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ヒーローショー(1)休日のお父さん
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休日である。
「敬、お母さんが買い物してる間何しよう。屋上に、ヒーローが来てるらしいぞ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ヒーロー?陰陽戦隊?」
甥の敬が、パッと顔を上げる。
「ああ、うん。そうらしいな」
「行く!」
「ようし、行くか。
冴子姉、屋上にいるから。電話してくれたら行くし」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。
「わかったわ。お願いね」
「兄ちゃんはどうする?冴子姉と一緒に行く?」
「婦人服と化粧品を見てもわからないからな。屋上で」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「じゃあ、後でね」
デパートに来ているのだが、しばし冴子姉と男組は、別行動を取る事になった。
「お父さんも怜も、どんなヒーローが好きだったの?」
「お父さんは、仮面ライダーかな」
「僕は兄ちゃん」
「ヒーロー?」
「ヒーロー」
ぞくぞくと屋上を目指す親子連れに混じって歩く。
と、聞き覚えのある声がした。
「舞の好きな陰陽戦隊が来るんだってさ」
見ると、同期の男、倉阪文彦がいた。いつもどっしりと落ち着いた頼れるやつで、学生結婚をしており、一人娘は敬と同い年のはずだ。
しかし、今の倉阪はいつもの雰囲気とは違い、困り切っていたようだった。
一緒にいるのは、敬と同じくらいの女の子だが、なぜか、怒っているのか目も合わせていない。
「行きたければパパだけ行けば?舞、ママと見るもん」
「舞~」
倉阪はガックリと肩を落とし、視線に気付いたように、こちらへ目を向けた。
「あ、御崎」
「倉阪。奇遇だな」
「ああ。御崎こそ。
ん。その子は前にスマホで見た、自慢の甥っ子じゃないか」
「そういうその子は、自慢のかわいい娘さんか。大きくなって、可愛いな」
服とお揃いのリボンが。
女の子はちょっと嬉しそうにしてから、敬に目を向けた。
敬はニコニコと笑って近付き、
「御崎 敬です!」
と言って、ペコリと頭を下げた。
よし!よく言えたぞ、敬!やっぱり賢いぞ!
「う、あ……倉阪 舞です」
女の子は恥ずかしそうに倉阪の影に隠れながら言い、はっと気づいたように影から出た。
「倉阪も屋上に?」
「ああ。妻が買い物に行ってる間――って、み、御崎警視正。し、失礼しました!」
そこで兄に気付いて直立不動になる。
「しー、しー」
「あ、もうしわけありません」
「いや。御崎です。弟が世話になって」
「いえ!とんでもありません!」
「倉阪、落ち着いて」
「ああ、すまん」
ようやく倉阪は、落ち着きを取り戻したようだった。
「舞ちゃんは、確か敬と同じ年だったな」
「舞ちゃん?ぼく、敬。一緒に陰陽戦隊に会いに行こ!」
敬が手を差し出し、舞ちゃんがその手をつないで笑う。
「うん、敬君!」
それで、皆で揃って屋上を目指す。
「どうしたんだ?」
「聞いてくれよ、御崎。舞が、『パパなんて嫌い』って言うんだよ。この前の日曜日、動物園に行くって言ってたのが休日出勤になっていけなくなってしまったから……」
倉阪が、ポンコツだ。
「だって、約束したのに!」
キッと舞ちゃんが睨んでいる。
「う、舞。すまん。
御崎の所はどうしてるんだ?あるだろう?こういうの」
「うちは、なあ、兄ちゃん」
「ああ。仕事だからと言ったら納得するな。お父さんと怜の仕事はそういう事があると、もうわかっている」
敬は倉阪に言った。
「うん!あのね、お父さんと怜は、困っている人を助けたり、悪い人を捕まえる大事な仕事なの。お休みの日に遊べないのはちょっと詰まらないけど、別の日に遊んでくれるからいいの。警察官はヒーローなの!」
僕は、付け加えた。
「この小父さんも、僕の友達で、仲間だぞ、敬」
「じゃあ、小父さんもヒーローだね!」
「あ、ありがとう、敬君。嬉しいなあ」
舞ちゃんは驚いたように敬を見ていたが、ややあって、訊いた。
「敬君、約束してたの破られてもいいの?」
「うん!大事なお仕事だから、別にいいよ!舞ちゃんのお父さんもヒーローなんだね!皆の為に頑張るんだから、かっこいいね!ぼくも大きくなったら、お巡りさんになりたいなあ」
舞ちゃんは嬉しそうに敬と顔を見合わせて笑うと、大きく手を振って歩き出した。
「御崎、御崎さん、ありがとうございました。助かりました。もうずっとへそを曲げてて……」
倉阪と兄は苦笑を浮かべ、
「父親は辛いな」
と言った。
この時はまだ、休日のヒーローショーで思わぬハプニングが待っているとは、誰も予想だにしていなかったのである。
「敬、お母さんが買い物してる間何しよう。屋上に、ヒーローが来てるらしいぞ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ヒーロー?陰陽戦隊?」
甥の敬が、パッと顔を上げる。
「ああ、うん。そうらしいな」
「行く!」
「ようし、行くか。
冴子姉、屋上にいるから。電話してくれたら行くし」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。
「わかったわ。お願いね」
「兄ちゃんはどうする?冴子姉と一緒に行く?」
「婦人服と化粧品を見てもわからないからな。屋上で」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「じゃあ、後でね」
デパートに来ているのだが、しばし冴子姉と男組は、別行動を取る事になった。
「お父さんも怜も、どんなヒーローが好きだったの?」
「お父さんは、仮面ライダーかな」
「僕は兄ちゃん」
「ヒーロー?」
「ヒーロー」
ぞくぞくと屋上を目指す親子連れに混じって歩く。
と、聞き覚えのある声がした。
「舞の好きな陰陽戦隊が来るんだってさ」
見ると、同期の男、倉阪文彦がいた。いつもどっしりと落ち着いた頼れるやつで、学生結婚をしており、一人娘は敬と同い年のはずだ。
しかし、今の倉阪はいつもの雰囲気とは違い、困り切っていたようだった。
一緒にいるのは、敬と同じくらいの女の子だが、なぜか、怒っているのか目も合わせていない。
「行きたければパパだけ行けば?舞、ママと見るもん」
「舞~」
倉阪はガックリと肩を落とし、視線に気付いたように、こちらへ目を向けた。
「あ、御崎」
「倉阪。奇遇だな」
「ああ。御崎こそ。
ん。その子は前にスマホで見た、自慢の甥っ子じゃないか」
「そういうその子は、自慢のかわいい娘さんか。大きくなって、可愛いな」
服とお揃いのリボンが。
女の子はちょっと嬉しそうにしてから、敬に目を向けた。
敬はニコニコと笑って近付き、
「御崎 敬です!」
と言って、ペコリと頭を下げた。
よし!よく言えたぞ、敬!やっぱり賢いぞ!
「う、あ……倉阪 舞です」
女の子は恥ずかしそうに倉阪の影に隠れながら言い、はっと気づいたように影から出た。
「倉阪も屋上に?」
「ああ。妻が買い物に行ってる間――って、み、御崎警視正。し、失礼しました!」
そこで兄に気付いて直立不動になる。
「しー、しー」
「あ、もうしわけありません」
「いや。御崎です。弟が世話になって」
「いえ!とんでもありません!」
「倉阪、落ち着いて」
「ああ、すまん」
ようやく倉阪は、落ち着きを取り戻したようだった。
「舞ちゃんは、確か敬と同じ年だったな」
「舞ちゃん?ぼく、敬。一緒に陰陽戦隊に会いに行こ!」
敬が手を差し出し、舞ちゃんがその手をつないで笑う。
「うん、敬君!」
それで、皆で揃って屋上を目指す。
「どうしたんだ?」
「聞いてくれよ、御崎。舞が、『パパなんて嫌い』って言うんだよ。この前の日曜日、動物園に行くって言ってたのが休日出勤になっていけなくなってしまったから……」
倉阪が、ポンコツだ。
「だって、約束したのに!」
キッと舞ちゃんが睨んでいる。
「う、舞。すまん。
御崎の所はどうしてるんだ?あるだろう?こういうの」
「うちは、なあ、兄ちゃん」
「ああ。仕事だからと言ったら納得するな。お父さんと怜の仕事はそういう事があると、もうわかっている」
敬は倉阪に言った。
「うん!あのね、お父さんと怜は、困っている人を助けたり、悪い人を捕まえる大事な仕事なの。お休みの日に遊べないのはちょっと詰まらないけど、別の日に遊んでくれるからいいの。警察官はヒーローなの!」
僕は、付け加えた。
「この小父さんも、僕の友達で、仲間だぞ、敬」
「じゃあ、小父さんもヒーローだね!」
「あ、ありがとう、敬君。嬉しいなあ」
舞ちゃんは驚いたように敬を見ていたが、ややあって、訊いた。
「敬君、約束してたの破られてもいいの?」
「うん!大事なお仕事だから、別にいいよ!舞ちゃんのお父さんもヒーローなんだね!皆の為に頑張るんだから、かっこいいね!ぼくも大きくなったら、お巡りさんになりたいなあ」
舞ちゃんは嬉しそうに敬と顔を見合わせて笑うと、大きく手を振って歩き出した。
「御崎、御崎さん、ありがとうございました。助かりました。もうずっとへそを曲げてて……」
倉阪と兄は苦笑を浮かべ、
「父親は辛いな」
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この時はまだ、休日のヒーローショーで思わぬハプニングが待っているとは、誰も予想だにしていなかったのである。
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