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耳(4)哀しい母子
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結果から言うと、候補はもの凄くいた。
「どうしますか、これ」
「予想以上に福耳が多いな」
僕達は、困り果ててロビーの端にいた。
ついでに言うと、福耳の定義もいい加減だ。
そんな僕達のいる柱の向こう側で、記者が雑談をしていた。
「耳塚でも作る気か?」
「犯人は秀吉かよ」
「でも、耳といえば、あれだよな。世良二世。『耳の形がぼくにそっくりなんです』だろ」
「ああ。この前元女優の奥さんが子供産んだけど、あれ、どう見ても、前の奥さんと時期がかぶってるよな」
「ひでえよな。そりゃあ、前の奥さんより今の奥さんが美人だし、前の奥さんより今の奥さんが資産もコネも人気もあるけど」
「産んだその日に離婚届を突き付けて叩き出すこたあないよな」
「また、離婚の言い訳が、噂では、耳らしいぞ」
「耳?」
「ああ。奥さんが泣きながら、『耳さえきれいな形だったら良かったの?』って言ってるのを、看護師が聞いたらしい」
僕は、柱をグルッと回った。
「すみません、その話を詳しく教えて下さい」
テレビで見たあの議員世良和希さんの現在の妻は麗美さん、旧姓延原だが、世良さんは再婚で、前の妻は安斎夕子という女性らしい。秘書だったが子供ができ、世良の母親は大反対だったが、記者に知られ、スキャンダルを恐れて入籍。
だが、長女夕希さんの生まれた日に離婚届が出されている。
夕子さんの父は早くに亡くなって、その時は母のみになっており、夕子さん親子は母の所に身を寄せている。
その後、夕希さんが乳幼児性突然死で死亡。夕子さんは離婚後精神が不安定だったのが、これで決定的になり、現在に至るまでも精神病棟に入院中。
そして夕子さんの母は、世良議員の子供誕生を報じる週刊誌を前にして、自宅で首を吊って自殺しているのを、訪ねて行った僕達が発見した。
解剖の結果、死亡したのは第1の事件発生の前日だった。
母親の死を知らせに夕子さんの所へ行くと、彼女は赤ん坊の人形を大事そうに抱いて、子守歌を歌っていた。
看護師は、
「一日中、ああなんですよ。人形を夕希って呼んで。お母さんが来ても、誰が話しかけてもだめで」
と、やり切れなさそうに言って、ナースステーションに戻って行った。
残った僕と桂さんは、幸せそうな夕子さんを見ていた。
僕が見ていたのは、正確には、夕子さんと、夕子さんに寄り添う母親の霊だ。
「耳を切ったのは、あなたですね。安斎春子さん」
桂さんがギョッとし、母親は静かに顔を上げて僕を見た。
世良の耳じゃないって、夕子と夕希は追い出された
政治家一族の、世良の血筋に相応しくないって
だから、きれいな耳を探してる
夕希に合う耳が見つかれば
きっとこの子達は戻れる
僕は、小さく嘆息した。
「安斎さん。だめですよ。戻れないんです。夕希ちゃんがもういないのは、わかっているでしょう」
桂さんは僕の声しか聞こえていないし、安斎さんも見えていないが、察して、黙っている。
夕子さんは何も聞こえないのか、人形をあやしながら、子守歌を歌い続けていた。
華々しい結婚式のニュースの時、夕子は泣いていた
どうして
耳が、相応しい耳が欲しい
ああ、耳ならあったわね
世良が認める耳が
安斎さんはそう言って笑い、フッと消えた。
「まずい。次に狙うのは、生まれたばかりの世良さんの子供だ!」
「えええ!?」
僕と桂さんは急いで病室を飛び出し、僕は直に電話をかけた。
「直、今どこ!?」
『駅だけどねえ?』
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
「詳しくは後で話す。世良議員の子供を幽霊が狙いに行く。守っててくれ」
『りょうかーい』
世良議員の子供と奥さんが入院しているのは、駅の真ん前の病院だ。何とかなるか。ついてたな。
「か、係長?」
桂さんに、僕は安斎さんの母親の霊がいた事、喋った事を話した。
「それじゃ」
「ああ。たぶん、子供の所に行くと思う。世良さんを直接狙う線も無くはないが、恨みの前に、承認欲求みたいだから」
話しながらも車は病院に急ぎ、他の係員にも連絡を回す。
「大丈夫なんですか、係長」
「大丈夫。直に頼んだんだから」
駐車場に車が滑り込んで止まるのももどかしく、僕は、車外へ飛び出した。
それ以上、手を汚して欲しくはない。
「どうしますか、これ」
「予想以上に福耳が多いな」
僕達は、困り果ててロビーの端にいた。
ついでに言うと、福耳の定義もいい加減だ。
そんな僕達のいる柱の向こう側で、記者が雑談をしていた。
「耳塚でも作る気か?」
「犯人は秀吉かよ」
「でも、耳といえば、あれだよな。世良二世。『耳の形がぼくにそっくりなんです』だろ」
「ああ。この前元女優の奥さんが子供産んだけど、あれ、どう見ても、前の奥さんと時期がかぶってるよな」
「ひでえよな。そりゃあ、前の奥さんより今の奥さんが美人だし、前の奥さんより今の奥さんが資産もコネも人気もあるけど」
「産んだその日に離婚届を突き付けて叩き出すこたあないよな」
「また、離婚の言い訳が、噂では、耳らしいぞ」
「耳?」
「ああ。奥さんが泣きながら、『耳さえきれいな形だったら良かったの?』って言ってるのを、看護師が聞いたらしい」
僕は、柱をグルッと回った。
「すみません、その話を詳しく教えて下さい」
テレビで見たあの議員世良和希さんの現在の妻は麗美さん、旧姓延原だが、世良さんは再婚で、前の妻は安斎夕子という女性らしい。秘書だったが子供ができ、世良の母親は大反対だったが、記者に知られ、スキャンダルを恐れて入籍。
だが、長女夕希さんの生まれた日に離婚届が出されている。
夕子さんの父は早くに亡くなって、その時は母のみになっており、夕子さん親子は母の所に身を寄せている。
その後、夕希さんが乳幼児性突然死で死亡。夕子さんは離婚後精神が不安定だったのが、これで決定的になり、現在に至るまでも精神病棟に入院中。
そして夕子さんの母は、世良議員の子供誕生を報じる週刊誌を前にして、自宅で首を吊って自殺しているのを、訪ねて行った僕達が発見した。
解剖の結果、死亡したのは第1の事件発生の前日だった。
母親の死を知らせに夕子さんの所へ行くと、彼女は赤ん坊の人形を大事そうに抱いて、子守歌を歌っていた。
看護師は、
「一日中、ああなんですよ。人形を夕希って呼んで。お母さんが来ても、誰が話しかけてもだめで」
と、やり切れなさそうに言って、ナースステーションに戻って行った。
残った僕と桂さんは、幸せそうな夕子さんを見ていた。
僕が見ていたのは、正確には、夕子さんと、夕子さんに寄り添う母親の霊だ。
「耳を切ったのは、あなたですね。安斎春子さん」
桂さんがギョッとし、母親は静かに顔を上げて僕を見た。
世良の耳じゃないって、夕子と夕希は追い出された
政治家一族の、世良の血筋に相応しくないって
だから、きれいな耳を探してる
夕希に合う耳が見つかれば
きっとこの子達は戻れる
僕は、小さく嘆息した。
「安斎さん。だめですよ。戻れないんです。夕希ちゃんがもういないのは、わかっているでしょう」
桂さんは僕の声しか聞こえていないし、安斎さんも見えていないが、察して、黙っている。
夕子さんは何も聞こえないのか、人形をあやしながら、子守歌を歌い続けていた。
華々しい結婚式のニュースの時、夕子は泣いていた
どうして
耳が、相応しい耳が欲しい
ああ、耳ならあったわね
世良が認める耳が
安斎さんはそう言って笑い、フッと消えた。
「まずい。次に狙うのは、生まれたばかりの世良さんの子供だ!」
「えええ!?」
僕と桂さんは急いで病室を飛び出し、僕は直に電話をかけた。
「直、今どこ!?」
『駅だけどねえ?』
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
「詳しくは後で話す。世良議員の子供を幽霊が狙いに行く。守っててくれ」
『りょうかーい』
世良議員の子供と奥さんが入院しているのは、駅の真ん前の病院だ。何とかなるか。ついてたな。
「か、係長?」
桂さんに、僕は安斎さんの母親の霊がいた事、喋った事を話した。
「それじゃ」
「ああ。たぶん、子供の所に行くと思う。世良さんを直接狙う線も無くはないが、恨みの前に、承認欲求みたいだから」
話しながらも車は病院に急ぎ、他の係員にも連絡を回す。
「大丈夫なんですか、係長」
「大丈夫。直に頼んだんだから」
駐車場に車が滑り込んで止まるのももどかしく、僕は、車外へ飛び出した。
それ以上、手を汚して欲しくはない。
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