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仕事熱心な男(3)稼働中
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夜に出直して、工場の隅に張った結界の中で、在原さんと担当刑事との5人で待つ。静かなもので、外を通る車の音が聞こえるくらいだ。
11時を過ぎた頃だろうか。不意に、気配が満ち、機械音が響いた。
3人はビクッと体を緊張させる。
「ああ、来たねえ」
「こっちも行くか」
結界を解除すると、それは消えようとしたが、在原さんを見付けると、声を上げて寄って来た。
「工場長、すみません。時間までに必ず仕上げますから」
下半身は無く上半身のみで、両手で床を這って、だ。
「ヒィッ!?」
見上げられて、在原さんは腰を抜かして尻もちをついた。担当刑事2人は、硬直してはいるが、意地で立っているようだ。
「中川泰英さんですね」
言うと、彼は
「はい」
と返事をした。
「先月、何があったか、覚えていますか」
「ええっと、先月は納期が近いのにまだ仕上がってなくて。それで、残業と休日出勤を」
あっさりと答える。
「タイムカードによると、休憩は取り、休みも出勤せず、残業は週に4時間となっていますが」
「そんなので片付きませんよ。それは表向きです。時間になるとタイムカードを押して、休日は押さずに仕事するんですよ。
新人かな?早く慣れてね」
疲れた顔で、笑う。
「そんなに忙しいんですか。大変ですね」
「仕方ないよ。他に仕事を探そうにも中々ないご時世だし、仕事があるだけましさ」
在原さんは、後ろでガタガタ震えている。
「だから工場長。急いで間に合わせますから」
「あ……あ……」
「中川さん。あなたは先月、工場内で事故に遭って亡くなったんですよ」
「ええ?そんな。納期に間に合わないじゃないか」
中川さんの関心は、どうしてもそこらしい。
「中川さん。もう、時間外労働はしなくていいねえ」
「いいのか?」
「はい。お疲れ様でした」
「そうかあ。間に合ったのか。良かった」
中川さんは笑うと、キラキラと光って立ち昇るようにして消えて行った。同時に、機械音も止まる。
「逝ったな」
嘆息して言うと、背後で、在原さんが泣き出した。
「親会社が言うんだ!断ったら他に仕事を回すって!仕事を切られたら倒産なんだぞ!?どうすれば良かったんだよ!俺だって、俺だって!」
男泣きに泣く在原さんの声が、深夜の工場内に響き渡った。
報告書を前に、嘆息する。
「親会社は知らんぷり、か」
「発注はしてもその先までは知らないって、そりゃあそうだけどねえ」
「この構造が変わらない限り、似たような事故は起こるかもしれないな」
「そこまで命がけで仕事をするのはねえ」
僕と直はそう言って、頬杖をつく。
そんな僕達に、徳川さんが言った。
「あはは。報告書、出してね」
「ああ、面倒臭い」
「あ、もう昼休み時間だねえ」
向こうで、沢井さんが噴き出した。
11時を過ぎた頃だろうか。不意に、気配が満ち、機械音が響いた。
3人はビクッと体を緊張させる。
「ああ、来たねえ」
「こっちも行くか」
結界を解除すると、それは消えようとしたが、在原さんを見付けると、声を上げて寄って来た。
「工場長、すみません。時間までに必ず仕上げますから」
下半身は無く上半身のみで、両手で床を這って、だ。
「ヒィッ!?」
見上げられて、在原さんは腰を抜かして尻もちをついた。担当刑事2人は、硬直してはいるが、意地で立っているようだ。
「中川泰英さんですね」
言うと、彼は
「はい」
と返事をした。
「先月、何があったか、覚えていますか」
「ええっと、先月は納期が近いのにまだ仕上がってなくて。それで、残業と休日出勤を」
あっさりと答える。
「タイムカードによると、休憩は取り、休みも出勤せず、残業は週に4時間となっていますが」
「そんなので片付きませんよ。それは表向きです。時間になるとタイムカードを押して、休日は押さずに仕事するんですよ。
新人かな?早く慣れてね」
疲れた顔で、笑う。
「そんなに忙しいんですか。大変ですね」
「仕方ないよ。他に仕事を探そうにも中々ないご時世だし、仕事があるだけましさ」
在原さんは、後ろでガタガタ震えている。
「だから工場長。急いで間に合わせますから」
「あ……あ……」
「中川さん。あなたは先月、工場内で事故に遭って亡くなったんですよ」
「ええ?そんな。納期に間に合わないじゃないか」
中川さんの関心は、どうしてもそこらしい。
「中川さん。もう、時間外労働はしなくていいねえ」
「いいのか?」
「はい。お疲れ様でした」
「そうかあ。間に合ったのか。良かった」
中川さんは笑うと、キラキラと光って立ち昇るようにして消えて行った。同時に、機械音も止まる。
「逝ったな」
嘆息して言うと、背後で、在原さんが泣き出した。
「親会社が言うんだ!断ったら他に仕事を回すって!仕事を切られたら倒産なんだぞ!?どうすれば良かったんだよ!俺だって、俺だって!」
男泣きに泣く在原さんの声が、深夜の工場内に響き渡った。
報告書を前に、嘆息する。
「親会社は知らんぷり、か」
「発注はしてもその先までは知らないって、そりゃあそうだけどねえ」
「この構造が変わらない限り、似たような事故は起こるかもしれないな」
「そこまで命がけで仕事をするのはねえ」
僕と直はそう言って、頬杖をつく。
そんな僕達に、徳川さんが言った。
「あはは。報告書、出してね」
「ああ、面倒臭い」
「あ、もう昼休み時間だねえ」
向こうで、沢井さんが噴き出した。
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