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秘密(3)取り調べ、ドミノ風
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知能犯係の係長は言った。
「すると、なにか?真中洋二を殺したのは須野田?ヤツは特殊サギで年寄りを騙しはしても、強盗殺人をするとは思えないがなあ」
ここで僕も頷く。
「この前ひったくりがありまして、その犯人である貝原がすぐ後にそのバッグをこの須野田に横取りされているんです。
しかも、貝原はその事を頑なに言おうとしないし、何故か被害者も消極的でして、どうもおかしいんですよね」
「全員、秘密を抱えてるみたいだねえ」
「そうなんだよな」
知能犯係係長は、落ち着いて言う。
「この場合、各々の秘密とは何だ?」
「まず貝原は、須野田とのつながりを隠したがっている」
「須野田は特殊サギの人間だから、もしかしたら、貝原も特殊サギの仲間かも知れないねえ」
「大江は?」
「もしこのキーケースが大江のカバンに入っていた物だったら、大江が真中さん殺害の犯人の可能性が高い」
「おお、それだねえ、多分」
「じゃあ、どうやったらこのもつれを解けるのか?」
各々考え、ニタリと笑った。
しばらくの後、3つの取調室に3人が入っていた。
「須野田。ビルオーナー強盗殺人はお前の仕業か?」
「はあ?知らねえよ」
「だったら何で、お前が持ち込んだキーケースに、被害者とお前の指紋、それと被害者の霊が憑いてるんだ?」
「知らねえものは――え?被害者の霊?」
どろーんと真中さんが現れる。
「お前かあ、わしを殺したのはあ?」
「ヒイイッ!?ち、違う!俺は知り合いから借金の代わりにカバンを取り上げただけだ!」
「知り合い。貝原だな。どんなつながりだ?」
知能犯係の刑事と真中さんの霊がグイグイ迫った。
向かい合う貝原に、黒井さんが言う。
「お前の上前を撥ねたと須野田は認めたぜ。お友達じゃねえか、お前ら」
「え、須野田さんが」
「電話をかけて、おままごとってか?だめだろうが」
「す、須野田さんに、金を返せないなら、働けって……」
「うん、うん」
呼び出された大江は、ビニールの袋に入ったバッグを見て認めた。
「ああ、私の物です」
「銀行から後をついて行ってたようですよ。中に入っていた現金は使用されていました」
「そうですか」
「それと、本革のキーケースは、質屋に売られていたんですが……これですね」
ビニール袋に入れたキーケースを出す。
「ああ、はい」
「手作りですね」
「はい、まあ」
「それが質屋から相談されてこちらに来たいきさつなんですが、呻き声がするらしいんですよ。この通り」
真中さんが出て来て、見えない目をジッと向ける。
「ヒッ!」
大江は逃げ腰になった。
「このキーケース、真中さんの指紋と霊、それから大江さんの指紋が出ましてね」
「わ、私、は……」
「大江。お前がわしを殺したのか」
「待ってくれ!どうして私が」
「殺された時、妻が作ってくれたこのキーケースを犯人のカバンに押し込んで、同時にわしも憑いたからな。
大江。わしを殺したのは、お前なんだな」
大江はゴクリと唾を呑んだ。
「大江さん。経営がかなり苦しいようですね。なのに、いきなり借金300万円を、事件の翌日に返済していますね」
大江は、脂汗をかき始めた。
「大江さん?」
「す、すみませんでした!真中さん!魔が差してしまったんです。すみませんでした!」
額を机に打ち付けて、大江は真中さんに謝った。
事件解決はよしとしながらも、霊が出て来た事に関しては課長に叱られた。
「勝手に出てしまったものは仕方ないが、圧力、脅しと言われるかも知れない、か」
「出てしまったと、出るかも知れないと思っていたとの差って、難しいよねえ」
僕と直は溜め息をついた。
まあ、課長の言う事もわかる。わかるが、
「面倒臭いな」
言って、再び嘆息する。
「だが、まあ、今後は気を付けよう」
「そうだねえ。違法な取り調べとか言われたら、困るもんねえ」
「はあ。という事で、反省会終わり。
直、もう帰るんだろ?一緒に帰る?昨日の夜中にビーフシチューを煮込んでおいたんだ。来る?」
「いいのかねえ?」
「いいよ。うちに電話しとこう」
「じゃあ、ボクも。
あ。お土産にプリンでも買って行こうかねえ。新作のプリンが気になってねえ」
「敬が喜びそうだな」
僕と直は、いそいそとお互い家に電話をかけ、署を出た。
「寒いと思ったら、雪だぞ」
「春はもうすぐなのにねえ」
「春になったら、研修も終わりか」
「早いものだったねえ」
しばらく2人で雪の降って来る空を見上げていたが、
「寒っ」
と、駅に向かって歩き始めた。
「すると、なにか?真中洋二を殺したのは須野田?ヤツは特殊サギで年寄りを騙しはしても、強盗殺人をするとは思えないがなあ」
ここで僕も頷く。
「この前ひったくりがありまして、その犯人である貝原がすぐ後にそのバッグをこの須野田に横取りされているんです。
しかも、貝原はその事を頑なに言おうとしないし、何故か被害者も消極的でして、どうもおかしいんですよね」
「全員、秘密を抱えてるみたいだねえ」
「そうなんだよな」
知能犯係係長は、落ち着いて言う。
「この場合、各々の秘密とは何だ?」
「まず貝原は、須野田とのつながりを隠したがっている」
「須野田は特殊サギの人間だから、もしかしたら、貝原も特殊サギの仲間かも知れないねえ」
「大江は?」
「もしこのキーケースが大江のカバンに入っていた物だったら、大江が真中さん殺害の犯人の可能性が高い」
「おお、それだねえ、多分」
「じゃあ、どうやったらこのもつれを解けるのか?」
各々考え、ニタリと笑った。
しばらくの後、3つの取調室に3人が入っていた。
「須野田。ビルオーナー強盗殺人はお前の仕業か?」
「はあ?知らねえよ」
「だったら何で、お前が持ち込んだキーケースに、被害者とお前の指紋、それと被害者の霊が憑いてるんだ?」
「知らねえものは――え?被害者の霊?」
どろーんと真中さんが現れる。
「お前かあ、わしを殺したのはあ?」
「ヒイイッ!?ち、違う!俺は知り合いから借金の代わりにカバンを取り上げただけだ!」
「知り合い。貝原だな。どんなつながりだ?」
知能犯係の刑事と真中さんの霊がグイグイ迫った。
向かい合う貝原に、黒井さんが言う。
「お前の上前を撥ねたと須野田は認めたぜ。お友達じゃねえか、お前ら」
「え、須野田さんが」
「電話をかけて、おままごとってか?だめだろうが」
「す、須野田さんに、金を返せないなら、働けって……」
「うん、うん」
呼び出された大江は、ビニールの袋に入ったバッグを見て認めた。
「ああ、私の物です」
「銀行から後をついて行ってたようですよ。中に入っていた現金は使用されていました」
「そうですか」
「それと、本革のキーケースは、質屋に売られていたんですが……これですね」
ビニール袋に入れたキーケースを出す。
「ああ、はい」
「手作りですね」
「はい、まあ」
「それが質屋から相談されてこちらに来たいきさつなんですが、呻き声がするらしいんですよ。この通り」
真中さんが出て来て、見えない目をジッと向ける。
「ヒッ!」
大江は逃げ腰になった。
「このキーケース、真中さんの指紋と霊、それから大江さんの指紋が出ましてね」
「わ、私、は……」
「大江。お前がわしを殺したのか」
「待ってくれ!どうして私が」
「殺された時、妻が作ってくれたこのキーケースを犯人のカバンに押し込んで、同時にわしも憑いたからな。
大江。わしを殺したのは、お前なんだな」
大江はゴクリと唾を呑んだ。
「大江さん。経営がかなり苦しいようですね。なのに、いきなり借金300万円を、事件の翌日に返済していますね」
大江は、脂汗をかき始めた。
「大江さん?」
「す、すみませんでした!真中さん!魔が差してしまったんです。すみませんでした!」
額を机に打ち付けて、大江は真中さんに謝った。
事件解決はよしとしながらも、霊が出て来た事に関しては課長に叱られた。
「勝手に出てしまったものは仕方ないが、圧力、脅しと言われるかも知れない、か」
「出てしまったと、出るかも知れないと思っていたとの差って、難しいよねえ」
僕と直は溜め息をついた。
まあ、課長の言う事もわかる。わかるが、
「面倒臭いな」
言って、再び嘆息する。
「だが、まあ、今後は気を付けよう」
「そうだねえ。違法な取り調べとか言われたら、困るもんねえ」
「はあ。という事で、反省会終わり。
直、もう帰るんだろ?一緒に帰る?昨日の夜中にビーフシチューを煮込んでおいたんだ。来る?」
「いいのかねえ?」
「いいよ。うちに電話しとこう」
「じゃあ、ボクも。
あ。お土産にプリンでも買って行こうかねえ。新作のプリンが気になってねえ」
「敬が喜びそうだな」
僕と直は、いそいそとお互い家に電話をかけ、署を出た。
「寒いと思ったら、雪だぞ」
「春はもうすぐなのにねえ」
「春になったら、研修も終わりか」
「早いものだったねえ」
しばらく2人で雪の降って来る空を見上げていたが、
「寒っ」
と、駅に向かって歩き始めた。
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