体質が変わったので

JUN

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小さな相棒(4)怒る

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 拘置所に着いた時、そこは大変な騒ぎだった。敷地内で収まっているのがまだしもだ。
 見るからにへろへろな感じで走る周二を、鬼が追いかけている。
「あの野郎。直!」
「はいよ!」
 札を思い切り踏むと、ロケットの如く数十メートル飛んで、鬼の背後に迫る。
「子供を虐めるな」
 言って、まず、肩に斬りかかる。

     ギャアア!?

 鬼は痛みに怒り、僕の方を振り返った。
「この前より大きくしたのか。中途半端な」
 言いながら、怒ってターゲットを僕に変更した鬼の両手と両足を斬って転がす。
「まだ死ぬなよ、おい。根性出せ。
 大丈夫か」
 訊くと、周二はガクガクと頷いた。
「あんたの方が怖いかも。俺、とんでもない人にケンカ売ったんだな」
 よくわからないが、大丈夫らしい。
 追いついて来た直が札で鬼を拘束すると、直もかなり怒っていた。
「懲りないねえ、全く」
「反撃するだけ無駄って、もっとハッキリ言っておかなかった僕のミスかな」
「最初にやったら過剰防衛だよ。仕方ないねえ」
「ああ。これで向こうがどうなろうと、それも仕方ないよな」
「仕方ないねえ」
「な、なあ。何の話?」
「聞きたい?」
「……やめとく」
「その方がいいねえ。これは大人の話だからねえ」
「さあて、逝こうか」
 僕は鬼に向かって手を伸ばした。
 パスをつないで、向こうの術者にハッキリと言う。
『日本人的な控えめな表現じゃわからなかったか。ハッキリ言おう。2度目は無いと言ったはずだ。舐めるのもいい加減にしろよ。命は取らん。今回はな。
 今度ふざけた真似をしたら、術者だけじゃ済まないと覚悟しろ。神の鉄槌、忘れたのか?』
 そう言って、力いっぱい神威と共に鬼を叩き返す。
 パスが閉じる前に、引き攣った顔の術者が見えた。間違いなく、霊能者としてはダメになるだろうし、一般人としても何か残るかも知れない。
 ふう、と息をついて、振り返る。
「これで大丈夫だろう。イエーイ」
「イエーイ」
「イエー……おい、ほら、ハイタッチ、ハイタッチ」
 周二がガクガクと震えている。
「あ、怜。神威だよう、神威」
「急に引っ込められないって。
 大丈夫か?ああ、すまん。直は慣れてるから、つい。
 鯛焼き食べるか?差し入れに持って来たぞ?」
「う、あ、食べる」
 大丈夫そうだ。
 僕と直は、胸を撫で下ろした。
 僕と直と周二は小部屋に入り、周二に鯛焼きを食べさせて落ち着くのを待った。
 周二は無言で鯛焼きをぱくついていたが、3つ食べ終えた頃、やっと溜め息をついた。
「ふう。
 俺、よく考えてみた。いいのかな。命令とは言え、俺・・・」
 言って下を向く。そんな周二にくっついて、子供が頭を撫でていた。
「そう思えるって事が、反省だねえ」
「受けるか?」
「やる。お前らの手下になって、何でもする」
「え、いや、そんなブラックな事はさせないからな?誤解するなよ?
 それと、その子の事なんだが。うすうすわかっているだろうが、元々存在も弱い子だ。遠くない内に消える」
 ビクッと周二は子供を見、子供は困ったようにそれを見返した。
「そこで、だ。パスをつなげる際に一旦お前とその子を取り込んで、お前らを一緒にできないかやってみるか?」
「そ、そんな事ができるのか!?」
「生きてる人でやった事はないけどな」
「……え……」
「神でならやってる」
「……」
「後、元々お前らは一緒だったから、何とかならないかな、と」
「……」
 周二は不安そうに直を見た。
「いや、ボクに訊かれてもねえ」
 周二と子供は見つめ合って、そして、言った。
「やってくれ。頼む。何でもやるって決めたんだ。怖い物なんてないさ」

 周二改め信山誠人しのやままことは、口を尖らせた。
「何でもやるって言ったよ。言ったけど。何で?」
 教科書を前に、ギブアップ気味だ。
「お前、17か18だろう?2学期から学校に編入しろ。学校も体験しとけ」
 そう言うのは蜂谷だ。
「学校?いいよぉ」
「経験、経験。学力よりも仲良しこよしの、緩い所にしてやるから」
「……俺をバカだと言ってるんだな?」
「自信あるのか?なら、このくらい余裕だな」
「う……」
 蜂谷に言いくるめられる誠人に、見ていた僕と直も笑ってしまう。
「ははは。同級生もいいよお」
「友達、作って来い」
 周二と子供は無事に1つに戻った。そして、僕とのパスもつながった。
 術を注入してつなげた蜂谷は、誠人の遠縁にして保護者という事になった。
 口では色々言うが、蜂谷が、面倒見がいいのは知っている。任せて大丈夫だろう。
「じゃあ、仕事行くから。蜂谷、よろしく」
「おう!怜怜も直直も、暑いから気を付けろよ」
「じゃあねえ」
 僕と直は、蜂谷の家を出た。
「良かったよねえ、何とかなって」
「そうだな」
「大分、無茶したんだよねえ、怜」
「まあ、何とかなるかと思って。
 でも、もうやらない。ああ。面倒臭い事件だった」
「お疲れ様あ」
「直もな」
 僕達は肩を竦めて、歩き出した。



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