体質が変わったので

JUN

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公道レーサー(1)暴走フィアンセ

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 報告があるからと直に言われ、僕達はファミリーレストランに来ていた。
「報告って何だ?」
 御崎 怜みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ああ、うん。ちょっと待ってねえ。もう来るからねえ」
 直は、入り口に時々目をやりながら言う。
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
「相談って、誰かの事か?」
「うん、まあ、そうでもある、かねえ」
 何とも歯切れが悪い。
 と、誰かを見付けたらしく手を上げて合図し、すぐにやって来たのは、若い女性だった。
「こんばんは」
 明るく言いながら、頭をぺこりと下げる。
「こんばんは」
 返しながら、知り合いかなあ、と考える。
「ほら、司さんのとこの、千穂ちゃん」
「ああ。学生マンションの事件の時の。その節はお世話になりました」
 兄が署長を務める署の交通課に勤務する巡査だ。近くで霊能師としての仕事があった時に会ったのを思い出す。
「舞坂千穂ちゃん。ボク達より1つ年上なんだねえ。
 ええっと、前からメールのやり取りはしてたんだけど、ここに来てからバッタリ帰りに会ってねえ。怜の係は何かと忙しくて、千穂ちゃんと一緒にご飯食べに行ったりしてる内に、付き合う事になってねえ」
「へえ?」
 直と千穂ちゃんは、並んで座りながら、照れていた。
「結婚しようかと思うんだよねえ」
「そうか。結婚――結婚!?」
 驚いた。何となく僕達はまだだと思っていたので、本当にびっくりだ。
「それは、おめでとう。いやあ、急でびっくりした」
「あははは。怜には最初に報告したかったんだよねえ」
 直が照れながらも嬉しそうに言うのに、
「ん?最初って、小父さんとかには?」
と訊いた。
「今から」
「いいのか、それで」
「いいんだよお。前から決めてたんだよねえ」
「そうか。ええっと、ありがとう。
 うん。お似合いだと思う。本当におめでとうございます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 直と千穂さんはニコニコとしていた。
「結婚かあ。ピンと来ないな」
「まあねえ。後、報告って課長に言えばいいのかな。
 いや、ボク達って、付き合う人の事とか結婚相手とか、上司に報告しないとダメだろ」
 警察官は、本人が受験する時だけじゃなく、思想が危険な人等と付き合ったり結婚したりしないように、そういう相手ができたら、上司に報告しないといけないのだ。それで、密かにチェックされるのだ。
 反社会的勢力やカルト集団と関わりのある人は勿論アウト、3親等以内に犯罪者がいないかどうかも調べられる。
「ああ、そうだな」
「付き合い出した時、言ってないんだよねえ」
「私も何となく言ってなくて」
「いきなり結婚したいとか言い出したらまずいかねえ」
「いいんじゃないのか?どっちも身内だから問題ないし、怒られないと思うけど」
「大体、『付き合う事になりました』なんて言いたくないわよ。その後別れたら、それも言わないといけないじゃないのよ。ねえ」
 千穂さんは文句を言った。
「確かに。とは言え、結婚が決まってからだと、問題があった場合は手遅れになるかも知れないっていうのもわかるし」
「チェックいれて許可を貰うって、親か」
「ははは」
 僕達は3人で、和やかに夕食を摂った。

 その後、車で来ているから家まで送ると言われ、お言葉に甘える事にした。
「これ?」
 いかにも早そうな車だった。
「そうなの。マツダのアンフィニRX-7。いいでしょう。ふふふふふ」
 可愛い感じの人だし、何となく、軽自動車みたいな感じを想像していた。
「恰好いいな」
「そうだよねえ」
 言いながら、直は助手席に、僕は後部座席に座る。
「仕事中はミニパトでしょ。スピード出せないし、出したらバランス悪いし、ストレス溜まっちゃって」
 千穂さんは可愛く笑うが、僕は、少し嫌な予感がした。
 直も車に乗るのは初めてらしく、キョロキョロしてから、しっかりとシートベルトをした。
「さあ、出発!」
 エンジンをかける。そして、アクセルを踏んで、ニンマリと笑う。
「今日もいい音」
「……」
「……」
 僕と直は、ルームミラー越しに目を合わせた。
 と、車はクッと飛び出した。
 ドリフトすれすれ、スピード違反は間違いないし、車線変更は多く、モタモタしている車には舌打ちを送る。
 それでも僕と直が乗っていたからまだ大人しかったのだとは、流石に気付いていなかった。
「あ、ひったくり」
 赤信号で止まりかけた時、前のバイクが通行人からハンドバッグをひったくってスピードを上げて走り出した。
「逃がさないわよ」
 それを見た千穂さんは、猛然とアクセルを踏んだ。
 加速に体がシートに押し付けられ、カーブの度に左右に振られる。体を支えようとするものの、なかなかに難しい。
 直、早まったんじゃないか。そういう考えがフッとよぎった……。



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