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廊下を、走る、走る――。
気配を元に飛び込んだ部屋では、久山さんの霊が怒りも露わに立っていて、なすすべもなくという感じで、皆が固唾を呑んで見つめていた。
「あ、陰陽課!」
誰かが僕達を見て言い、サッと視線が集まった。
カッコいい啖呵を切れれば良かったが、全力疾走で息も絶え絶えだ。
「久山、さん。ストップ。待って」
何事かと他の課員も集まって来て、廊下から覗いている。
「こいつは許せない。外川ぁ!」
「ヒイッ!お、おい!何とかしろ!早く!」
さっきまでいた全員が、ここに辿り着く。
年を考えたら、この堺田課長は、なかなかの体力だな。
「外川課長。全部、久山が喋りました――!」
「知られました!すみません!」
竹山さんと宮迫さんが、到着してすぐに言ったのが、これだ。
「チッ」
外川課長は、忌々し気に舌打ちをした。
「久山さんが怒っているのは、外川課長がライバルの堺田課長を追い落とすために、久山さんが危ないのを黙認して、殺させたからですね。
そして外川課長、上谷川議員周りの事件のもみ消し、探っていたジャーナリストを殺させた事件の証拠の隠滅と捜査妨害、ジャーナリストの妹への違法な監視と会社への嫌がらせ。全て、あなたの指示ですね」
直と豊川が、小さい声で、
「うわあ、全部ぶっこんだぞ」
「チャンスだからねえ」
と交わす。
外川課長は怯えも忘れたように無表情になって、怒鳴った。
「それの何が悪い!?」
久山はそれをずっと聞いていて、嗤い出す。
「そうだろ。だから俺は、お前を許せないんだ」
気配をグングンと強めていく。
「やめろ、久山さん!」
拷問の痛み、苦しみ、恐怖、絶望
お前も知れ
オレロ ヌケロ ハガセ ツブレロ
シネ
手を振り上げ、外川課長に向かって行く。
「だめだ、法で裁く!」
僕は間に入って、刀で受け止めた。
「久山さん。落ち着いて。あなたの怒りは尤もだ。でも、これはだめだ」
シネ シネ シネ シネ シネ――!
「久山さん。すみません。代わって、僕が謝ります。すみませんでした。
もう、逝きましょうか」
シネ シネ シネ!
なるべく一刀で済ませたい。刀に浄力をしっかりと纏わせ、深く、素早く、大きく胴を振り抜いた。
久山さんは動きを止め、さらさらと崩れながらも元の姿を取り戻して行き、キョトンとしたように自分の手を見て、消えて行った。
ふう、と、外川課長が安堵の息をついた。
「えらい目に逢った」
誰も、何も言わずに、お互いに窺うような目を交わしている。
「何だ?
境田じゃないか。どうしてこんなところにいる。お前は別室で待機中だろうが」
「それは、お前がした方が良さそうだぞ」
「何ィ?」
外川課長は境田課長に睨むような目を向けた。
が、竹山さん達でさえもが外川課長に味方する様子もなく、不審そうに皆の顔を見渡した。
そして、ドアのところの人影を見付ける。
「あ、刑事局長!」
と、兄がいた。
「あ、兄ちゃん――とと。おい、豊川。さっきの録音、出せ」
「お?おう!」
「これも聞いて下さい」
「わかった。
全員、そのまま動かずに待て。電話もパソコンも書類も触る事は禁止する。
御崎君、監察、検察と協力して、全ての局員を投入してでも事実を解明するように。忖度もごまかしも保身も許すな」
相変わらず、刑事局長は、清廉潔白な人だった。
「これで、野際真梨さんも怖い思いをせずに済むし、高岡の奥さんと子供達も、多少は世間の目がマシになるかなあ、直」
「そうだねえ。それに、知らせたら、相馬も富永も喜ぶねえ」
「そうだな。
おい、豊川!あいつらに連絡してやろうぜ!」
「おう!」
小声で盛り上がる僕達に、兄が苦笑しながら釘を刺しておく。
「いつもヒヤヒヤさせて。
怜、まだこれはオフレコ案件だからな。頼むぞ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「勿論!」
刑事局長は小さく笑って、
「御崎君の背中を見て、立派に育ってるようじゃないか」
と兄の肩を叩いて、僕達には軽く片手を上げて出て行った。
僕達3人と相馬と富永で、乾杯をする事になった。人の耳を心配して、相馬のマンションだ。
「凄ぇ。本当に、酒がたくさんあるなあ」
豊川と富永はバーか居酒屋かというような、本棚ならぬ酒棚を前に、ポカンと口を開けていた。
「怜、トマトはあるんでしょうね。あと、オムレツ」
「作ったから心配するな。
ああ、まずはここで乾杯するか」
先に数品の当てを並べて、乾杯をする事にした。
相馬お気に入りのトマトのチーズ焼きとあんかけふわふわオムレツとちくわ明太子詰めを先に出す。
「じゃあ、乾杯!」
一気にビールを喉に流し込む。
「はああ、美味い!」
「最高だぜ!」
「事件が解決できて、余計に美味しいねえ!」
「やっぱりあんた達、最高の仲間よ!」
これ以上のあては、ない。
「これを発表したら、警察への風当たりは大変でしょうね」
「隠すよりいいよ」
「ああ」
「ま、期待してるぜ!」
「ところで、あの美味しそうな匂いにも期待していいのかしら」
コンロの鍋から、いい匂いがしている。
「はいはい。まあ、期待しててくれ」
「飲み明かそうねえ」
「かんぱーい!」
瞬く間に、2回目の乾杯の声が上がった。
気配を元に飛び込んだ部屋では、久山さんの霊が怒りも露わに立っていて、なすすべもなくという感じで、皆が固唾を呑んで見つめていた。
「あ、陰陽課!」
誰かが僕達を見て言い、サッと視線が集まった。
カッコいい啖呵を切れれば良かったが、全力疾走で息も絶え絶えだ。
「久山、さん。ストップ。待って」
何事かと他の課員も集まって来て、廊下から覗いている。
「こいつは許せない。外川ぁ!」
「ヒイッ!お、おい!何とかしろ!早く!」
さっきまでいた全員が、ここに辿り着く。
年を考えたら、この堺田課長は、なかなかの体力だな。
「外川課長。全部、久山が喋りました――!」
「知られました!すみません!」
竹山さんと宮迫さんが、到着してすぐに言ったのが、これだ。
「チッ」
外川課長は、忌々し気に舌打ちをした。
「久山さんが怒っているのは、外川課長がライバルの堺田課長を追い落とすために、久山さんが危ないのを黙認して、殺させたからですね。
そして外川課長、上谷川議員周りの事件のもみ消し、探っていたジャーナリストを殺させた事件の証拠の隠滅と捜査妨害、ジャーナリストの妹への違法な監視と会社への嫌がらせ。全て、あなたの指示ですね」
直と豊川が、小さい声で、
「うわあ、全部ぶっこんだぞ」
「チャンスだからねえ」
と交わす。
外川課長は怯えも忘れたように無表情になって、怒鳴った。
「それの何が悪い!?」
久山はそれをずっと聞いていて、嗤い出す。
「そうだろ。だから俺は、お前を許せないんだ」
気配をグングンと強めていく。
「やめろ、久山さん!」
拷問の痛み、苦しみ、恐怖、絶望
お前も知れ
オレロ ヌケロ ハガセ ツブレロ
シネ
手を振り上げ、外川課長に向かって行く。
「だめだ、法で裁く!」
僕は間に入って、刀で受け止めた。
「久山さん。落ち着いて。あなたの怒りは尤もだ。でも、これはだめだ」
シネ シネ シネ シネ シネ――!
「久山さん。すみません。代わって、僕が謝ります。すみませんでした。
もう、逝きましょうか」
シネ シネ シネ!
なるべく一刀で済ませたい。刀に浄力をしっかりと纏わせ、深く、素早く、大きく胴を振り抜いた。
久山さんは動きを止め、さらさらと崩れながらも元の姿を取り戻して行き、キョトンとしたように自分の手を見て、消えて行った。
ふう、と、外川課長が安堵の息をついた。
「えらい目に逢った」
誰も、何も言わずに、お互いに窺うような目を交わしている。
「何だ?
境田じゃないか。どうしてこんなところにいる。お前は別室で待機中だろうが」
「それは、お前がした方が良さそうだぞ」
「何ィ?」
外川課長は境田課長に睨むような目を向けた。
が、竹山さん達でさえもが外川課長に味方する様子もなく、不審そうに皆の顔を見渡した。
そして、ドアのところの人影を見付ける。
「あ、刑事局長!」
と、兄がいた。
「あ、兄ちゃん――とと。おい、豊川。さっきの録音、出せ」
「お?おう!」
「これも聞いて下さい」
「わかった。
全員、そのまま動かずに待て。電話もパソコンも書類も触る事は禁止する。
御崎君、監察、検察と協力して、全ての局員を投入してでも事実を解明するように。忖度もごまかしも保身も許すな」
相変わらず、刑事局長は、清廉潔白な人だった。
「これで、野際真梨さんも怖い思いをせずに済むし、高岡の奥さんと子供達も、多少は世間の目がマシになるかなあ、直」
「そうだねえ。それに、知らせたら、相馬も富永も喜ぶねえ」
「そうだな。
おい、豊川!あいつらに連絡してやろうぜ!」
「おう!」
小声で盛り上がる僕達に、兄が苦笑しながら釘を刺しておく。
「いつもヒヤヒヤさせて。
怜、まだこれはオフレコ案件だからな。頼むぞ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「勿論!」
刑事局長は小さく笑って、
「御崎君の背中を見て、立派に育ってるようじゃないか」
と兄の肩を叩いて、僕達には軽く片手を上げて出て行った。
僕達3人と相馬と富永で、乾杯をする事になった。人の耳を心配して、相馬のマンションだ。
「凄ぇ。本当に、酒がたくさんあるなあ」
豊川と富永はバーか居酒屋かというような、本棚ならぬ酒棚を前に、ポカンと口を開けていた。
「怜、トマトはあるんでしょうね。あと、オムレツ」
「作ったから心配するな。
ああ、まずはここで乾杯するか」
先に数品の当てを並べて、乾杯をする事にした。
相馬お気に入りのトマトのチーズ焼きとあんかけふわふわオムレツとちくわ明太子詰めを先に出す。
「じゃあ、乾杯!」
一気にビールを喉に流し込む。
「はああ、美味い!」
「最高だぜ!」
「事件が解決できて、余計に美味しいねえ!」
「やっぱりあんた達、最高の仲間よ!」
これ以上のあては、ない。
「これを発表したら、警察への風当たりは大変でしょうね」
「隠すよりいいよ」
「ああ」
「ま、期待してるぜ!」
「ところで、あの美味しそうな匂いにも期待していいのかしら」
コンロの鍋から、いい匂いがしている。
「はいはい。まあ、期待しててくれ」
「飲み明かそうねえ」
「かんぱーい!」
瞬く間に、2回目の乾杯の声が上がった。
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