体質が変わったので

JUN

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110番(1)夜ごと呼ぶ死者

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 交番勤務の巡査江川は、その夜夜勤だった。自転車で巡回ルートをパトロールして回り、異常が無い事を確認する。
 何事もないようで、ホッとしながら交番に戻って行こうとした、その時だった。
 無線が、110番通報があった事を告げた。聴くと、すぐ近くの閉店したショッピングセンター、ついさっき前を通過して来た所だ。
 江川はすぐに急行する旨を告げ、自転車をUターンさせて、ショッピングセンターへ急いだ。
 敷地を囲んだフェンスに異常はないが、肝試しに入り込む人間もいれば、非行少年が入り込んでたまり場にする事もある。フェンス自体が曲がって、隙間ができていた。
 溜め息をつきつつ隙間から体を滑り込ませ、ドアへ近付く。従業員用のドアは鍵が開いていた。
 いいのか悪いのか悩ましいが、とにかく中へ入る。
 かつては買い物客でにぎわったショッピングセンターだが、大手スーパーなどに押されて客足が遠のき、全館閉店になったのは5年程も前になる。
 ラクガキとゴミと置き去りにされたマネキンやワゴンなどの並ぶ通路を奥に進んで行き、おもちゃ屋の横の階段を上ると、うずくまる中学生くらいの男の子がいた。
「君、大丈夫か!?」
 江川は慌てて駆け寄った。
 その子は青い顔をしていたが、江川を見るとホッとしたような顔で、階段の上を指さした。
「あ、お巡りさん!盗られたんだ!あいつは今、階段を上って行った――あ、そこ!」
 見ると、人影がサッと階段の手すりに隠れるように引っ込み、続いて、逃げて行くような足音がした。
 無線のスイッチを入れて、応援を呼ぼうとしたのだが、無線が通じない。何かで遮られているのだろうか。
「逃げちゃうよ!」
 今なら追いつけるし、この子もケガをしている様子はない。
「ここから動かないで、いいね」
 江川は少年に言って、階段を駆け上がり始めた。

 そう言って、徳川さんは付け足した。
「そのまま、江川巡査は行方不明になった」
 徳川一行とくがわかずゆき。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視正。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「その、110番通報して来た子は?」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「それも不明だよ。かけて来た電話番号が、無いんだ」
「無い?」
 僕は聞き返した。
「どこからか、どういうわけかわからないけど、110番通報してきたんだね」
 徳川さんは肩を竦める。
「それで、その後ショッピングセンターに行ったんですよねえ?」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「行ったけど、江川巡査が到着して中へ入ったらしい痕跡はあったものの、それだけだ。通報者もいない。血痕も無い。表に交番の自転車が止めてあるだけだったらしい。
 でも、これで終わりじゃなかったんだ。何日かしてまた同じ通報があって、巡査が急行し、やっぱり現場に着いたという報告を最後に消えたんだ。
 合計3人」
 僕と直は顔を見合わせた。
「怪しいな」
「怪しいねえ」
「おかしくとも110番通報が入れば行かざるを得ないだろ?本当に何かあるかも知れないし。
 それで、何とかしてくれというわけさ」
 徳川さんはそう言って、締めくくった。
「わかりました」
「すぐに向かいますねえ」
「頼んだよ」
 僕と直は、徳川さんに見送られて陰陽課の部屋を出た。
「夜ごとの110番通報と消える警察官か」
「ボク達も気を引き締めないとねえ」
「チチッ!」
 僕達はまず、ショッピングセンターで何か起こっていなかったかを調べる事にした。




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