていた。
「どうしたんだよ、突然」
「覗いたら、目がこっちを見てたんだ」
「目?」
「そう。じいーっと……」
彼らは、万華鏡を危険物であるかのように凝視した。
「でも、拾ったやつは覗いてたけど、平気そうだったぞ?気のせいなんじゃないか?」
「そう……かなあ……」
それで誰からともなく、自分の万華鏡を覗いてみた。
「……普通だぞ」
「何もないな」
「目の錯覚かなあ。変だなあ」
「そろそろ集合だ。行こう」
彼らは遠足には不似合いな顔付きと足取りで、バスの方へ向かった。
そしてお弁当を食べた後、土産物屋でやっていた万華鏡体験教室で、冴子姉と敬が万華鏡を作っているところだ。
キットは揃っていて、区切ってある小さいスペースに好みのビーズを入れて、順番通りに組み立て、好みの和紙をぐるりと本体部分に貼り付けるだけだ。
僕と兄はそれを横から見ていた。
「喜んでたな。リクエストは、栗ご飯か」
「冴子姉はモンブランだったな。兄ちゃんは?」
「俺か。前に作ってくれただろ。豚とかゴマとかと渋皮ごと炊いたの」
「ああ、あれ」
「あれも美味かったな」
「わかった。
おすそ分けしてもまだできるな。マロングラッセとか、栗羊羹とか、栗のリゾットなんかもいいなあ」
「そうそう。リゾットも美味かったな」
部屋には敬達の他にも、遠足か何かで来ているらしい高校生くらいの集団もいた。皆、楽しそうに、万華鏡作りをしている。ちょっとした色と量の違いで、出来上がりが変わって来るのだろう。
さて。敬の作った万華鏡はどういう柄になるんだろうか。
ぼつぼつ出来上がった子もいるようだ。ビーズを選ぶのは敬が、本体に和紙を貼るのは冴子姉がした万華鏡も、完成らしい。僕と兄は、満面の笑みを浮かべる敬と冴子姉のそばへ向かった。
と、スッと霊の気配がして、高校生らしい少年が悲鳴を上げた。
何事かと、全員がそちらを注目した。
その子は出来上がったばかりの万華鏡を放り出して、それを恐怖の目で見て凍り付いていた。
「おい、大丈夫か?」
「せっかく作ったのに」
女生徒が拾い上げる。
「目、いや、何でもない。手が滑って」
「どんくせえなあ」
笑って、各々、万華鏡を覗いたり、交換してみたりし始める。
もう、気配はない。
その少年は恐る恐る万華鏡を受け取って、硬い表情でそれを指先で持っていた。そのそばに、同じような顔付きの少年がもう2人近寄り、3人で何かひそひそと深刻そうに話している。
「面倒臭い予感がするな」
僕はスマホを取り出し、さり気なく、その3人の顔、揃いのジャージの校章を写しておいた。
「怜、見て見て」
敬が万華鏡を差し出して来る。
「さあて、何が見えるかな。
わあ、きれいだなあ。凄いぞ、敬。芸術的センスがあるよな、兄ちゃん」
「そうだな。花火みたいできれいだぞ、敬」
「えへへへへ」
敬は嬉しそうに笑い、冴子姉も――あれ。何か、苦笑している?何でだ?
「敬、お茶飲むか?」
「飲む!」
「じゃあ、お母さんと手を洗っておいで」
「はあい」
2人が行くと、兄は表情を引き締めて、小声でそっと訊いて来た。
「どうした。あの生徒か」
兄ちゃんにはかなわない。
「短時間だけど、気配がしたんだ。あのグループの様子がおかしいし、戻ったら調べてみるよ」
「気を付けろよ」
「うん。ありがとう」
僕と兄は何事も無かったかのように、笑顔で戻って来る敬の方へと歩いて行った。
彼らは、しゃがみ込んで、小声で喋っていた。
「どうしたんだよ、突然」
「覗いたら、目がこっちを見てたんだ」
「目?」
「そう。じいーっと……」
彼らは、万華鏡を危険物であるかのように凝視した。
「でも、拾ったやつは覗いてたけど、平気そうだったぞ?気のせいなんじゃないか?」
「そう……かなあ……」
それで誰からともなく、自分の万華鏡を覗いてみた。
「……普通だぞ」
「何もないな」
「目の錯覚かなあ。変だなあ」
「そろそろ集合だ。行こう」
彼らは遠足には不似合いな顔付きと足取りで、バスの方へ向かった。
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