552 / 1,046
水底からの告発(3)這い上がる
しおりを挟む
早朝から、橋脚工事の現場に警察のダイバーが潜っていた。
「ここは力丸建設の現場です。昨日は工事をしていたので近付く事ができなかったんですが、やっぱりそうか」
橋脚を作る土台作りをしている最中らしい。大きなクレーンで、ブロックを沈めているところだ。
「この下に遺体を沈めて固められたら、二度と見付からないところですよ」
「何としても見つけないと」
しかし、海水は酷く濁っていて、探し出すのは困難だという。
そうこうしていると、力丸達が、工事の邪魔をするのはいい加減にしてくれと言って来た。
「ここに何かお探しのものがあると言い切れるんですかい?」
チンピラが凄む。
「それは……ある!」
捜査員が無理やり自信たっぷりに言って、睨み合った。
と、西川さんは力丸から離れ、フラフラと海の方へと近付いて行く。
僕と直はそれを目で追った。
やがて、西川さんは縁に立つと、僕達を振り返り、それから、足元の海面を見た。
「そこですか」
僕と直は近付いて、横に並んで、覗き見る。
濁った海水が、岸に打ち寄せられている。
そこへ、西川さんがふわあっと浮いて、一点に向かうと、足先からゆっくりと、海に入って行く。
「ダイバーさん、そこのベニヤ板の浮いてる所」
ダイバーが、寄って行く。そして、西川さんは、ドプンと沈んで行った。
「そこを真っすぐ下に潜ってみてくれませんか」
「はい」
ダイバーが、言う通りに潜っていく。
全員が、縁に並んで海面を見ていた。
その中で、黒塗りの車が背後に止まると、スーツ姿の男が下りて来て怒鳴った。
「何をしている!?工事の邪魔をされて困ると訴えられて来てみれば、警察が邪魔をしているのか!」
「ああ、先生!」
力丸が笑いながらそちらへ行くが、僕達は無視していた。
「おい!無礼だな!」
ムッとしたように言う盛実議員だったが、その時海面には気泡がボコボコと浮き、じれる僕達の前に、ゆっくりとダイバーが姿を現した。
「この下にあるブロックの隙間に、人の遺体を発見しました!」
「いよっしゃあ!」
「なっ――!?」
捜査員と力丸・盛実で、顔付きが分かれた。
「というわけです。工事は中断、遺体を引き上げます。ここは今から、我々の現場です」
捜査員は胸を張って言い、慌ただしく動き出した。
「そ、そんな……」
盛実議員は踵を返し、
「そういう事ならしかたないな。私は関知しない。力丸さん、私は力になれないようだ」
と言う。
「先生!?」
「失礼する」
力丸は、忙しく何かを考えているようだった。
が、そこで、ピタリと全員が動きを止めた。
待って下さい、先生
どこからか、声がする。
そして、濡れたものが立てる、ピシャッという音がした。
「え?」
盛実議員も力丸も、音のする方、海の方へ目を向けた。
皆が、そちらを凍ったように見ている。
縁に、灰色の何かがかかっている。さっきまでは無かった何かだ。
「あれは何だ?」
目を凝らして盛実議員がそれを良く見ようとした時、その向こうに、グイッと大きな何かが現れた。
それが、縁に手をかけて上って来たヒトだと気付いた時、盛実議員も力丸も、
「ヒイッ!?」
と無意識のうちに声を上げていた。
「ななな――!?」
「西川太蔵さんですか?」
はい
「西川太蔵さんの、霊ですねえ」
西川さんは、ずぶ濡れな上に全身灰色に変色し、髪は乱れ、地面に這っていた。というのも、足が折れ、立てないのだ。ブロックに押し込む時に、長さを調整されたのだろう。そして、胸に大きな裂傷があるらしかった。
盛実議員は腰を抜かして座り込んだ。
「ここは力丸建設の現場です。昨日は工事をしていたので近付く事ができなかったんですが、やっぱりそうか」
橋脚を作る土台作りをしている最中らしい。大きなクレーンで、ブロックを沈めているところだ。
「この下に遺体を沈めて固められたら、二度と見付からないところですよ」
「何としても見つけないと」
しかし、海水は酷く濁っていて、探し出すのは困難だという。
そうこうしていると、力丸達が、工事の邪魔をするのはいい加減にしてくれと言って来た。
「ここに何かお探しのものがあると言い切れるんですかい?」
チンピラが凄む。
「それは……ある!」
捜査員が無理やり自信たっぷりに言って、睨み合った。
と、西川さんは力丸から離れ、フラフラと海の方へと近付いて行く。
僕と直はそれを目で追った。
やがて、西川さんは縁に立つと、僕達を振り返り、それから、足元の海面を見た。
「そこですか」
僕と直は近付いて、横に並んで、覗き見る。
濁った海水が、岸に打ち寄せられている。
そこへ、西川さんがふわあっと浮いて、一点に向かうと、足先からゆっくりと、海に入って行く。
「ダイバーさん、そこのベニヤ板の浮いてる所」
ダイバーが、寄って行く。そして、西川さんは、ドプンと沈んで行った。
「そこを真っすぐ下に潜ってみてくれませんか」
「はい」
ダイバーが、言う通りに潜っていく。
全員が、縁に並んで海面を見ていた。
その中で、黒塗りの車が背後に止まると、スーツ姿の男が下りて来て怒鳴った。
「何をしている!?工事の邪魔をされて困ると訴えられて来てみれば、警察が邪魔をしているのか!」
「ああ、先生!」
力丸が笑いながらそちらへ行くが、僕達は無視していた。
「おい!無礼だな!」
ムッとしたように言う盛実議員だったが、その時海面には気泡がボコボコと浮き、じれる僕達の前に、ゆっくりとダイバーが姿を現した。
「この下にあるブロックの隙間に、人の遺体を発見しました!」
「いよっしゃあ!」
「なっ――!?」
捜査員と力丸・盛実で、顔付きが分かれた。
「というわけです。工事は中断、遺体を引き上げます。ここは今から、我々の現場です」
捜査員は胸を張って言い、慌ただしく動き出した。
「そ、そんな……」
盛実議員は踵を返し、
「そういう事ならしかたないな。私は関知しない。力丸さん、私は力になれないようだ」
と言う。
「先生!?」
「失礼する」
力丸は、忙しく何かを考えているようだった。
が、そこで、ピタリと全員が動きを止めた。
待って下さい、先生
どこからか、声がする。
そして、濡れたものが立てる、ピシャッという音がした。
「え?」
盛実議員も力丸も、音のする方、海の方へ目を向けた。
皆が、そちらを凍ったように見ている。
縁に、灰色の何かがかかっている。さっきまでは無かった何かだ。
「あれは何だ?」
目を凝らして盛実議員がそれを良く見ようとした時、その向こうに、グイッと大きな何かが現れた。
それが、縁に手をかけて上って来たヒトだと気付いた時、盛実議員も力丸も、
「ヒイッ!?」
と無意識のうちに声を上げていた。
「ななな――!?」
「西川太蔵さんですか?」
はい
「西川太蔵さんの、霊ですねえ」
西川さんは、ずぶ濡れな上に全身灰色に変色し、髪は乱れ、地面に這っていた。というのも、足が折れ、立てないのだ。ブロックに押し込む時に、長さを調整されたのだろう。そして、胸に大きな裂傷があるらしかった。
盛実議員は腰を抜かして座り込んだ。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる