体質が変わったので

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水底からの告発(1)イチかバチか

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 陰陽課はまだ人数の関係で、警視庁にしか作られていない。なので、協力依頼があれば、地元霊能師協会に連絡するか陰陽課が出張するかして、事に当たる事になる。
 今回の依頼は東北の県警からで、事件解決のために藁をもすがる思いで依頼してきたものだった事もあり、僕と直が出向く事になった。
「手詰まりで、イチかバチかだろ。責任感じるなあ」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「霊がいてくれればいいけど、いなかったらどうしようも無いからねえ。こればっかりは」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「いなくても僕達の責任ではないが、見つけられなかっただけじゃないか、とか」
「精一杯やるしかないねえ」
 2人で新幹線の中で軽く溜め息をつき、気分を入れ替えた。
「もう、考えてもしかたない。うん。
 お土産でも考えよう」
 直も、ガイドブックを開く。
「そう来なくっちゃねえ。
 ええっと、新幹線の売店なら、東北のお土産が広くたくさん揃ってると思うんだよねえ」
「そうそう。山形の米沢牛、宮城のふかひれスープ、牛タン、福島の喜多方ラーメンは外せないな」
「宮城の笹カマとずんだ、山形のレーズンサンドクッキーも忘れちゃあいけないよね」
 僕達は、真剣な顔でお土産の検討をし始めた。
 その話が持ち込まれたのは、津波の傷跡がまだ残る、東北からだった。
 工事の利権を巡っての贈収賄という、ある種想像通りの事件が起こり、それを唯一証言してくれることになった人物が行方不明になったのだが、どうも死んでいるというのが捜査陣の見解だった。
 捜査は手詰まりになり、その突破口として、その人物の幽霊がいれば何とか証拠になりそうな物について聞けるのではないかという淡い期待に縋っての依頼だ。
 不確かで、大丈夫かと県警本部でも随分悩んだらしいが、背に腹は代えられない、使えるものは何でも試す、そう本部長が決め、依頼をしてきたそうだ。
 そう言われると、陰陽課としても、何とかしたいと張り切らずにはいられない、というわけだ。
「皆にラーメンをお土産にして、部屋でゆでるか」
「いいねえ。やろう、やろう」
 いや、気は抜いていない。決して。
 僕達は適当に張り切り過ぎないようにしながら、事件に臨むために新幹線で東北入りしたのだった。



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