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カウントダウン(2)スリー
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コツコツと何かを作るのは、好きだった。それで工科高校へ行き、工場へ就職した。
「ああ。でも、老眼が辛い……」
音無治雄は言いながら、目頭をもんだ。
毎日真面目に働いて、忙しい時は残業、早出、休日出勤は普通だった。そんなに会社に身を捧げて来ても、定年はやってくる。年を越したら、定年だ。
まだ働けるとは言うが、雇ってくれるところはない。あっても半分程の給料で、とてもじゃないが、暮らしていけない。退職金を取り崩してというが、何歳まで生きるかもわからないし、自分の場合、親の残した借金の返済で退職金は消える。
「目を温めるといいよ」
憑いて来た幽霊の1人が言った。
「肩も回して、ストレッチした方がいいですよ」
これも、霊だ。
ほかにもこの部屋には霊がいて、生者の音無を入れて、5人だ。
「爆弾は作れるとして、効果的な使い方だな」
「それなら、考えがありますよ。水素があるといいんだけど」
「うちにあるよ。どうするんだい」
「カウントダウンのステージを吹き飛ばすのは?」
「ああ。バカ騒ぎする奴らも巻き添えにしてやろう。待ちに待った新年、第1号のニュースだ。嬉しいだろう」
霊達は、死んだような目を、輝かせた。
4人の身元はすぐにわかった。各々、免許証などを持っていたのだ。
梶 大志、68歳。町工場を経営していたが、経営不振で借金をした。そして起死回生と健康ブームに乗って噂の『水素水』を始めたが、上手く行かずに借金と水素タンクの山だけが積み重なった。
浦添佳宏、29歳。契約社員として制作会社に勤務していたが、秋で契約が切れ、就職が上手く行ってない。来年早々に昔の彼女と友人の結婚式があり、そのハガキを見て、追い詰められたらしい。
二見奈緒子、52歳。30年介護して来た母親が亡くなり、認知症を発症した父親も踏切に入り込んで亡くなった。その賠償や自身も健康不安を抱えていた事などもあり、ふさぎ込んでいたという。
森川恵美、26歳。弁護士を志していたが、法科大学を卒業後5年以内に3回まで受験できる司法試験に3回落ち、絶望していたらしい。
この4人に直接のつながりはなく、ネットの自殺サイトで知り合った形跡があった。
なお、あと1人、この4人とやり取りをしていた人物がいるが、現在確認中だ。
「見ず知らずの人間が集まって、相談して、準備するくらい前向きなら、何とかならなかったのかねえ。やりきれねえなあ」
黒井さんが陰鬱な溜め息をついた。
「追い詰められた時、人は視野が狭くなって、考えられなくなるものらしい。困った時ほど、顔を上げたらどうかな」
「成程」
僕が言うのに下井さんが頷くが、桂さんが方向を修正する。
「ここに車が止まったのは、午後10時頃。死亡したのは深夜3時頃ですから、しばらくは、話をしながらアルコールを飲んで、それで決行したようです。
争った跡、外傷はなし。自殺で間違いないようですね」
「残る1人を見付けて、自殺幇助で逮捕したらおしまいですね」
大島さんが言った時、机の上の電話が鳴って、五日市さんが出た。
やり取りしている内に怪訝な顔になって行き、途方に暮れたような顔で、こちらを見た。
「梶さんの家族からなんですが、工場に泥棒が入ったそうです。盗まれたのは水素のタンク。犯人を目撃していまして、それが、知らない男と、梶さん本人だったそうです」
益田さんが、机に突っ伏した。
「ああ。でも、老眼が辛い……」
音無治雄は言いながら、目頭をもんだ。
毎日真面目に働いて、忙しい時は残業、早出、休日出勤は普通だった。そんなに会社に身を捧げて来ても、定年はやってくる。年を越したら、定年だ。
まだ働けるとは言うが、雇ってくれるところはない。あっても半分程の給料で、とてもじゃないが、暮らしていけない。退職金を取り崩してというが、何歳まで生きるかもわからないし、自分の場合、親の残した借金の返済で退職金は消える。
「目を温めるといいよ」
憑いて来た幽霊の1人が言った。
「肩も回して、ストレッチした方がいいですよ」
これも、霊だ。
ほかにもこの部屋には霊がいて、生者の音無を入れて、5人だ。
「爆弾は作れるとして、効果的な使い方だな」
「それなら、考えがありますよ。水素があるといいんだけど」
「うちにあるよ。どうするんだい」
「カウントダウンのステージを吹き飛ばすのは?」
「ああ。バカ騒ぎする奴らも巻き添えにしてやろう。待ちに待った新年、第1号のニュースだ。嬉しいだろう」
霊達は、死んだような目を、輝かせた。
4人の身元はすぐにわかった。各々、免許証などを持っていたのだ。
梶 大志、68歳。町工場を経営していたが、経営不振で借金をした。そして起死回生と健康ブームに乗って噂の『水素水』を始めたが、上手く行かずに借金と水素タンクの山だけが積み重なった。
浦添佳宏、29歳。契約社員として制作会社に勤務していたが、秋で契約が切れ、就職が上手く行ってない。来年早々に昔の彼女と友人の結婚式があり、そのハガキを見て、追い詰められたらしい。
二見奈緒子、52歳。30年介護して来た母親が亡くなり、認知症を発症した父親も踏切に入り込んで亡くなった。その賠償や自身も健康不安を抱えていた事などもあり、ふさぎ込んでいたという。
森川恵美、26歳。弁護士を志していたが、法科大学を卒業後5年以内に3回まで受験できる司法試験に3回落ち、絶望していたらしい。
この4人に直接のつながりはなく、ネットの自殺サイトで知り合った形跡があった。
なお、あと1人、この4人とやり取りをしていた人物がいるが、現在確認中だ。
「見ず知らずの人間が集まって、相談して、準備するくらい前向きなら、何とかならなかったのかねえ。やりきれねえなあ」
黒井さんが陰鬱な溜め息をついた。
「追い詰められた時、人は視野が狭くなって、考えられなくなるものらしい。困った時ほど、顔を上げたらどうかな」
「成程」
僕が言うのに下井さんが頷くが、桂さんが方向を修正する。
「ここに車が止まったのは、午後10時頃。死亡したのは深夜3時頃ですから、しばらくは、話をしながらアルコールを飲んで、それで決行したようです。
争った跡、外傷はなし。自殺で間違いないようですね」
「残る1人を見付けて、自殺幇助で逮捕したらおしまいですね」
大島さんが言った時、机の上の電話が鳴って、五日市さんが出た。
やり取りしている内に怪訝な顔になって行き、途方に暮れたような顔で、こちらを見た。
「梶さんの家族からなんですが、工場に泥棒が入ったそうです。盗まれたのは水素のタンク。犯人を目撃していまして、それが、知らない男と、梶さん本人だったそうです」
益田さんが、机に突っ伏した。
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