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ボディーガード(1)合同警備
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徳川さん、僕、直は、警備部部長と向かい合っていた。
近々アメリカ大統領が来日して首脳会談が開かれるのだが、外国人霊能者がテロを請け負ったという情報を外事が掴み、急遽、陰陽課も警備に加わる必要が出て来たのだ。
「その霊能者は、通称『周二』。噂では、周家の次男という意味の、国籍も戸籍も無いやつらしい。一人っ子政策の落とし子だな。
SPも、霊をけしかけられたら対抗しようがない。だから、SPに混じって近辺をガードしてもらいたい」
警備部長が言うと、徳川さんは頷いた。
「OK。威信にかけて阻止して、この手は無理だと知らしめないとね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「それで、業務を経験してもらっておいて欲しいから、今から出向してもらおうかな」
部長が言い、僕と直は頷いた。事前に聞いていたので、準備してきた。
「はい。よろしくお願いいたします」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「お願いします」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「よろしく頼む」
警備部長は言った。
警備部に配属になって、1年。ようやく仕事にも慣れた亀田武志は、その話を聞き齧って先輩に文句を言った。
「どういう事です?何で陰陽課のキャリアがわざわざ?ちょっと研修したからって、できるわけがないじゃないですか。どうして受け入れたんです?」
階級や試験ではない、実力と訓練の賜物で要人を警護しているという自負がある。
先輩達は一瞬キョトンとしてから、仕方ないなあ、という感じで苦笑した。
「カメは、交番の後、機動隊に行って、それからここに来たんだったっけ」
「ああ、成程なあ。
あのなあ、カメ。警察学校で教官が言わなかったか?キャリアなんて怪物ばっかりだって。特に東大出なんてのはその最たるものだって」
「そう言えば言ってましたけど、命令するだけだし」
モゴモゴと言う。
「そりゃあ、キャリアは仕事が違うからな。向こうは、どうやって警察組織をスムーズに動かすか、みたいな所を考えるんだろ、確か」
先輩もうろ覚えだ。何せ、自分に関係がない。
「だから、最初から指揮官で、基本、現場を走り回る事は無い。陰陽課だけは特殊だけどな。
でもな、あいつら東大出のキャリアはマジで怪物だ。研修配置で来たやつ、たった1日で、刑事課の仕事を覚えやがった」
「ええー?」
「ホントだって。記憶力が物凄くいいし、集中力と努力の次元が俺達とは違うんだよ。無意味な努力は極端に嫌って、効率的なやり方を自分なりにやる?」
「そうそう。要領よくスムーズに、集中力と高い判断力を長時間高水準で飽きることなく反復できるんだよな。もう、敵わないと本心から思ったね」
先輩達はなぜかべた褒め、納得している様子だ。
「ええー?でも、頭は確かに良いんでしょうけど、警備部とかは、こう、実技が」
「どういうわけか、あいつらってスポーツも得意なやつが多いんだよ」
「何で!?それ、ずるいっすよねえ!?いや、ありえねえ!マンガの登場人物じゃないのに!」
「諦めろ。そういう生き物だと思え。
確かにキャリアは実務はしないけど、京大出とかの警察学校出のやつは現場にいただろ?そういうのを見てればわかるんだけどなあ。お前は、猪みたいに前だけみてここに来たみたいだしなあ」
「見てねえなあ」
亀田は、なぜか自分が残念な子みたいな目を向けられて、イラッとした。
「先輩達はいいんすか、それで」
「いいも悪いも」
「なあ。
あのな、カメ。俺達はそれ以外のものを使って、仕事するんだよ」
「それ以外……悪知恵?」
「アホか」
「人との交渉が上手いとか、相手に警戒心を抱かせない性格とか」
「ううーん。俺は……あ、はい!大食い大会でラーメン4キロ食いました!」
嬉しそうに言う亀田に、先輩達は微妙な顔で
「そうか、うん」
と言ったが、早々に話を進めることでそれは追及しない事にした。
「まあ、そういう事だ。だから、変に張り合おうとかしないで、素直にいけよ」
「素直で人懐っこいところがお前のいいところなんだからな?」
亀田はそう言ってきかされ、まあ、先輩として、ビシビシ言うべきところは言わないとな、と考えた。
周二は、密入国して、偽造パスポートで聖職者に成りすましていた。
バチカンの神父の格好をしていれば、霊の気配をさせていても、『エクソシストの帰り』などと言える。そして堂々と、悪魔も召喚できるというものだ。
周二は、親も、中国も嫌いだった。一人っ子政策のせいで、長男以外は無戸籍で名前すら無しというのは、珍しい話では無かった。臓器売買などの組織に売られたりする子もいる事を思えば、周二は霊能力があったので後ろ暗い事に使えるからと家に置いて食事も与えられ、恵まれていた方かもしれない。
それでも我慢ができず、親、兄を殺し、殺し屋として名乗りを上げてからは、初仕事になる。
のほほんと歩く日本人も、腹立たしく、憎らしい。巻き込んで殺してしまっても、心は痛まない。
「皆、死ねばいい」
周二は昏い声で嗤うと、悪霊を呼び出す為の準備にかかった。
近々アメリカ大統領が来日して首脳会談が開かれるのだが、外国人霊能者がテロを請け負ったという情報を外事が掴み、急遽、陰陽課も警備に加わる必要が出て来たのだ。
「その霊能者は、通称『周二』。噂では、周家の次男という意味の、国籍も戸籍も無いやつらしい。一人っ子政策の落とし子だな。
SPも、霊をけしかけられたら対抗しようがない。だから、SPに混じって近辺をガードしてもらいたい」
警備部長が言うと、徳川さんは頷いた。
「OK。威信にかけて阻止して、この手は無理だと知らしめないとね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「それで、業務を経験してもらっておいて欲しいから、今から出向してもらおうかな」
部長が言い、僕と直は頷いた。事前に聞いていたので、準備してきた。
「はい。よろしくお願いいたします」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「お願いします」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「よろしく頼む」
警備部長は言った。
警備部に配属になって、1年。ようやく仕事にも慣れた亀田武志は、その話を聞き齧って先輩に文句を言った。
「どういう事です?何で陰陽課のキャリアがわざわざ?ちょっと研修したからって、できるわけがないじゃないですか。どうして受け入れたんです?」
階級や試験ではない、実力と訓練の賜物で要人を警護しているという自負がある。
先輩達は一瞬キョトンとしてから、仕方ないなあ、という感じで苦笑した。
「カメは、交番の後、機動隊に行って、それからここに来たんだったっけ」
「ああ、成程なあ。
あのなあ、カメ。警察学校で教官が言わなかったか?キャリアなんて怪物ばっかりだって。特に東大出なんてのはその最たるものだって」
「そう言えば言ってましたけど、命令するだけだし」
モゴモゴと言う。
「そりゃあ、キャリアは仕事が違うからな。向こうは、どうやって警察組織をスムーズに動かすか、みたいな所を考えるんだろ、確か」
先輩もうろ覚えだ。何せ、自分に関係がない。
「だから、最初から指揮官で、基本、現場を走り回る事は無い。陰陽課だけは特殊だけどな。
でもな、あいつら東大出のキャリアはマジで怪物だ。研修配置で来たやつ、たった1日で、刑事課の仕事を覚えやがった」
「ええー?」
「ホントだって。記憶力が物凄くいいし、集中力と努力の次元が俺達とは違うんだよ。無意味な努力は極端に嫌って、効率的なやり方を自分なりにやる?」
「そうそう。要領よくスムーズに、集中力と高い判断力を長時間高水準で飽きることなく反復できるんだよな。もう、敵わないと本心から思ったね」
先輩達はなぜかべた褒め、納得している様子だ。
「ええー?でも、頭は確かに良いんでしょうけど、警備部とかは、こう、実技が」
「どういうわけか、あいつらってスポーツも得意なやつが多いんだよ」
「何で!?それ、ずるいっすよねえ!?いや、ありえねえ!マンガの登場人物じゃないのに!」
「諦めろ。そういう生き物だと思え。
確かにキャリアは実務はしないけど、京大出とかの警察学校出のやつは現場にいただろ?そういうのを見てればわかるんだけどなあ。お前は、猪みたいに前だけみてここに来たみたいだしなあ」
「見てねえなあ」
亀田は、なぜか自分が残念な子みたいな目を向けられて、イラッとした。
「先輩達はいいんすか、それで」
「いいも悪いも」
「なあ。
あのな、カメ。俺達はそれ以外のものを使って、仕事するんだよ」
「それ以外……悪知恵?」
「アホか」
「人との交渉が上手いとか、相手に警戒心を抱かせない性格とか」
「ううーん。俺は……あ、はい!大食い大会でラーメン4キロ食いました!」
嬉しそうに言う亀田に、先輩達は微妙な顔で
「そうか、うん」
と言ったが、早々に話を進めることでそれは追及しない事にした。
「まあ、そういう事だ。だから、変に張り合おうとかしないで、素直にいけよ」
「素直で人懐っこいところがお前のいいところなんだからな?」
亀田はそう言ってきかされ、まあ、先輩として、ビシビシ言うべきところは言わないとな、と考えた。
周二は、密入国して、偽造パスポートで聖職者に成りすましていた。
バチカンの神父の格好をしていれば、霊の気配をさせていても、『エクソシストの帰り』などと言える。そして堂々と、悪魔も召喚できるというものだ。
周二は、親も、中国も嫌いだった。一人っ子政策のせいで、長男以外は無戸籍で名前すら無しというのは、珍しい話では無かった。臓器売買などの組織に売られたりする子もいる事を思えば、周二は霊能力があったので後ろ暗い事に使えるからと家に置いて食事も与えられ、恵まれていた方かもしれない。
それでも我慢ができず、親、兄を殺し、殺し屋として名乗りを上げてからは、初仕事になる。
のほほんと歩く日本人も、腹立たしく、憎らしい。巻き込んで殺してしまっても、心は痛まない。
「皆、死ねばいい」
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