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新任警部補・町田 直(4)あの日に帰りたい
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再び東野さんのマンションを訪れる。
東野さんは不機嫌そのものという顔で、腕を組み、大きく溜め息をついた。
「知らないわよ」
「でも、時間を戻すという怪現象はこの時計が原因だし、その原因はあなただと思うんですよねえ」
「そう言われてもねえ」
まあ、気持ちはわかる。
「これは祓う事ができます。でも、根本原因を取り除かない限り、また起こりますよ」
東野さんは面倒臭そうに頭を掻いた。
「係長。もう、祓っておしまいでいいんじゃないですか。仕事的には、それで文句を言われる事はありませんよ」
畑田さんが言う。
「まあ、そうなんだけどねえ。でも、怜ならきっとこれで済まさないよ。誰よりも面倒臭い事が嫌いなのに、とことんまで向き合うんだよねえ。ボクもそれに付き合っているうちに、そう思うようになったんだよねえ。表面的な解決だけしても、解決しないって。
東野さん。本当は、後悔してるんじゃないかねえ。戻りたいって、思ってるんじゃないかねえ?それでその念が時計にこもって、こういう現象を引き起こしてるんだと思うんだけどねえ」
東野さんはムッと口を引き結び、しばらく時計を睨みつけていたが、プイッと横を向いた。
「あらら」
声に出さずに、畑田さんが言う。
「帰りたいだなんて……言えないわよ」
「どうしてかねえ?」
「だって……」
その時足音が近付いて来て、ボクと畑田さんはそちらを見た。どこか冴えない感じの優しそうな男が、緊張しまくった様子で、小さな花束を持って近付いて来る。
そして、そばでピタリと足を止めた。
「あ、あの」
「光?」
「その……ごめん。早く成果を出したら陽子に楽をさせてやれると思って、研究ばっかりにかまけて。本末転倒だった。陽子が出て行って、それに気が付いたんだ」
「……」
「それで、こうなったら、成果を出せたら謝ろうと思って。その、ごめん」
土浦さんは、ペコペコと頭を下げている。
その手首には、ペアウォッチがはめられていた。
「……私も、悪かったわ」
「それで、その、来月から信州の小さい天文台の研究員に決まって。よ、良かったら、ぼくと、信州に行きませんか」
ボクと畑田さんは、声を出さずに、「よし!」と小さくガッツポーズを取った。
「旅行?」
「そうじゃなくて。その、あの、ええっと」
畑田さんが言う。
「男でしょ、ドンと言う!」
「はい!ぼくと結婚して下さい!」
「え、あ」
「あんたもハッキリ言う!」
「はい、喜んで!」
居酒屋みたいな返事だったが、2人は同時にホッとしたような顔をして、急に照れまくった。
「あ、その、これ、あの」
差し出された花束を東野さんは受け取る。
「あ、あり、あああり、がとう」
ボクはホッとして、ビニール袋に入れた腕時計を取り出し、札を剥がした。
念はフッと辺りに漂ってから、消えた。
「では、お話はゆっくり中で。
ああ、東野さんだけ、ちょっと」
土浦さんを部屋に入れ、小声で言う。
「この時計ですが、どうしますかねえ。1000円で質に入れたんだから、その気があるなら1200円で戻すって店のオーナーは言ってましたけどねえ」
「あ、払います。あの」
「わかってます。売りに行った事は内緒で、ね」
畑田さんが言って、東野さんとふふふっと笑った。
ブラブラと署に戻る。
「いやあ、良かったですねえ」
「この先どうなるかわからないけど、まあ取り敢えずはね」
畑田さんもホッとしたように笑う。
「でも、安心はだめよ。愛は不変じゃないし、恋愛と結婚は違うの」
経験者は違うなあ。
「はい」
「さあ、帰りましょうか。飛んだデータも消えた書類も、書き直さなくちゃね」
「ああ、そうだったねえ」
思い出してボクは一気に肩が重くなったのだった。
東野さんは不機嫌そのものという顔で、腕を組み、大きく溜め息をついた。
「知らないわよ」
「でも、時間を戻すという怪現象はこの時計が原因だし、その原因はあなただと思うんですよねえ」
「そう言われてもねえ」
まあ、気持ちはわかる。
「これは祓う事ができます。でも、根本原因を取り除かない限り、また起こりますよ」
東野さんは面倒臭そうに頭を掻いた。
「係長。もう、祓っておしまいでいいんじゃないですか。仕事的には、それで文句を言われる事はありませんよ」
畑田さんが言う。
「まあ、そうなんだけどねえ。でも、怜ならきっとこれで済まさないよ。誰よりも面倒臭い事が嫌いなのに、とことんまで向き合うんだよねえ。ボクもそれに付き合っているうちに、そう思うようになったんだよねえ。表面的な解決だけしても、解決しないって。
東野さん。本当は、後悔してるんじゃないかねえ。戻りたいって、思ってるんじゃないかねえ?それでその念が時計にこもって、こういう現象を引き起こしてるんだと思うんだけどねえ」
東野さんはムッと口を引き結び、しばらく時計を睨みつけていたが、プイッと横を向いた。
「あらら」
声に出さずに、畑田さんが言う。
「帰りたいだなんて……言えないわよ」
「どうしてかねえ?」
「だって……」
その時足音が近付いて来て、ボクと畑田さんはそちらを見た。どこか冴えない感じの優しそうな男が、緊張しまくった様子で、小さな花束を持って近付いて来る。
そして、そばでピタリと足を止めた。
「あ、あの」
「光?」
「その……ごめん。早く成果を出したら陽子に楽をさせてやれると思って、研究ばっかりにかまけて。本末転倒だった。陽子が出て行って、それに気が付いたんだ」
「……」
「それで、こうなったら、成果を出せたら謝ろうと思って。その、ごめん」
土浦さんは、ペコペコと頭を下げている。
その手首には、ペアウォッチがはめられていた。
「……私も、悪かったわ」
「それで、その、来月から信州の小さい天文台の研究員に決まって。よ、良かったら、ぼくと、信州に行きませんか」
ボクと畑田さんは、声を出さずに、「よし!」と小さくガッツポーズを取った。
「旅行?」
「そうじゃなくて。その、あの、ええっと」
畑田さんが言う。
「男でしょ、ドンと言う!」
「はい!ぼくと結婚して下さい!」
「え、あ」
「あんたもハッキリ言う!」
「はい、喜んで!」
居酒屋みたいな返事だったが、2人は同時にホッとしたような顔をして、急に照れまくった。
「あ、その、これ、あの」
差し出された花束を東野さんは受け取る。
「あ、あり、あああり、がとう」
ボクはホッとして、ビニール袋に入れた腕時計を取り出し、札を剥がした。
念はフッと辺りに漂ってから、消えた。
「では、お話はゆっくり中で。
ああ、東野さんだけ、ちょっと」
土浦さんを部屋に入れ、小声で言う。
「この時計ですが、どうしますかねえ。1000円で質に入れたんだから、その気があるなら1200円で戻すって店のオーナーは言ってましたけどねえ」
「あ、払います。あの」
「わかってます。売りに行った事は内緒で、ね」
畑田さんが言って、東野さんとふふふっと笑った。
ブラブラと署に戻る。
「いやあ、良かったですねえ」
「この先どうなるかわからないけど、まあ取り敢えずはね」
畑田さんもホッとしたように笑う。
「でも、安心はだめよ。愛は不変じゃないし、恋愛と結婚は違うの」
経験者は違うなあ。
「はい」
「さあ、帰りましょうか。飛んだデータも消えた書類も、書き直さなくちゃね」
「ああ、そうだったねえ」
思い出してボクは一気に肩が重くなったのだった。
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