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トラック(1)親子
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何時から何時までに高速道路に出入りすると割引。それを利用するために早く出発して、配達先近くに路上駐車して搬入時間まで時間を潰す。トラック運転手のほとんどがしている行為だ。
他にも同様のトラックがたくさんあり、片側2車線の道の両側1車線は、ズラリと並んだトラックで塞がれている。
彼もそこにトラックを止め、午前8時までの3時間半ほど、仮眠を取る事にした。
運転席で目を閉じると、すぐに眠気がやってきた。
どのくらいした頃だろうか。何故か、目が覚めた。
目を開けると、正面、フロントガラスが自然に目に入る。
「ん?」
そこに、小学校低学年くらいの男の子と、その母親と思しき若い女性が立っていた。ただ無表情で、じっと黙って、彼と同じ目線で覗き込んで来ていただけだ。
何だろう、と、眠い頭でぼんやりと考える。
と、いきなり2人の姿は、すうっと消えて行った。
「え?何……ええ?」
目が覚めてきた。
そうしたら、今の親子がフロントガラスから覗き込んで来ていたのがおかしいと気付いた。トラックの運転席は高い。その高い運転席を同じ高さから覗き込むには、台に乗るかバンパーに乗るか。
彼は車を降りた。
車の前を見たが、台はない。周囲を見たが、あの親子の姿も無い。
すると、前に止まっていたトラックから運転手が下りて来て、話しかけて来た。
「やっぱり気になったか」
「あの……」
「親子連れかな。トラックを覗き込んで、バンバン叩いてたからな」
彼はそれを聞いて、そう言えば、音を聞いたような気がしたな、と思った。
「寝てたんですが、目が覚めたら運転席を覗き込んでて。こんな風に」
言いながら、バンパーに立ってみた。
「あれ?」
長身の彼でも、少し見上げるくらいの角度になる。ましてや小学生なら、見えるわけもない。
「あの親子なあ……浮いてたぞ」
「は?」
「浮いてたんだ。空中に。それで、すうっと消えたし」
前のトラックのドライバーが言って、彼は青ざめた。
「消えたの、気のせいとかそう見えたとかじゃなかったんだ……」
そして、それに気付いて、飛び降りた。
「ひえっ」
フロントガラスに、びっしりと手形が付いていたのである。
「な、何で……!?俺の知り合いでもないのに……!」
前のトラックのドライバーは、タバコをくわえながら言った。
「ああ、俺んとこにも来そうになったぞ。それで、後ろに移動して寝たふりしてたら、お前の方に行ったんだ」
「ええ?」
「だって怖いじゃねえか」
彼は、何も言い返せなかった。
公園の前はそう大きな道路ではないが、車やバイク、自転車はそこそこ通るし、自転車はスピードを出している事が少なくない。
ここで遊ぶ子供は、耳にタコができるくらい「飛び出してはいけない」と言われているが、遊びに熱中すれば周りが見えなくなるのも、ある種仕方がないのかも知れない。
隣の康介は幼稚園の友達とサッカーをして遊んでいて、ボールを追いかけて外へ飛び出し、車にぶつかりそうになったらしい。その宅配便のトラックはこの辺りの担当なだけあって、この公園の危険性を知っており、注意に注意を重ね、徐行運転に徹し、止まってくれたらしい。
康介が大丈夫とわかると笑って、これからは気を付けるようにと言って、去ったという。
そして康介は母親である京香さんに絞られてべそをかいたと、甥の敬が教えてくれた。
「危なかったんだな。ケガが無くて良かった。敬も気を付けるんだぞ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「はあい!」
敬は元気よく返事をして、デザートのオレンジに注意を戻した。
「トラックかあ」
今日持ち込まれた案件がトラック絡みなのを思い出しながら、オレンジをせっせと剥く。
「何か気になる事でも?」
兄がさり気なく訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「うん。トラックのフロントガラスを叩いて来る親子の霊の相談を受けて。明日の早朝には、視に行って来る事になってるんだ」
「トラックを叩く親子?そのドライバーか会社に因縁があるのか?」
「どうだろう。トラックそのものには憑いてなかったな。手形はビッシリで、ドライバーが震えあがってたが」
言いながら、オレンジを飲み込んだ敬の口に、剥いた新しいオレンジを入れてやる。
「気を付けろよ。理不尽なヤツかも知れないんだからな」
言いながら、兄は剥いたオレンジを僕の口に入れて来た。
「ん、ありがとう、兄ちゃん」
言うと、兄は照れくさそうに笑い、敬は嬉しそうに笑った。
他にも同様のトラックがたくさんあり、片側2車線の道の両側1車線は、ズラリと並んだトラックで塞がれている。
彼もそこにトラックを止め、午前8時までの3時間半ほど、仮眠を取る事にした。
運転席で目を閉じると、すぐに眠気がやってきた。
どのくらいした頃だろうか。何故か、目が覚めた。
目を開けると、正面、フロントガラスが自然に目に入る。
「ん?」
そこに、小学校低学年くらいの男の子と、その母親と思しき若い女性が立っていた。ただ無表情で、じっと黙って、彼と同じ目線で覗き込んで来ていただけだ。
何だろう、と、眠い頭でぼんやりと考える。
と、いきなり2人の姿は、すうっと消えて行った。
「え?何……ええ?」
目が覚めてきた。
そうしたら、今の親子がフロントガラスから覗き込んで来ていたのがおかしいと気付いた。トラックの運転席は高い。その高い運転席を同じ高さから覗き込むには、台に乗るかバンパーに乗るか。
彼は車を降りた。
車の前を見たが、台はない。周囲を見たが、あの親子の姿も無い。
すると、前に止まっていたトラックから運転手が下りて来て、話しかけて来た。
「やっぱり気になったか」
「あの……」
「親子連れかな。トラックを覗き込んで、バンバン叩いてたからな」
彼はそれを聞いて、そう言えば、音を聞いたような気がしたな、と思った。
「寝てたんですが、目が覚めたら運転席を覗き込んでて。こんな風に」
言いながら、バンパーに立ってみた。
「あれ?」
長身の彼でも、少し見上げるくらいの角度になる。ましてや小学生なら、見えるわけもない。
「あの親子なあ……浮いてたぞ」
「は?」
「浮いてたんだ。空中に。それで、すうっと消えたし」
前のトラックのドライバーが言って、彼は青ざめた。
「消えたの、気のせいとかそう見えたとかじゃなかったんだ……」
そして、それに気付いて、飛び降りた。
「ひえっ」
フロントガラスに、びっしりと手形が付いていたのである。
「な、何で……!?俺の知り合いでもないのに……!」
前のトラックのドライバーは、タバコをくわえながら言った。
「ああ、俺んとこにも来そうになったぞ。それで、後ろに移動して寝たふりしてたら、お前の方に行ったんだ」
「ええ?」
「だって怖いじゃねえか」
彼は、何も言い返せなかった。
公園の前はそう大きな道路ではないが、車やバイク、自転車はそこそこ通るし、自転車はスピードを出している事が少なくない。
ここで遊ぶ子供は、耳にタコができるくらい「飛び出してはいけない」と言われているが、遊びに熱中すれば周りが見えなくなるのも、ある種仕方がないのかも知れない。
隣の康介は幼稚園の友達とサッカーをして遊んでいて、ボールを追いかけて外へ飛び出し、車にぶつかりそうになったらしい。その宅配便のトラックはこの辺りの担当なだけあって、この公園の危険性を知っており、注意に注意を重ね、徐行運転に徹し、止まってくれたらしい。
康介が大丈夫とわかると笑って、これからは気を付けるようにと言って、去ったという。
そして康介は母親である京香さんに絞られてべそをかいたと、甥の敬が教えてくれた。
「危なかったんだな。ケガが無くて良かった。敬も気を付けるんだぞ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「はあい!」
敬は元気よく返事をして、デザートのオレンジに注意を戻した。
「トラックかあ」
今日持ち込まれた案件がトラック絡みなのを思い出しながら、オレンジをせっせと剥く。
「何か気になる事でも?」
兄がさり気なく訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「うん。トラックのフロントガラスを叩いて来る親子の霊の相談を受けて。明日の早朝には、視に行って来る事になってるんだ」
「トラックを叩く親子?そのドライバーか会社に因縁があるのか?」
「どうだろう。トラックそのものには憑いてなかったな。手形はビッシリで、ドライバーが震えあがってたが」
言いながら、オレンジを飲み込んだ敬の口に、剥いた新しいオレンジを入れてやる。
「気を付けろよ。理不尽なヤツかも知れないんだからな」
言いながら、兄は剥いたオレンジを僕の口に入れて来た。
「ん、ありがとう、兄ちゃん」
言うと、兄は照れくさそうに笑い、敬は嬉しそうに笑った。
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