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パールリング(2)ワレ、75ネンブリニ、オモヒダス
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田崎さんと三木本さんは、応接セットで向かい合い、囲碁に興じている。
それを僕達は眺め、小声で相談していた。
「強盗殺人の疑いですか」
桂さんが言うと、
「窃盗か横領かも知れんぞ」
と大池さんが言い、
「どっちにしろ、時効が成立しているし、事件が起こったのは海外だし、捜査できませんよ」
と下井さんが言い、皆で嘆息する。
益田さんは、ガタガタ震えてお守りを握りしめていて、会話に入って来られないが。
「何で今頃なのかねえ?」
「もうすぐ終戦記念日でしょう?それで集まったら、バッタリ会って、思い出したんですって」
畑田さんが言う。
「それで、署の受付に?騒ぎになったでしょう?」
訊くと、黒井さんが、
「幸い、夜中で人の少ない時間だったからな。あの姿で入って来られて、カウンターの署員が失神しただけで済んだ。その後すぐにここへ通して、陰陽課へ連絡したから。
昼間だったら、ここへ来る途中で大騒ぎだったな。あの通り、皆に見えるから」
と笑う。
「笑い事じゃないですよ、もう」
春日も言いながら、笑っている。
「とにかく、あの2人の遺族について調べて下さい。それと、部隊の消息も」
「はい」
彼らは、手分けして捜査を開始した。
僕と直は、もっと詳しい話は聞けないかと、2人に近寄った。
「少しよろしいですか」
2人は、同時に顔を上げ、居住まいを正した。
「なんなりと」
「真珠を見付けた所ですが、どういったところか、はっきりとわかりますか」
2人はしばらく考えて、口を開いた。
「小さな町だったよな、田崎」
「ああ。中国大陸の、どの辺だろうな。インドシナではあったが」
インドシナ。フランス領だった所だ。当時豊かな植民地だったので、フランスはここを手放したくなく、日本は南方に進出するためにここを利用したかった。そしてインドシナは、フランスの植民地政策に不満を持っていた。その結果、それまで友好関係にあった日仏が、ぶつかる事になったはずだ。
「小さな町で、住民達は皆逃げ出していた。そこに着いた我が隊は、何とか助けを得られないかと思っていたが誰もおらず、食料でも分けてもらえないかと手分けして回っていたのだ」
「あれを見付けたのは、商店の奥の部屋だったよな、田崎」
「そうだ。住人が溜めた金で買って、隠していたのだろう。紙袋に無造作に入れて、メリケン粉や砂糖の棚に混ぜてあった。
メリケン粉と砂糖は、隊に報告したな、三木本」
2人はそうだ、そうだと頷き合った。仲はいいようだ。
「メリケン粉と砂糖?何の店かな。雑貨屋ですか?」
「いや、食べ物を売っているようだった」
「食堂かねえ?」
「いや、ケエキというものの絵が看板に書いてあったな」
「じゃあ、ケーキ屋かパン屋かな」
4人で、少し考えた。
「その紙袋ですが、大きさは」
「このくらい?いや」
田崎と三木本は2人で微修正していたが、B5用紙くらいの大きさだという事だった。
「そこに、異国の文字が書いてあったな」
「ああ、そうだ。全部は読めなかったが、パアル何とかだった」
「パールですか」
「うむ。パアルとは真珠の事だろう?」
「そうですよぉ。よく御存知で」
2人は胸を張って少し笑った。
パール。パールねえ。
「では、斥候に見つかった時の事ですが」
「うむ。運が悪かったな、お互いに。どしゃ降りの夕立で雨宿りをしようとしたら、向こうと鉢合わせした」
「山の、濃いジャングルの中だ」
「向こうにしても、1人なのに見付かって、心細かったと思う」
「その時は、真珠はまだあったのですか」
「それが、無かった。紙袋が破れていたので慌てて探したが、なかったんだ」
「あれを知っていたのは、俺と貴様だけだぞ。しかも、紙袋はあったのに中味が消えていただと?」
「本当だ!」
2人はまたも、睨み合った。
「ありがとうございました。また何かあれば、お願いします」
僕と直は、麦茶と落雁を置いて離れた。
そして離れた所で、落雁を大事そうに舐めるようにして食べる2人を見る。
「怜、どうかねえ」
「ううーん。まだピースが足りないよなあ。皆の調査に期待しよう。
でも、何とか上手く解決できたらいいんだがな」
「そうだねえ」
「でも、何か引っかかるんだよなあ」
僕は唸って、考え込んだ。
それを僕達は眺め、小声で相談していた。
「強盗殺人の疑いですか」
桂さんが言うと、
「窃盗か横領かも知れんぞ」
と大池さんが言い、
「どっちにしろ、時効が成立しているし、事件が起こったのは海外だし、捜査できませんよ」
と下井さんが言い、皆で嘆息する。
益田さんは、ガタガタ震えてお守りを握りしめていて、会話に入って来られないが。
「何で今頃なのかねえ?」
「もうすぐ終戦記念日でしょう?それで集まったら、バッタリ会って、思い出したんですって」
畑田さんが言う。
「それで、署の受付に?騒ぎになったでしょう?」
訊くと、黒井さんが、
「幸い、夜中で人の少ない時間だったからな。あの姿で入って来られて、カウンターの署員が失神しただけで済んだ。その後すぐにここへ通して、陰陽課へ連絡したから。
昼間だったら、ここへ来る途中で大騒ぎだったな。あの通り、皆に見えるから」
と笑う。
「笑い事じゃないですよ、もう」
春日も言いながら、笑っている。
「とにかく、あの2人の遺族について調べて下さい。それと、部隊の消息も」
「はい」
彼らは、手分けして捜査を開始した。
僕と直は、もっと詳しい話は聞けないかと、2人に近寄った。
「少しよろしいですか」
2人は、同時に顔を上げ、居住まいを正した。
「なんなりと」
「真珠を見付けた所ですが、どういったところか、はっきりとわかりますか」
2人はしばらく考えて、口を開いた。
「小さな町だったよな、田崎」
「ああ。中国大陸の、どの辺だろうな。インドシナではあったが」
インドシナ。フランス領だった所だ。当時豊かな植民地だったので、フランスはここを手放したくなく、日本は南方に進出するためにここを利用したかった。そしてインドシナは、フランスの植民地政策に不満を持っていた。その結果、それまで友好関係にあった日仏が、ぶつかる事になったはずだ。
「小さな町で、住民達は皆逃げ出していた。そこに着いた我が隊は、何とか助けを得られないかと思っていたが誰もおらず、食料でも分けてもらえないかと手分けして回っていたのだ」
「あれを見付けたのは、商店の奥の部屋だったよな、田崎」
「そうだ。住人が溜めた金で買って、隠していたのだろう。紙袋に無造作に入れて、メリケン粉や砂糖の棚に混ぜてあった。
メリケン粉と砂糖は、隊に報告したな、三木本」
2人はそうだ、そうだと頷き合った。仲はいいようだ。
「メリケン粉と砂糖?何の店かな。雑貨屋ですか?」
「いや、食べ物を売っているようだった」
「食堂かねえ?」
「いや、ケエキというものの絵が看板に書いてあったな」
「じゃあ、ケーキ屋かパン屋かな」
4人で、少し考えた。
「その紙袋ですが、大きさは」
「このくらい?いや」
田崎と三木本は2人で微修正していたが、B5用紙くらいの大きさだという事だった。
「そこに、異国の文字が書いてあったな」
「ああ、そうだ。全部は読めなかったが、パアル何とかだった」
「パールですか」
「うむ。パアルとは真珠の事だろう?」
「そうですよぉ。よく御存知で」
2人は胸を張って少し笑った。
パール。パールねえ。
「では、斥候に見つかった時の事ですが」
「うむ。運が悪かったな、お互いに。どしゃ降りの夕立で雨宿りをしようとしたら、向こうと鉢合わせした」
「山の、濃いジャングルの中だ」
「向こうにしても、1人なのに見付かって、心細かったと思う」
「その時は、真珠はまだあったのですか」
「それが、無かった。紙袋が破れていたので慌てて探したが、なかったんだ」
「あれを知っていたのは、俺と貴様だけだぞ。しかも、紙袋はあったのに中味が消えていただと?」
「本当だ!」
2人はまたも、睨み合った。
「ありがとうございました。また何かあれば、お願いします」
僕と直は、麦茶と落雁を置いて離れた。
そして離れた所で、落雁を大事そうに舐めるようにして食べる2人を見る。
「怜、どうかねえ」
「ううーん。まだピースが足りないよなあ。皆の調査に期待しよう。
でも、何とか上手く解決できたらいいんだがな」
「そうだねえ」
「でも、何か引っかかるんだよなあ」
僕は唸って、考え込んだ。
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