体質が変わったので

JUN

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野天風呂(1)氷水に浸かる遺体

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 かつての温泉ブームは落ち着いたとはいえ、それでも、やっぱり温泉は人気だ。
 中には山の中などにポツンと湧く小さな野天風呂や、深い山奥に分け入った所にある秘境風呂を巡る人も当時からいたが、問題も起こっていた。
 夜に夜景を楽しみに野天風呂へ行って、チカンや覗き、レイプといった犯罪に遭う事もあるし、荷物を盗まれる事もある。それに、道に迷って遭難する事もあった。
 しかし、流石にこれはどうなんだろうと、皆は頭を捻った。
 寒い夜には薄っすらと氷が張るほどの池だ。温泉と間違って近付いたとしても、裸になって浸かる前には、それがお湯ではなくて水だと、誰でも気付くはずだ。
「でも、これまでの遺体はどれも、裸か湯あみ着一枚で、まるで温泉に浸かっているかのような恰好ですよ」
「上にある野天風呂と間違えたんじゃ無ければ、本当にそっちに入っていて、そこで死んで、犯人がここへ遺体を移した?」
「何で?それに物凄く大変だぞ。荷物も着替えも、きれいに移動させてるし」
「物凄く寒い時って、水でも暖かく感じるだろ」
「いや、いくら何でも、風呂と間違えるくらいは温かくはないだろ」
 捜査員だけでなく、付近の住民も、その謎に首を捻った。
 そのうちに、誰かが言い出した。
「幽霊が、そうさせてたりして」
「昔、あそこに落ち武者が落ち延びて来て、追いかけて来た敵の武将に見つかって首を落とされて、あの池で首と刀を洗ったらしいとか聞いたぞ」
 まことしやかにその噂は広がり、とうとう警察も、これは普通の事件ではなく陰陽課案件ではないかと思い始めたのだった。

 徳川さんの話を聞いて、文字通り震えあがる。
「この寒い中、裸で、氷の張るような冷たい池に入って?うわあ」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「聞くだけで、寒いねえ。入るなら温泉だよねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「そうなんだよ。何があったかは知らないけど、そういう状態の遺体が続いてるそうでね。いくら何でもおかしいだろうって事で、これは、何か超常的な何かが絡んでるんじゃないかって事になったそうだよ」
 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「というわけで、行って来てくれないか」
「はい、わかりました」
「いいなあ。温泉だよ、温泉」
「徳川課長も行きますかねえ?」
「うう。行きたいけど、そういうわけにもなあ。近所のスーパー銭湯で取り敢えず我慢するよ」
「……お土産買ってきますから。な、直」
「そうだねえ。うん」
 僕と直は徳川さんを慰めて、資料を広げた。


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