体質が変わったので

JUN

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ピンポン(1)真夜中のピンポンダッシュ

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 パソコンをいじっていて、ふと気付くともう午前0時前だった。
「ああ、目が疲れた。そろそろ寝るか」
 言いながら立ち上がった時、玄関のドアチャイムが鳴る。
「こんな時間に誰だ?」
 そっと玄関ドアに近付き、ドアスコープから覗いてみた。
 誰もいない。こんな真夜中にピンポンダッシュかと、イラッとする。玄関ドアまで入り放題のマンションだから、イタズラもし易いのだろうか。
 だが、また、チャイムが鳴った。
 ドアチャイムはドアの横にあり、しゃがんで隠れようと、横から手を伸ばそうと、絶対に見える筈だ。
「――!?」
 混乱しながらも、どこかにいないかと、探し回った。その間にも、ピンポン、ピンポン、ピンポンとチャイムは立て続けに鳴らされている。
 と、向かいのドアが勢いよく開いて、住人の中年男性が不機嫌そうに出て来た。
「何度も何度も――!
 あれ?」
 キョロキョロとし、そして、何かにギョッとする様子を見せ、辺りを見回しながら部屋へ入って行った。
 それにいつの間にか、あれだけしつこく鳴らされていたドアチャイムは、鳴りやんでいる。
「何……?」
 腹立たしさは消え、薄気味悪さが広がった。
 翌日の夜も、午前0時が近付いて来ると、そわそわと落ち着かない。
「今日も来るのかな。もう来ないのかな。来なくていいんだけどな」
 やがて、昨日と同じ時間になった。
 ピーンポーン。
「来たっ!」
 玄関に走り、ドアスコープから、見逃すまいと外を覗く。
 その間にも、チャイムは鳴る。
 ピーンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン。
 いない、いない、いない!
 見えずにドアチャイムを鳴らすなんて、あり得ない。
 怖くなって、足音を忍ばせながら急いで奥へ戻ると、布団に潜り込んで頭から掛け布団を被った。

 徳川さんは、続けた。
「朝になって、管理人室には抗議が殺到したらしい。真夜中にピンポンダッシュされたのはマンションの家すべてで、しかも、皆同じ時刻だったと。
 それで、ピンポンが鳴って出たら、姿は見えないのに、『いるじゃない』と声がしたそうだ。
 相談を受けた所轄では、悪質なイタズラとみて調査したらしいが、マンションへの侵入者はなく、防犯カメラでも、ドアチャイムを鳴らす人物の姿は映っていない」
 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「ピンポンダッシュってだけでも迷惑なのに、午前0時とは」
 僕は想像して、住人が気の毒になった。
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「犯人は子供の霊かねえ?」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「まあ、小学生くらいの時に、やるよな」
「やった、やった」
「何でかわからないけど、爆発的に流行る時があるんだよね」
「それに、タイミング悪く通りかかって、濡れ衣を着せられたりねえ」
「そうそうそう」
 3人でピンポンダッシュの思い出を思わず語り合った。大抵の人がやったらしい。通学路に面した家は、さぞ迷惑しただろうな……。
「まあ、そういうわけだから、頼むね」
「はい、わかりました」
「すぐにかかりますねえ」
 僕と直は、真夜中のピンポンダッシュをやめさせるべく、そのマンションへと向かった。


 
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