体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
505 / 1,046

秘密(3)取り調べ、ドミノ風

しおりを挟む
 知能犯係の係長は言った。
「すると、なにか?真中洋二を殺したのは須野田?ヤツは特殊サギで年寄りを騙しはしても、強盗殺人をするとは思えないがなあ」
 ここで僕も頷く。
「この前ひったくりがありまして、その犯人である貝原がすぐ後にそのバッグをこの須野田に横取りされているんです。
 しかも、貝原はその事を頑なに言おうとしないし、何故か被害者も消極的でして、どうもおかしいんですよね」
「全員、秘密を抱えてるみたいだねえ」
「そうなんだよな」
 知能犯係係長は、落ち着いて言う。
「この場合、各々の秘密とは何だ?」
「まず貝原は、須野田とのつながりを隠したがっている」
「須野田は特殊サギの人間だから、もしかしたら、貝原も特殊サギの仲間かも知れないねえ」
「大江は?」
「もしこのキーケースが大江のカバンに入っていた物だったら、大江が真中さん殺害の犯人の可能性が高い」
「おお、それだねえ、多分」
「じゃあ、どうやったらこのもつれを解けるのか?」
 各々考え、ニタリと笑った。

 しばらくの後、3つの取調室に3人が入っていた。
「須野田。ビルオーナー強盗殺人はお前の仕業か?」
「はあ?知らねえよ」
「だったら何で、お前が持ち込んだキーケースに、被害者とお前の指紋、それと被害者の霊が憑いてるんだ?」
「知らねえものは――え?被害者の霊?」
 どろーんと真中さんが現れる。
「お前かあ、わしを殺したのはあ?」
「ヒイイッ!?ち、違う!俺は知り合いから借金の代わりにカバンを取り上げただけだ!」
「知り合い。貝原だな。どんなつながりだ?」
 知能犯係の刑事と真中さんの霊がグイグイ迫った。

 向かい合う貝原に、黒井さんが言う。
「お前の上前を撥ねたと須野田は認めたぜ。お友達じゃねえか、お前ら」
「え、須野田さんが」
「電話をかけて、おままごとってか?だめだろうが」
「す、須野田さんに、金を返せないなら、働けって……」
「うん、うん」

 呼び出された大江は、ビニールの袋に入ったバッグを見て認めた。
「ああ、私の物です」
「銀行から後をついて行ってたようですよ。中に入っていた現金は使用されていました」
「そうですか」
「それと、本革のキーケースは、質屋に売られていたんですが……これですね」
 ビニール袋に入れたキーケースを出す。
「ああ、はい」
「手作りですね」
「はい、まあ」
「それが質屋から相談されてこちらに来たいきさつなんですが、呻き声がするらしいんですよ。この通り」
 真中さんが出て来て、見えない目をジッと向ける。
「ヒッ!」
 大江は逃げ腰になった。
「このキーケース、真中さんの指紋と霊、それから大江さんの指紋が出ましてね」
「わ、私、は……」
「大江。お前がわしを殺したのか」
「待ってくれ!どうして私が」
「殺された時、妻が作ってくれたこのキーケースを犯人のカバンに押し込んで、同時にわしも憑いたからな。
 大江。わしを殺したのは、お前なんだな」
 大江はゴクリと唾を呑んだ。
「大江さん。経営がかなり苦しいようですね。なのに、いきなり借金300万円を、事件の翌日に返済していますね」
 大江は、脂汗をかき始めた。
「大江さん?」
「す、すみませんでした!真中さん!魔が差してしまったんです。すみませんでした!」
 額を机に打ち付けて、大江は真中さんに謝った。

 事件解決はよしとしながらも、霊が出て来た事に関しては課長に叱られた。
「勝手に出てしまったものは仕方ないが、圧力、脅しと言われるかも知れない、か」
「出てしまったと、出るかも知れないと思っていたとの差って、難しいよねえ」
 僕と直は溜め息をついた。
 まあ、課長の言う事もわかる。わかるが、
「面倒臭いな」
 言って、再び嘆息する。
「だが、まあ、今後は気を付けよう」
「そうだねえ。違法な取り調べとか言われたら、困るもんねえ」
「はあ。という事で、反省会終わり。
 直、もう帰るんだろ?一緒に帰る?昨日の夜中にビーフシチューを煮込んでおいたんだ。来る?」
「いいのかねえ?」
「いいよ。うちに電話しとこう」
「じゃあ、ボクも。
 あ。お土産にプリンでも買って行こうかねえ。新作のプリンが気になってねえ」
「敬が喜びそうだな」
 僕と直は、いそいそとお互い家に電話をかけ、署を出た。
「寒いと思ったら、雪だぞ」
「春はもうすぐなのにねえ」
「春になったら、研修も終わりか」
「早いものだったねえ」
 しばらく2人で雪の降って来る空を見上げていたが、
「寒っ」
と、駅に向かって歩き始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...