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夏休みのキャンプ場(1)危険なファミリー
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山陽地方にあるそのキャンプ場は、貸しコテージがあり、ちょっと楽しむのには手軽で使いやすいキャンプ場だった。大きなゆったりとした川が流れているが、浅く、流れも穏やかだ。ファミリー層や学生グループがよく利用している。
そして川には吊り橋がかかっていて、吊り橋の向こうにはトンネルがあった。
そこを訪れたその一家も、昼間は散々川遊びをし、吊り橋を揺らしながら渡り、姉弟だけでなく親も、疲れ果てて早々にコテージで寝袋に入った。
その、深夜の事だった。
ドアをノックする音がする。
「ああ?誰だぁ、夜中に」
目をこすりながら父親が起き上がった。
だが、廊下へのドアを開ける前に、昼間の子供達の話を思い出してしまった。有名な映画、『13日の金曜日』である。その父親はホラーは苦手で、子供の頃、サスペリアの『決して1人では見ないでください』というCMですらも、耳を押さえながら見ていたものだった。
「まさかな。はは」
乾いた笑みを無理矢理浮かべ、管理棟の人か何かかと、玄関へと向かう。
その間にも、ノックの音は、じれたように、大きく、強くなっていく。もう、ノックというレベルではない。
「何?」
流石に家族も目を醒まし、起き出してきた。
「さあ。誰だろうなあ」
「ちょっと、大丈夫?」
「何か、急用かも知れないし」
父親が急いで玄関に向かい、ドアに手を伸ばした時、一際大きく強い音が、「ドン!」と響き、思わず手を引っ込めた。
「な、何!?」
奥さんがビクビクとして、
「開けない方がいいわよ!」
と言い出す。子供達も、くっついて不安そうな顔だ。
「ジェイソンはな、映画の中の――」
「わかってるわよ。不審者じゃないかって言ってるの」
3人は口を揃えてそう言った。
「あ、そうだな。うん」
父親は誤解とさっきの自分の想像を誤魔化すように咳払いをしたが、次の瞬間、文字通り飛び上がった。
周囲の壁という壁から、一斉に、力一杯ドンドンと叩く大音響が響き渡ったのである。
「何!?何!?」
「ぎゃあああ!!怖いよう!!」
「お母さん!!」
余談だが、この「お母さん」は、父親のセリフである。
そうして一家は、明け方まで続いたその音の中で、抱き合って震えていたのだった。
徳川さんはそう言うと、僕と直を見た。
「依頼の案件はこうだよ」
僕は、その様子を思い浮かべて言った。
「その後の父親の評価が心配ですね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「まあねえ。ドンと構えて欲しかったねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「愛されるお父さんでいくべきかな」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「じゃなくて、どうも家族連れの所にだけ出るらしくてね。夏休みのキャンプがてら、行って来ない?怜君と直君がいれば心配ないだろうし、何なら、京香さんにも声をかけてもいいから。
経費として出すのは、2人分の交通費とコテージ代。だから、人数はあんまり関係ないんだよね。
ああ。僕も一緒に行きたいのに、流石に揃って役職が消えるのもねえ」
徳川さんはそう言って、溜め息をつく。
「じゃあ、行ってきます!兄ちゃんに休める日を訊いて来よう!」
こういう時、すぐ隣で働いていると便利でいいな。
「あ、調査協力だって言っておいてね」
「はあい!
直は?」
「千穂ちゃんはいつでも休みはいいって言ってたから、司さんのスケジュールに合わせるよお」
僕と直は、ウキウキと、兄のいる警察庁刑事局を目指してすっ飛んで行った。
そして川には吊り橋がかかっていて、吊り橋の向こうにはトンネルがあった。
そこを訪れたその一家も、昼間は散々川遊びをし、吊り橋を揺らしながら渡り、姉弟だけでなく親も、疲れ果てて早々にコテージで寝袋に入った。
その、深夜の事だった。
ドアをノックする音がする。
「ああ?誰だぁ、夜中に」
目をこすりながら父親が起き上がった。
だが、廊下へのドアを開ける前に、昼間の子供達の話を思い出してしまった。有名な映画、『13日の金曜日』である。その父親はホラーは苦手で、子供の頃、サスペリアの『決して1人では見ないでください』というCMですらも、耳を押さえながら見ていたものだった。
「まさかな。はは」
乾いた笑みを無理矢理浮かべ、管理棟の人か何かかと、玄関へと向かう。
その間にも、ノックの音は、じれたように、大きく、強くなっていく。もう、ノックというレベルではない。
「何?」
流石に家族も目を醒まし、起き出してきた。
「さあ。誰だろうなあ」
「ちょっと、大丈夫?」
「何か、急用かも知れないし」
父親が急いで玄関に向かい、ドアに手を伸ばした時、一際大きく強い音が、「ドン!」と響き、思わず手を引っ込めた。
「な、何!?」
奥さんがビクビクとして、
「開けない方がいいわよ!」
と言い出す。子供達も、くっついて不安そうな顔だ。
「ジェイソンはな、映画の中の――」
「わかってるわよ。不審者じゃないかって言ってるの」
3人は口を揃えてそう言った。
「あ、そうだな。うん」
父親は誤解とさっきの自分の想像を誤魔化すように咳払いをしたが、次の瞬間、文字通り飛び上がった。
周囲の壁という壁から、一斉に、力一杯ドンドンと叩く大音響が響き渡ったのである。
「何!?何!?」
「ぎゃあああ!!怖いよう!!」
「お母さん!!」
余談だが、この「お母さん」は、父親のセリフである。
そうして一家は、明け方まで続いたその音の中で、抱き合って震えていたのだった。
徳川さんはそう言うと、僕と直を見た。
「依頼の案件はこうだよ」
僕は、その様子を思い浮かべて言った。
「その後の父親の評価が心配ですね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「まあねえ。ドンと構えて欲しかったねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「愛されるお父さんでいくべきかな」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「じゃなくて、どうも家族連れの所にだけ出るらしくてね。夏休みのキャンプがてら、行って来ない?怜君と直君がいれば心配ないだろうし、何なら、京香さんにも声をかけてもいいから。
経費として出すのは、2人分の交通費とコテージ代。だから、人数はあんまり関係ないんだよね。
ああ。僕も一緒に行きたいのに、流石に揃って役職が消えるのもねえ」
徳川さんはそう言って、溜め息をつく。
「じゃあ、行ってきます!兄ちゃんに休める日を訊いて来よう!」
こういう時、すぐ隣で働いていると便利でいいな。
「あ、調査協力だって言っておいてね」
「はあい!
直は?」
「千穂ちゃんはいつでも休みはいいって言ってたから、司さんのスケジュールに合わせるよお」
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