体質が変わったので

JUN

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110番(2)過去の事件

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 課長は、重い溜め息をついてから口を開いた。
「あのショッピングセンターは、地域の市場が集まったものでねえ。小売りの商店と開業医が1つのビルに入ってスーパーに対抗しようとしたものだったんですよ。
 それでも閉店したのは客離れと駐車場の無い事が原因だけど、その客離れも、値段だけでなく、あの事件があったせいだろうなあ。
 閉店の1年半ほど前ですが、凄く流行した『大迷宮の悪魔』っていうゲームが発売されたのをご存知ですか」
「名前だけは。発売初日の何時間も前から店の前に並んでまでゲームを買う人がいたとか、ニュースで見ました」
「確か、3まであったんじゃなかったですかねえ」
「はい。ここのホビーショップでもやっぱり近くの中高生が並びましてね。ここで事件が起きたんですよ。
 前日の夕方から並んだ中学生、賀西拓也かさいたくやがゲームを買えたんですがね、センター内の階段で買えなかった子、東条基樹とうじょうもときにゲームを奪われそうになったんですよ。それでもみ合った末に、賀西は階段から落ちて頭を打って死亡。東条は慌てて逃げ出して、やっぱり階段から落ちて死亡。被害者も被疑者もどちらも中学生で、どちらも死亡という事件でして。
 それから、閉店後に走るような足音が聞こえるとか、階段で足を引っ張られるとか、逃げる人影が見えるとかいう噂が出始めたようで、ショッピングセンターの客足が徐々に遠のきましてね。閉店に追い込まれたというわけです。
 何を隠そう、その頃私もあそこを担当区域にしていた交番にいましてね。現場に行きましたよ。たかがゲームで中学生が2人もと、やりきれない思いでしたねえ」
 課長は再び、嘆息した。
「その子が、110番通報してるのかな。だとしても、警官が行方不明になるのはどうしてだろうな」
「その2人についても知りたいですねえ」
「今、資料を持って来させています」
 課長が言った時、ダンボール箱を抱えた警官が近付いて来た。

 賀西と東条は、同じ中学の同級生だった。取り立てて接点があったわけでもない。ただ、2人共ゲームが好きだったと友人達が証言していた。
 そして問題のゲームだが、迷路を進んで行きながら、悪魔を倒し、仲間を増やして連携していく物語らしく、それ自体はよくあるゲームだと思うのだが、当時としては画期的な美しいアニメーションと人気声優を起用していた事が人気につながったのか、発売日前に店の前に並ぶ姿がニュースになったほどだ。3では、3日前から列ができたという。
「次の通報の時は僕達も行くとしても、1度は、外から視ておこうか」
「そうだねえ」
 僕達は、そのショッピングセンターへ行ってみた。
 表には看板が残っていて、『朝日町銀座ショッピングセンター』と書かれている。3階建てのビルになっていて、正面の入り口の他、左右には外階段が付いている。
 そして店のバックヤードにあたる部分に窓があるが、その窓のガラスがかなり割れていた。
「かなり入り込んでるみたいだな、肝試しとか、集会とか」
「だねえ。でも、今は、霊の感じも無いねえ」
「駅からもそこそこ近いのに、どうして取り壊さないのかな」
「取り壊そうとしたら、請け負った工務店が倒産したり、けが人が出たりで、すっかり心霊スポットになってるらしいねえ」
「えらい典型的だな」
「うん、だよねえ」
 話しながら外から視たが、今はただの廃墟だった。
「次の110番通報を待つしかないか。いつか分かればいいのに、面倒臭い」
 しかし、次の通報は、意外と早く訪れた。
 翌日、家に1歩入った所で連絡が入り、僕は玄関で回れ右をして飛び出す事になったのだった。



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