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脱落(4)飲み会
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居酒屋で、同期が集まっていた。
相馬の追及を上谷川議員も秘書ものらりくらりと躱し、確たる証拠もなく、疑惑は疑惑で終わった。
そして相馬は降格人事を下され、減給までされて、事実上の塩漬けにされることが決まり、辞表を提出して来たという。
「くはあ!美味しい!」
「飲め!相馬!とことん付き合うぞ!」
及川も言って、皆で何十回目になるかわからない乾杯をした。
相馬も、スッキリとした顔はしているが、悔しい事には違いないだろう。いつもの相馬とは別人のような雰囲気だ。大体、ザルというかワクの相馬が酔うという事自体が異常だ。
そうして周りが潰れて行き、やっと相馬は落ち着いて、静かに華酒をストレートで呑んでいた。アルコール度が90度を超す、日本一強い酒だ。
こいつ、おかしい。でも、これが正常な相馬で、僕は安心したのも事実だ。
「これからどうするんだ」
「幸い、司法試験は私も通ってるから、弁護士でもやるわ」
「事件弁護士かねえ?これは手ごわそうだねえ」
「事件はこりごりよ。民事を専門にやろうかしらね。企業の顧問弁護士か何かになって、優雅にやっていくわよ。それで、お金持ちを捕まえて左団扇よ。ほほほ!」
僕達も笑っていた。
そして相馬は、僕達同期の、退職者1号になった。
官僚は、上に進むにつれて、1人、また1人と辞めていくのが不文律だ。そうして残った最後の1人が、最高の地位に着く。
しかし、こんな形でやめて行くのは、想像していなかった。
「相馬ぁ……。
ああ、美人弁護士コメンテーターとかはどうだ。知り合いのプロデューサーに紹介するぞ」
「ありがとう。怜、直。焼きトマトもあんかけオムレツもささ身の甘辛天ぷらも、美味しかった。楽しかった。絶対に忘れないから」
「うん」
「何かあったら、言ってねえ」
「ええ。
そうそう。怜も、美里様と離婚するなら言って。私が引き受けるから、あなたの弁護」
「まだ結婚もしてないよ。ていうか、縁起悪いな、おい」
「あははは!冗談よ!」
楽しそうに笑い声を上げる相馬を店の前で見送って、皆で、何となく溜め息をつく。
「脱落者、まずは1人か」
ボソリと葵が言った。
「おい――!」
及川が目つきを険しくするが、葵は手をヒラヒラと振った。
「じゃあ、お開きだね」
他は気付いていなかったらしい。
「明日も仕事だしなぁ」
「じゃあ、またな!」
などと言いながら、ゾロゾロと歩き出す。
「あいつ――!」
「葵はそういうヤツだ。そうだろ?それに、わざと寂しくてそう言ったのかも知れないし」
「そうそう。及川はいい奴だよねえ。友達思いでねえ」
「べ、別に、俺は。
それより、焼きトマトとかあんかけオムレツとかささ身の甘辛天ぷらとか、何?」
「いやあ、この前3人で家飲みしたんだよねえ」
「相馬の家、いろんなアルコールがあって面白かったぞ」
「俺も呼べよぉ。
よし。今度は俺達でやろう。それ、作れ。な」
「うん、やろう」
「ええ、何々?」
聞きつけたやつらが騒ぎ出し、今度誰かの家で飲む事が決定した。
これ以上、悲しい退職者は出て欲しくない。僕はそう思った。
相馬の追及を上谷川議員も秘書ものらりくらりと躱し、確たる証拠もなく、疑惑は疑惑で終わった。
そして相馬は降格人事を下され、減給までされて、事実上の塩漬けにされることが決まり、辞表を提出して来たという。
「くはあ!美味しい!」
「飲め!相馬!とことん付き合うぞ!」
及川も言って、皆で何十回目になるかわからない乾杯をした。
相馬も、スッキリとした顔はしているが、悔しい事には違いないだろう。いつもの相馬とは別人のような雰囲気だ。大体、ザルというかワクの相馬が酔うという事自体が異常だ。
そうして周りが潰れて行き、やっと相馬は落ち着いて、静かに華酒をストレートで呑んでいた。アルコール度が90度を超す、日本一強い酒だ。
こいつ、おかしい。でも、これが正常な相馬で、僕は安心したのも事実だ。
「これからどうするんだ」
「幸い、司法試験は私も通ってるから、弁護士でもやるわ」
「事件弁護士かねえ?これは手ごわそうだねえ」
「事件はこりごりよ。民事を専門にやろうかしらね。企業の顧問弁護士か何かになって、優雅にやっていくわよ。それで、お金持ちを捕まえて左団扇よ。ほほほ!」
僕達も笑っていた。
そして相馬は、僕達同期の、退職者1号になった。
官僚は、上に進むにつれて、1人、また1人と辞めていくのが不文律だ。そうして残った最後の1人が、最高の地位に着く。
しかし、こんな形でやめて行くのは、想像していなかった。
「相馬ぁ……。
ああ、美人弁護士コメンテーターとかはどうだ。知り合いのプロデューサーに紹介するぞ」
「ありがとう。怜、直。焼きトマトもあんかけオムレツもささ身の甘辛天ぷらも、美味しかった。楽しかった。絶対に忘れないから」
「うん」
「何かあったら、言ってねえ」
「ええ。
そうそう。怜も、美里様と離婚するなら言って。私が引き受けるから、あなたの弁護」
「まだ結婚もしてないよ。ていうか、縁起悪いな、おい」
「あははは!冗談よ!」
楽しそうに笑い声を上げる相馬を店の前で見送って、皆で、何となく溜め息をつく。
「脱落者、まずは1人か」
ボソリと葵が言った。
「おい――!」
及川が目つきを険しくするが、葵は手をヒラヒラと振った。
「じゃあ、お開きだね」
他は気付いていなかったらしい。
「明日も仕事だしなぁ」
「じゃあ、またな!」
などと言いながら、ゾロゾロと歩き出す。
「あいつ――!」
「葵はそういうヤツだ。そうだろ?それに、わざと寂しくてそう言ったのかも知れないし」
「そうそう。及川はいい奴だよねえ。友達思いでねえ」
「べ、別に、俺は。
それより、焼きトマトとかあんかけオムレツとかささ身の甘辛天ぷらとか、何?」
「いやあ、この前3人で家飲みしたんだよねえ」
「相馬の家、いろんなアルコールがあって面白かったぞ」
「俺も呼べよぉ。
よし。今度は俺達でやろう。それ、作れ。な」
「うん、やろう」
「ええ、何々?」
聞きつけたやつらが騒ぎ出し、今度誰かの家で飲む事が決定した。
これ以上、悲しい退職者は出て欲しくない。僕はそう思った。
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