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行かせない(2)犯人の姿は
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警察にも、ひっきりなしに苦情の電話が入る。普段から警察には警察に言うべきことではない苦情などが入って来るが、今日は、
「バスが駅に着かない」
「タクシーが来ない」
「電車が動かない」
などの電話がひっきりなしだ。
最初は
「それは警察の仕事か?」
と言っていた県警幹部も、交通事故やケンカ、タクシー料金を巡ってのトラブルなどが多発しているこの状況に、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
近くに住む霊能師から「気付いていますか」と連絡を受け、相談の後、警視庁の陰陽課に連絡を入れて来たという。
「京香さん?どうだった?」
僕は、京香さんに電話を入れた。
双龍院京香、旧姓辻本。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
『線路沿いに近付いて行って境界線辺りに来たんだけど、どうにかできそうよ。たぶん、反対側もOKじゃないかしら』
「じゃあ、電車をまずは動かそうか。お願いします。
で、術式はどうですか?」
『それがねえ、札なり呪物なりがあるわけじゃないし、ちゃんとした仕掛けがあるわけでもないのよねえ』
困惑したような声が返って来る。
『いきあたりばったりって感じだって、蜂谷は言ってたわ』
「いきあたりばったり……。これ、未熟な人間がしたか、偶然こうなったか、なのかな。
まあ、だったら、タイミングを合わせて同時に解除とかでなくとも行けそうですか」
『そうね。ざっくりとこの道はOK、みたいな』
「じゃあ、線路を片付けたら、幹線道路から手分けして順にお願いします。そっちは京香さんに任せますね」
『OK。じゃあ後でね』
京香さんができるというなら、任せて大丈夫だ。
僕は、犯人を捜す事にする。解除に気付いて、またやられてはかなわない。
「中心地点はこの辺だな。
ちょっと、出てきます」
断って、僕は駅前のその地点を目指した。
歩きながら、気配を探る。違和感、ひっかかりがないか、意識を広げるようにして視て行った。
街中は、会社や学校に行けないでいる人、取材陣でごった返している。バスは現在、停留所に停まって待機しているが、タクシーや自家用車は何とかならないかと道路を走り回り、幹線道路も大渋滞を起こしてしまっている。
その中で、駅前は意外なほどに空いていた。まあ、駅に着けないのだから当然だし、電車が駅から発車できない以上、乗客も来ない。
そんな駅前から少し外れた、線路にかかる陸橋の上。そこに術者はいるようだった。
「いた」
道案内に付いて来てくれた所轄の刑事は、キョトンとし、言った。
「え?誰もいませんよね?」
「ああ。術者は――見た方が早いか」
可視化の札を彼に渡す。
「え――うひゃあっ!?」
彼にも見えたらしい。陸橋の上から線路に飛び降りては、また階段を上って来て手すりを乗り越えて線路に飛び降りる中年女性の霊が。
僕は、話しかけた。
「おはようございます」
霊は足を止め、ゆっくりと、生気も表情も無い顔を僕に向けた。
「僕は、御崎と申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか」
「……的辺小夜子……」
「的辺さんですね。何をしているんですか」
「……電車を止めなくちゃ。あの子が行ってしまう。二度と会えなくなってしまう。そんなの耐えられない。あの子を、行かせない……」
僕は、腰を抜かしそうになっている刑事から札を回収しながら、そっと頼んだ。
「昨夜から今朝の間に的辺小夜子という女性が飛び降りてないか確認して、事情を探って下さい。大至急」
「は、はひ!」
彼は慌てて走って行った。
「少し、お話をいいですか」
僕は的辺さんに近付いて、そう言った。
「バスが駅に着かない」
「タクシーが来ない」
「電車が動かない」
などの電話がひっきりなしだ。
最初は
「それは警察の仕事か?」
と言っていた県警幹部も、交通事故やケンカ、タクシー料金を巡ってのトラブルなどが多発しているこの状況に、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
近くに住む霊能師から「気付いていますか」と連絡を受け、相談の後、警視庁の陰陽課に連絡を入れて来たという。
「京香さん?どうだった?」
僕は、京香さんに電話を入れた。
双龍院京香、旧姓辻本。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
『線路沿いに近付いて行って境界線辺りに来たんだけど、どうにかできそうよ。たぶん、反対側もOKじゃないかしら』
「じゃあ、電車をまずは動かそうか。お願いします。
で、術式はどうですか?」
『それがねえ、札なり呪物なりがあるわけじゃないし、ちゃんとした仕掛けがあるわけでもないのよねえ』
困惑したような声が返って来る。
『いきあたりばったりって感じだって、蜂谷は言ってたわ』
「いきあたりばったり……。これ、未熟な人間がしたか、偶然こうなったか、なのかな。
まあ、だったら、タイミングを合わせて同時に解除とかでなくとも行けそうですか」
『そうね。ざっくりとこの道はOK、みたいな』
「じゃあ、線路を片付けたら、幹線道路から手分けして順にお願いします。そっちは京香さんに任せますね」
『OK。じゃあ後でね』
京香さんができるというなら、任せて大丈夫だ。
僕は、犯人を捜す事にする。解除に気付いて、またやられてはかなわない。
「中心地点はこの辺だな。
ちょっと、出てきます」
断って、僕は駅前のその地点を目指した。
歩きながら、気配を探る。違和感、ひっかかりがないか、意識を広げるようにして視て行った。
街中は、会社や学校に行けないでいる人、取材陣でごった返している。バスは現在、停留所に停まって待機しているが、タクシーや自家用車は何とかならないかと道路を走り回り、幹線道路も大渋滞を起こしてしまっている。
その中で、駅前は意外なほどに空いていた。まあ、駅に着けないのだから当然だし、電車が駅から発車できない以上、乗客も来ない。
そんな駅前から少し外れた、線路にかかる陸橋の上。そこに術者はいるようだった。
「いた」
道案内に付いて来てくれた所轄の刑事は、キョトンとし、言った。
「え?誰もいませんよね?」
「ああ。術者は――見た方が早いか」
可視化の札を彼に渡す。
「え――うひゃあっ!?」
彼にも見えたらしい。陸橋の上から線路に飛び降りては、また階段を上って来て手すりを乗り越えて線路に飛び降りる中年女性の霊が。
僕は、話しかけた。
「おはようございます」
霊は足を止め、ゆっくりと、生気も表情も無い顔を僕に向けた。
「僕は、御崎と申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか」
「……的辺小夜子……」
「的辺さんですね。何をしているんですか」
「……電車を止めなくちゃ。あの子が行ってしまう。二度と会えなくなってしまう。そんなの耐えられない。あの子を、行かせない……」
僕は、腰を抜かしそうになっている刑事から札を回収しながら、そっと頼んだ。
「昨夜から今朝の間に的辺小夜子という女性が飛び降りてないか確認して、事情を探って下さい。大至急」
「は、はひ!」
彼は慌てて走って行った。
「少し、お話をいいですか」
僕は的辺さんに近付いて、そう言った。
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