体質が変わったので

JUN

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小さな相棒(2)守る

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 法務省の官僚に、面会の結果を報告する。
「まず、封じはやはり問題ありませんねえ」
「本人は、助け出しに来るような知り合いはいない。来るなら、口封じか仕返しだろうと。嘘は感じられませんでした」
「でも、口封じって、しないといけないほどの事を、知っているとも思えないけどねえ」
「暗殺の事実そのものを隠したいってくらいかな」
「じゃあ、仕返しですか」
「その方がまだ納得できますね」
「だ、ねえ」
 所長を含めた全員で、溜め息をつく。
「周二の様子はどうですか。何か、ここが気に入ってるみたいな感じで……」
 言うと、所長は苦笑した。
「そうなんです。清潔で、毎日3食お腹いっぱい食べられて、天国みたいだって最初の日に泣いていました」
「よっぽど酷い暮らしをさせられてたんだねえ」
 思わずホロッとさせられる。
「反省というか、自分のした事がわかっていないみたいでした。命令に従わないと殴られるし、食事を抜かれる。だから何も考えずに霊を呼び出して暗殺を行い、それしか知らないから、それで生きて行こうとした。
 それが、ここへ来て余裕ができたせいか、色んな話をしたせいか、やっと、自分のした事の意味を理解し始めたようではあります」
 所長の言葉に、
「矯正はできそうだな」
と、各々安心した。
「まあ、次に現れるのを待ちましょう。出た所を返しますよ」
「念のために、ターゲットかも知れない周二には札を持たせましょうかねえ」
 取り敢えずの方針は決まった。
 また夜に出直す事にして拘置所を出た僕と直だったが、皆と別れた途端、ほぼ同時に言い合った。
「あれ、何かな」
「ぶれてたというかねえ?」
「意識が2つって、二重人格か?」
「変だよぉ」
 周二に同化するように、何かが憑いていたのだ。悪いものでもないし、極々弱い。
「……観察を続けようか」
「そうだねえ」
 こちらも、そう方針を決めたのだった。

 夜。普段なら寝るしかなく、静かになるだけの施設内だが、このところ、違っていた。暗くなるにつれて、落ち着きなく、ピリピリする者が増える。
 最初は「幽霊なんて」と鼻で笑っていた大男も、「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」「アーメン」など、知っている文句をブツブツ唱えていた。
 早く寝るようにと注意する側も、怖いのはわかっているので、強く「静かにして大人しく寝ろ」と言い難い。
 周二は、今は何もできないが、皆よりは霊に慣れているので、そこまで動揺する事無く大人しく布団に横になっていた。
 今日の鮭の塩焼きも美味かった、などと思い返しながら、うつらうつらとし始める。
 どのくらい経った頃だろうか。周二が鮭のつかみ取りを熊と競っている夢を見ていると、急に目がさめた。
「ん!?俺の鮭」
 寝ぼけて布団に体を起こした時、それに気付いた。
 鬼が、いた。

     ミツケタ

 鬼は言って、両手を首にかけようと持ち上げる。が、何か火花のようなものが飛んで、鬼は手を引っ込めた。
 その隙に周二は素早く飛び退った。
「何だ!?やっぱり、俺を殺しに来たのか」
 仕方ないのかと、思う。自分はそれだけの事をしてしまったのだ。
 鬼が再度こちらを向き、近付いて来るのから逃げていくが、狭い部屋の隅に、いつしか追い込まれてしまった。
「ああ。明日の朝飯、何だったのかなあ」
 それが心残りとは我ながら情けない。そう苦笑した時、声がかかった。

「ご飯と味付け海苔、たくあん、ゆで卵、味噌汁は豆腐で、ほうれん草もあるらしいぞ」
 僕は言いながら、鬼を蹴り飛ばした。
 周二はキョトンとしてから、
「やったー」
と言った。
 直が鬼を素早く拘束している。
「ゆで卵より、生卵で卵かけご飯にしたいな。あと1回でいいから」
「1回?欲が無いな。
 卵かけご飯のバリエーションは豊富だぞ。全部食ってみろよ」
「え。卵としょうゆじゃないのか?」
「フッ。甘いねえ」
 ゴクッと、周二が喉を鳴らした。
「その前にこいつだな」
 僕は鬼に近付くと、パスを通してみた。
 差し向けた術師がいた。そいつに、
『ケンカ売ってるのか。2度目は無い』
という意識と共に、鬼を叩き返した。
 鬼がスッと消えるのに、廊下の看守達が声を失う。僕と直、周二は、術を返したのだと分かるので平然としたものだが。
「大丈夫かねえ。札も持たせてたから、一応、ターゲットを確認したくてねえ。怖かったねえ」
「べ、別に」
 周二が戸惑ったように横を向く。心配され慣れていないせいだろう。
「まあ、ちょっとおいで。ね」
「時間外だが、特別だ。お茶くらい飲め」
 僕と直は周二を連れて別室に移り、お茶を淹れた。
 落ち着いたところで、訊く。
「相手は霊能者だな。30歳くらいの男だ」
「雇ったやつだろ」
「そうか。
 ところで、気付いたか」
「何を?」
「お前に憑いているその弱いのが、お前を守ろうと必死に立ちはだかったのを」
 周二は目を丸くした。
「は?」
「凄く弱いし、同化しかかってたからかな。気付かなかったんだねえ。
 まあ、見た方が早いねえ」
 直が札をきる。
 周二の前に、小さい子供が現れた。
「……え?」
「ずっとお前を心配して憑いていたお前の双子の兄弟だな」
 小さい子供は、心配そうに周二を見て、にっこりと笑った。
「……え?」
 周二は、口をポカンと開けていた。




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