474 / 1,046
故郷の風(2)遺したもの
しおりを挟む
不穏な事を言うアナさんに、事情を訊いてみた。
「母は私が小さい頃に病気で死んで、父はジャーナリストで年中飛び回っていたので、私は母方の祖母に預けられて田舎で暮らしています。
その父と父の仕事仲間が先月次々に死んで、その上、何か色んな身に覚えのない罪を押し付けられました。父は自殺という事でしたし、仲間は事故とかでしたけど、殺されたんです。不正を調べていた父達が邪魔で、殺したんですよ」
アナさんは言い、ロサさんはそんなアナさんを抱きしめた。
「誰の不正を調べていたんですか」
「んん……政治家の誰か」
ザックリしてるなあ。
「父はその前に言ってました。『もし私に何かあったら、絵を送ったから、それを日本のロサに届けて欲しい』って。それで、私は絵を届けに来ました」
言い、バッグから絵を取り出す。
女性の肖像画だった。
「まあ。これは亡くなった姉の写真を絵にしたものです」
それなりに感激はしているようだが、戸惑いが大きいようだ。
「これを届けろって?他には?」
アナさんはロサさんに向かって首を振った。
絵をひっくり返したり、3Dではないかと眺めてみたり色々としてみたが、わからない。
「ただの絵ですねえ」
川口氏も唸った。
「でもその言い方だと、この絵に何かありそうだよねえ?」
「ううん。危険だから、この絵を持って日本へ行かせるという事で、避難させようとしたとか?」
「この背景とかに、ヒントがあったりしないかな」
皆で、ああでもない、こうでもないと、頭を捻る。
と、アナさんがそれに気付いた。
「ママの服の柄、6に見えるわ」
水玉模様だが、並び方とわずかな色の違いで、右肩に6と書いてあるように見えなくもない。色覚異常検査のようなものだ。
「じゃあ、こっちは3か」
「これは4だねえ」
「お、1だよ、これは」
1つ見つかると、次々とそれらしいものが見つかる。
「264139?これが何だろう。証拠の何かを入れた金庫の番号とか?」
「パスワードとか」
「何のかしら。アナ、他に何か受け取ってない?」
アナさんは、首を振る。
「お父さん、パソコンとかは?」
訊いてみたが、自殺の後、押収されたままだという。
「でも、パソコンのデータなら、パソコンも持って行けと言うだろうしな」
「うん。別の何かだろうねえ」
考えて、絵を睨みつけて、背景の窓の外を見て思った。
「雲……クラウドか」
「クラウド?あ――!」
「何?」
アナさんが首を傾けるが、ロサさんも川口氏もわかったらしい。
「クラウドサービスと言うものがあって、そこに、メールやデータや写真を置いて置けば、どこのパソコンからでも見れるの。パスワードを知っていれば」
「それなの?」
アナさんの目が、輝く。
「わからないが、可能性は高い、かな」
「やってみよう」
川口氏がいそいそと立ち、皆で、診察室のパソコンの前に集まる。
しばらくして、僕達は、溜め息を漏らした。
「賄賂に水増し、不正のオンパレードだなあ」
「これを掴んで、お父さん達は――!」
そこにあったのは、さる大物政治家の、決定的な不正の証拠の山々だった。
「許さない――!」
アナさんは涙を浮かべ、ロサさんがそんなアナさんを抱きしめる。
「とは言え、どうやってこれを突き付けて認めさせよう」
川口氏が考え込む。
「ヘタすれば、データも人間も消されて終わりだ」
僕達は、またも頭を捻った。
と、直が思いついた。
「ネットで大っぴらにばら撒いちゃえばどうかねえ?」
「ネットに一旦上がったものはなかなか消えないもんなあ」
「大手の新聞社、テレビ局、著名人、企業、ありとあらゆるところにアップすれば、誰かが目にして騒ぎ出すでしょうね」
川口氏が楽しそうに言って、
「このままで済まさせるわけには行きませんよ」
と、ロサさんとアナさんを抱き寄せた。
「そうなれば、僕と直は、ガードだな」
「そうだねえ。今も外から狙ってるしねえ」
「ああ。それも、霊を待機させてるな」
「どういう死因にするつもりだったのかねえ」
川口氏やロサさんが、ギョッと体を固くする。
「大丈夫です。襲撃も裏付けの1つとして、加えればいい。
行こうか、直」
「はいよ、怜」
僕達は、表に出た。
「母は私が小さい頃に病気で死んで、父はジャーナリストで年中飛び回っていたので、私は母方の祖母に預けられて田舎で暮らしています。
その父と父の仕事仲間が先月次々に死んで、その上、何か色んな身に覚えのない罪を押し付けられました。父は自殺という事でしたし、仲間は事故とかでしたけど、殺されたんです。不正を調べていた父達が邪魔で、殺したんですよ」
アナさんは言い、ロサさんはそんなアナさんを抱きしめた。
「誰の不正を調べていたんですか」
「んん……政治家の誰か」
ザックリしてるなあ。
「父はその前に言ってました。『もし私に何かあったら、絵を送ったから、それを日本のロサに届けて欲しい』って。それで、私は絵を届けに来ました」
言い、バッグから絵を取り出す。
女性の肖像画だった。
「まあ。これは亡くなった姉の写真を絵にしたものです」
それなりに感激はしているようだが、戸惑いが大きいようだ。
「これを届けろって?他には?」
アナさんはロサさんに向かって首を振った。
絵をひっくり返したり、3Dではないかと眺めてみたり色々としてみたが、わからない。
「ただの絵ですねえ」
川口氏も唸った。
「でもその言い方だと、この絵に何かありそうだよねえ?」
「ううん。危険だから、この絵を持って日本へ行かせるという事で、避難させようとしたとか?」
「この背景とかに、ヒントがあったりしないかな」
皆で、ああでもない、こうでもないと、頭を捻る。
と、アナさんがそれに気付いた。
「ママの服の柄、6に見えるわ」
水玉模様だが、並び方とわずかな色の違いで、右肩に6と書いてあるように見えなくもない。色覚異常検査のようなものだ。
「じゃあ、こっちは3か」
「これは4だねえ」
「お、1だよ、これは」
1つ見つかると、次々とそれらしいものが見つかる。
「264139?これが何だろう。証拠の何かを入れた金庫の番号とか?」
「パスワードとか」
「何のかしら。アナ、他に何か受け取ってない?」
アナさんは、首を振る。
「お父さん、パソコンとかは?」
訊いてみたが、自殺の後、押収されたままだという。
「でも、パソコンのデータなら、パソコンも持って行けと言うだろうしな」
「うん。別の何かだろうねえ」
考えて、絵を睨みつけて、背景の窓の外を見て思った。
「雲……クラウドか」
「クラウド?あ――!」
「何?」
アナさんが首を傾けるが、ロサさんも川口氏もわかったらしい。
「クラウドサービスと言うものがあって、そこに、メールやデータや写真を置いて置けば、どこのパソコンからでも見れるの。パスワードを知っていれば」
「それなの?」
アナさんの目が、輝く。
「わからないが、可能性は高い、かな」
「やってみよう」
川口氏がいそいそと立ち、皆で、診察室のパソコンの前に集まる。
しばらくして、僕達は、溜め息を漏らした。
「賄賂に水増し、不正のオンパレードだなあ」
「これを掴んで、お父さん達は――!」
そこにあったのは、さる大物政治家の、決定的な不正の証拠の山々だった。
「許さない――!」
アナさんは涙を浮かべ、ロサさんがそんなアナさんを抱きしめる。
「とは言え、どうやってこれを突き付けて認めさせよう」
川口氏が考え込む。
「ヘタすれば、データも人間も消されて終わりだ」
僕達は、またも頭を捻った。
と、直が思いついた。
「ネットで大っぴらにばら撒いちゃえばどうかねえ?」
「ネットに一旦上がったものはなかなか消えないもんなあ」
「大手の新聞社、テレビ局、著名人、企業、ありとあらゆるところにアップすれば、誰かが目にして騒ぎ出すでしょうね」
川口氏が楽しそうに言って、
「このままで済まさせるわけには行きませんよ」
と、ロサさんとアナさんを抱き寄せた。
「そうなれば、僕と直は、ガードだな」
「そうだねえ。今も外から狙ってるしねえ」
「ああ。それも、霊を待機させてるな」
「どういう死因にするつもりだったのかねえ」
川口氏やロサさんが、ギョッと体を固くする。
「大丈夫です。襲撃も裏付けの1つとして、加えればいい。
行こうか、直」
「はいよ、怜」
僕達は、表に出た。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる