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落とし物(2)左手
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僕は幽霊に詳しく話を訊いた。
「何でまた、腕を落とす事に?」
「殺されて埋められたんですけど、その時に左腕を取られたんです」
「穏やかじゃないですね。詳しくお伺いします」
それによると、彼女の名前は白藤雪子、大学4年生で、この近くのアパートに住んでいたという。
それが3年前、夜道で襲われ、殺されて、気付いたら、工事現場に埋められていたのを発見されたところだったらしい。その時には左腕がなかったそうだ。
署に行ってその事件の事を訊くと、犯人はまだ捕まっておらず、現在も捜査中との事だった。
担当刑事は、丸い目をして僕と白藤さんを迎え、そう言って、白藤さんに申し訳なさそうな顔をした。
「埋められていた工事現場というのは」
「はい。現在はマンションが建っています」
「犯行現場はどこですか」
「それも不明でありまして」
捜査員が言い、白藤さんを見ると、白藤さんも首を傾げていた。
「バイトの帰り道、後ろから静かに近寄って来て頭を殴られたみたいで、何も見てないんです。その次はもう、工事現場で掘り出されているところだったので」
白藤さんも、申し訳なさそうに言う。
見ててくれたら良かったんだが、そう上手くは行かない。
「左腕に、何かあったんですか?」
訊く。
「私、手のモデルをしていたんです。それでその少し前に、結婚指輪のCMとポスターを撮りました。その時ブレスレットを頂いて、左手にしていましたけど……」
刑事もそれに食いついた。
「それはどんなもので、その事を誰が知っていましたか」
「ブレスレットは、事務所にその時に撮った写真がありますし、ブログにも上げてありますよ」
途端に、彼はがっかりした顔になった。知っている人がかなり多くなるだろうから、手掛かりになりそうもないと気付いたらしい。
それでも、
「調べてみます」
と、手帳に書き込んだ。
次に僕は、白藤さんとその刑事と一緒に、彼女の住んでいたアパートに行ってみた。
「あの後、別の住人が入居しています。学生さんばかり、2人目です」
「荒らされた形跡や、遺体を損壊した形跡は?」
「全くありませんでした」
「現場は別の場所だと思われます」
担当刑事2人はそう言う。
ぐるりと辺りを見廻してみた。アパートの前に、大きな家がある。
「大きい家ですね」
言うと、刑事は
「この辺りの、昔からの地主ですよ」
と言い、白藤さんは、
「アパートの大家さんの家ですよ」
と言う。
広い庭の向こうにある趣のある古い洋館の窓から、住人が覗いているのが見えた。
視線が合った、と思うと、サッとカーテンを引いて奥へ隠れてしまう。
「気になるな。
アオ、ちょっと頼めるか」
ポケットのアオに声をかける。
「チッ!」
「窓から中を覗けるようなら覗いてみてくれ」
目をアオに付けて頼むと、アオは頼もしく、
「チチッ!」
と鳴くや、飛び立った。
アオが、各窓を覗くように飛んで行く。
ある部屋を覗いた時だった。
「マネキンのパーツ?やたらと腕ばっかり並んでいますよ。ここの人、何をしてる人ですか」
僕はそう皆に言った。
「ええっと、当時は美大の1年生ですね。今は4年生ですか」
刑事が手帳をめくって言った。
「彫刻科でした。大人しい感じの男の子で」
「ふうん。じゃああれは、全部作品か」
色んなポーズの腕ばかり。どんな作品なんだろうか。
それを聞いていた白藤さんは、何かを考えるような顔をしていたが、ぶつぶつと、
「あの子、いつも左手をジッと見てたような……」
と言い、スウーッと中へ入って行く。
「え、白藤さん!?」
「幽霊はいいですね。我々はそうは行かない」
「何か感じる所があったんでしょうか」
僕と刑事2人と帰って来たアオで待っていると、中から、もの凄い声がした。
「ギャアアアア!!」
僕達は驚き、そして「チャンス!」と思い、中へ飛び込んで行った。
「どうかしましたか?」
「物凄い悲鳴が聞こえましたけど!?」
白藤さんは玄関ドアをすり抜けて行ったが、僕達人間はそうは行かない。どうしたものかと庭に回ってみると、大きな出入りできる窓から、青年が転がるように出て来るところだった。
「どうしました?」
青年は震えながら部屋の中を指さし、
「ゆ、幽霊が……!」
と言った。
見るとそこは左手が並んだ部屋で、白藤さんがそれらを前に立っていた。
そして、こちらを向くと、無表情で言った。
「見つけた」
青年は、失神しそうになって、刑事に縋り付いた。
「何でまた、腕を落とす事に?」
「殺されて埋められたんですけど、その時に左腕を取られたんです」
「穏やかじゃないですね。詳しくお伺いします」
それによると、彼女の名前は白藤雪子、大学4年生で、この近くのアパートに住んでいたという。
それが3年前、夜道で襲われ、殺されて、気付いたら、工事現場に埋められていたのを発見されたところだったらしい。その時には左腕がなかったそうだ。
署に行ってその事件の事を訊くと、犯人はまだ捕まっておらず、現在も捜査中との事だった。
担当刑事は、丸い目をして僕と白藤さんを迎え、そう言って、白藤さんに申し訳なさそうな顔をした。
「埋められていた工事現場というのは」
「はい。現在はマンションが建っています」
「犯行現場はどこですか」
「それも不明でありまして」
捜査員が言い、白藤さんを見ると、白藤さんも首を傾げていた。
「バイトの帰り道、後ろから静かに近寄って来て頭を殴られたみたいで、何も見てないんです。その次はもう、工事現場で掘り出されているところだったので」
白藤さんも、申し訳なさそうに言う。
見ててくれたら良かったんだが、そう上手くは行かない。
「左腕に、何かあったんですか?」
訊く。
「私、手のモデルをしていたんです。それでその少し前に、結婚指輪のCMとポスターを撮りました。その時ブレスレットを頂いて、左手にしていましたけど……」
刑事もそれに食いついた。
「それはどんなもので、その事を誰が知っていましたか」
「ブレスレットは、事務所にその時に撮った写真がありますし、ブログにも上げてありますよ」
途端に、彼はがっかりした顔になった。知っている人がかなり多くなるだろうから、手掛かりになりそうもないと気付いたらしい。
それでも、
「調べてみます」
と、手帳に書き込んだ。
次に僕は、白藤さんとその刑事と一緒に、彼女の住んでいたアパートに行ってみた。
「あの後、別の住人が入居しています。学生さんばかり、2人目です」
「荒らされた形跡や、遺体を損壊した形跡は?」
「全くありませんでした」
「現場は別の場所だと思われます」
担当刑事2人はそう言う。
ぐるりと辺りを見廻してみた。アパートの前に、大きな家がある。
「大きい家ですね」
言うと、刑事は
「この辺りの、昔からの地主ですよ」
と言い、白藤さんは、
「アパートの大家さんの家ですよ」
と言う。
広い庭の向こうにある趣のある古い洋館の窓から、住人が覗いているのが見えた。
視線が合った、と思うと、サッとカーテンを引いて奥へ隠れてしまう。
「気になるな。
アオ、ちょっと頼めるか」
ポケットのアオに声をかける。
「チッ!」
「窓から中を覗けるようなら覗いてみてくれ」
目をアオに付けて頼むと、アオは頼もしく、
「チチッ!」
と鳴くや、飛び立った。
アオが、各窓を覗くように飛んで行く。
ある部屋を覗いた時だった。
「マネキンのパーツ?やたらと腕ばっかり並んでいますよ。ここの人、何をしてる人ですか」
僕はそう皆に言った。
「ええっと、当時は美大の1年生ですね。今は4年生ですか」
刑事が手帳をめくって言った。
「彫刻科でした。大人しい感じの男の子で」
「ふうん。じゃああれは、全部作品か」
色んなポーズの腕ばかり。どんな作品なんだろうか。
それを聞いていた白藤さんは、何かを考えるような顔をしていたが、ぶつぶつと、
「あの子、いつも左手をジッと見てたような……」
と言い、スウーッと中へ入って行く。
「え、白藤さん!?」
「幽霊はいいですね。我々はそうは行かない」
「何か感じる所があったんでしょうか」
僕と刑事2人と帰って来たアオで待っていると、中から、もの凄い声がした。
「ギャアアアア!!」
僕達は驚き、そして「チャンス!」と思い、中へ飛び込んで行った。
「どうかしましたか?」
「物凄い悲鳴が聞こえましたけど!?」
白藤さんは玄関ドアをすり抜けて行ったが、僕達人間はそうは行かない。どうしたものかと庭に回ってみると、大きな出入りできる窓から、青年が転がるように出て来るところだった。
「どうしました?」
青年は震えながら部屋の中を指さし、
「ゆ、幽霊が……!」
と言った。
見るとそこは左手が並んだ部屋で、白藤さんがそれらを前に立っていた。
そして、こちらを向くと、無表情で言った。
「見つけた」
青年は、失神しそうになって、刑事に縋り付いた。
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