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落とし物(3)美しい手
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手がたくさん並んだ部屋の中から、白藤さんは静かに青年を見据えていた。
「見つけた。あなたが私の腕を奪ったのね」
皆が青年に注目した。
「お、俺は、俺は」
「私の左手……」
白藤さんはたくさんの腕を眺め、その中の1つ、ケースに入った腕に近付いた。
白い滑らかな腕の手首には瀟洒なチェーンのブレスレットがかかり、輝きを放っている。
「ああ……こんな所に……」
白藤さんが腕を伸ばすと、ガラスを素通りして指が左腕を掴み取る。そして、左手はすうーっと2つに分かれ、半透明の方は、白藤さんの無くした腕の断面にくっついた。
白藤さんは嬉しそうに笑った。
「探してたのよ。毎日手入れを怠らなかった私の自慢の手」
言って、満足そうに消えて行く。
僕は部屋に上がって、ガラスケースに入れられた左腕を見た。
「署に連絡をして下さい。防腐処理された、ヒトの腕のようです」
「はい!」
刑事の1人が、上司に電話をかけ始める。もう1人は、崩れ落ちた青年にきつい目を向けていた。
「遠峰拓哉さんでしたね。事情をお伺いしたいのですが」
遠峰は虚ろな顔で、
「だって、きれいだったから。一目で魅せられたんだ。どうしても欲しかった。老いてしまう前に、残したかっただけなんだ」
と繰り返す。
僕も刑事達も、揃って溜め息をついた。
遠峰は素直に犯行を自供した。手に魅せられ、残したくなり、家の前で襲ってまず撲殺した。そして庭に引きずり込んで、庭の水道の所で左腕を切断。左腕以外はビニールシートに包んで、当時自分の家の土地でマンション工事をしていたので、その工事現場の穴に廃棄。左腕は、狩猟の趣味があって剥製を作っていたので、その知識と経験を生かして防腐処理を施し、ケースに入れて飾っていたという。
遠峰にとって、腕以外は本当にどうでも良かったらしい。遺体発見時も、実に雑な捨て方だったという。
「腕ねえ。ちょっと異常ね。それも、飾って毎日眺めて、彫刻で増やすって」
美里が、自分の左手を眺めて、想像するかのように言って顔をしかめた。
霜月美里、若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。まあ現在、付き合っているという間柄である。
今日は久しぶりに一緒に食事をしていたのだが、最近話題の『左手蒐集家事件』に関わったという話をしたら、聞きたがったのだ。
「でも、そんなにきれいな左手だったの?まあ、手タレするほどならきれいなんでしょうけど」
美里の左手を見る。
「まあ、きれいはきれいだったが、手だけ見てもなあ。よくわからないよ。やっぱり、こう、うん。
よし。宝飾店に行こう」
「何、急に」
「あのブレスレット、美里に似合うよ」
「あら。プレゼントしてくれるの?」
「勿論。ええっと、指輪も貰ってくれるといんだが」
「まあ、ありがとう。喜んで」
実は内心ではかなりドキドキとして、思い切ったつもりだったのだが、あれ?僕の思惑は伝わっているのだろうか?
俄かに心配になったのだった。
「見つけた。あなたが私の腕を奪ったのね」
皆が青年に注目した。
「お、俺は、俺は」
「私の左手……」
白藤さんはたくさんの腕を眺め、その中の1つ、ケースに入った腕に近付いた。
白い滑らかな腕の手首には瀟洒なチェーンのブレスレットがかかり、輝きを放っている。
「ああ……こんな所に……」
白藤さんが腕を伸ばすと、ガラスを素通りして指が左腕を掴み取る。そして、左手はすうーっと2つに分かれ、半透明の方は、白藤さんの無くした腕の断面にくっついた。
白藤さんは嬉しそうに笑った。
「探してたのよ。毎日手入れを怠らなかった私の自慢の手」
言って、満足そうに消えて行く。
僕は部屋に上がって、ガラスケースに入れられた左腕を見た。
「署に連絡をして下さい。防腐処理された、ヒトの腕のようです」
「はい!」
刑事の1人が、上司に電話をかけ始める。もう1人は、崩れ落ちた青年にきつい目を向けていた。
「遠峰拓哉さんでしたね。事情をお伺いしたいのですが」
遠峰は虚ろな顔で、
「だって、きれいだったから。一目で魅せられたんだ。どうしても欲しかった。老いてしまう前に、残したかっただけなんだ」
と繰り返す。
僕も刑事達も、揃って溜め息をついた。
遠峰は素直に犯行を自供した。手に魅せられ、残したくなり、家の前で襲ってまず撲殺した。そして庭に引きずり込んで、庭の水道の所で左腕を切断。左腕以外はビニールシートに包んで、当時自分の家の土地でマンション工事をしていたので、その工事現場の穴に廃棄。左腕は、狩猟の趣味があって剥製を作っていたので、その知識と経験を生かして防腐処理を施し、ケースに入れて飾っていたという。
遠峰にとって、腕以外は本当にどうでも良かったらしい。遺体発見時も、実に雑な捨て方だったという。
「腕ねえ。ちょっと異常ね。それも、飾って毎日眺めて、彫刻で増やすって」
美里が、自分の左手を眺めて、想像するかのように言って顔をしかめた。
霜月美里、若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。まあ現在、付き合っているという間柄である。
今日は久しぶりに一緒に食事をしていたのだが、最近話題の『左手蒐集家事件』に関わったという話をしたら、聞きたがったのだ。
「でも、そんなにきれいな左手だったの?まあ、手タレするほどならきれいなんでしょうけど」
美里の左手を見る。
「まあ、きれいはきれいだったが、手だけ見てもなあ。よくわからないよ。やっぱり、こう、うん。
よし。宝飾店に行こう」
「何、急に」
「あのブレスレット、美里に似合うよ」
「あら。プレゼントしてくれるの?」
「勿論。ええっと、指輪も貰ってくれるといんだが」
「まあ、ありがとう。喜んで」
実は内心ではかなりドキドキとして、思い切ったつもりだったのだが、あれ?僕の思惑は伝わっているのだろうか?
俄かに心配になったのだった。
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