体質が変わったので

JUN

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故郷の風(2)遺したもの

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 不穏な事を言うアナさんに、事情を訊いてみた。
「母は私が小さい頃に病気で死んで、父はジャーナリストで年中飛び回っていたので、私は母方の祖母に預けられて田舎で暮らしています。
 その父と父の仕事仲間が先月次々に死んで、その上、何か色んな身に覚えのない罪を押し付けられました。父は自殺という事でしたし、仲間は事故とかでしたけど、殺されたんです。不正を調べていた父達が邪魔で、殺したんですよ」
 アナさんは言い、ロサさんはそんなアナさんを抱きしめた。
「誰の不正を調べていたんですか」
「んん……政治家の誰か」
 ザックリしてるなあ。
「父はその前に言ってました。『もし私に何かあったら、絵を送ったから、それを日本のロサに届けて欲しい』って。それで、私は絵を届けに来ました」
 言い、バッグから絵を取り出す。
 女性の肖像画だった。
「まあ。これは亡くなった姉の写真を絵にしたものです」
 それなりに感激はしているようだが、戸惑いが大きいようだ。
「これを届けろって?他には?」
 アナさんはロサさんに向かって首を振った。
 絵をひっくり返したり、3Dではないかと眺めてみたり色々としてみたが、わからない。
「ただの絵ですねえ」
 川口氏も唸った。
「でもその言い方だと、この絵に何かありそうだよねえ?」
「ううん。危険だから、この絵を持って日本へ行かせるという事で、避難させようとしたとか?」
「この背景とかに、ヒントがあったりしないかな」
 皆で、ああでもない、こうでもないと、頭を捻る。
 と、アナさんがそれに気付いた。
「ママの服の柄、6に見えるわ」
 水玉模様だが、並び方とわずかな色の違いで、右肩に6と書いてあるように見えなくもない。色覚異常検査のようなものだ。
「じゃあ、こっちは3か」
「これは4だねえ」
「お、1だよ、これは」
 1つ見つかると、次々とそれらしいものが見つかる。
「264139?これが何だろう。証拠の何かを入れた金庫の番号とか?」
「パスワードとか」
「何のかしら。アナ、他に何か受け取ってない?」
 アナさんは、首を振る。
「お父さん、パソコンとかは?」
 訊いてみたが、自殺の後、押収されたままだという。
「でも、パソコンのデータなら、パソコンも持って行けと言うだろうしな」
「うん。別の何かだろうねえ」
 考えて、絵を睨みつけて、背景の窓の外を見て思った。
「雲……クラウドか」
「クラウド?あ――!」
「何?」
 アナさんが首を傾けるが、ロサさんも川口氏もわかったらしい。
「クラウドサービスと言うものがあって、そこに、メールやデータや写真を置いて置けば、どこのパソコンからでも見れるの。パスワードを知っていれば」
「それなの?」
 アナさんの目が、輝く。
「わからないが、可能性は高い、かな」
「やってみよう」
 川口氏がいそいそと立ち、皆で、診察室のパソコンの前に集まる。
 しばらくして、僕達は、溜め息を漏らした。
「賄賂に水増し、不正のオンパレードだなあ」
「これを掴んで、お父さん達は――!」
 そこにあったのは、さる大物政治家の、決定的な不正の証拠の山々だった。
「許さない――!」
 アナさんは涙を浮かべ、ロサさんがそんなアナさんを抱きしめる。
「とは言え、どうやってこれを突き付けて認めさせよう」
 川口氏が考え込む。
「ヘタすれば、データも人間も消されて終わりだ」
 僕達は、またも頭を捻った。
 と、直が思いついた。
「ネットで大っぴらにばら撒いちゃえばどうかねえ?」
「ネットに一旦上がったものはなかなか消えないもんなあ」
「大手の新聞社、テレビ局、著名人、企業、ありとあらゆるところにアップすれば、誰かが目にして騒ぎ出すでしょうね」
 川口氏が楽しそうに言って、
「このままで済まさせるわけには行きませんよ」
と、ロサさんとアナさんを抱き寄せた。
「そうなれば、僕と直は、ガードだな」
「そうだねえ。今も外から狙ってるしねえ」
「ああ。それも、霊を待機させてるな」
「どういう死因にするつもりだったのかねえ」
 川口氏やロサさんが、ギョッと体を固くする。
「大丈夫です。襲撃も裏付けの1つとして、加えればいい。
 行こうか、直」
「はいよ、怜」
 僕達は、表に出た。


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