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ヤンデレ・ゴースト(4)決別
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ベンチの端で、武藤さんが蛇に睨まれたカエルの如く固まっていた。そして烏丸さんは、武藤さんの隣に座りながら、俯き加減でぶつぶつと呟いている。
「あの女とはどういう関係ですか」
「烏丸さんの後にコンビニに――」
「いえ、いいです。所詮、生きている女は全員邪魔者、敵です」
「え……」
「やっぱり、耐えられません。他の女と視線を交わしたり言葉を交わしたりするのは。それに、私以外の人間と親しくするのも嫌です。だって私が一番武藤さんの事を考えてて、一番何でも知ってるのに」
「いや、あの」
「男も女もです。武藤さんは私だけのものです」
烏丸さんは全開の笑顔を浮かべるが、歪で、恐怖しか感じない。言葉の意味は分かっているのに、違う言葉を聞いているような気がする。
武藤さんは、意を決したように口を開いた。
「烏丸さん。落ち着きましょう」
「武藤さん。やっぱり一緒になりたいです。死んで下さい」
笑顔が怖い。
「烏丸さん。もう無理です。お互いの為にならない」
「どうして?大丈夫。私、尽くす女だから」
烏丸さんのまとう負の気配が、濃く、重くなる。
限度だ。
「そこまでです」
僕が言うのと同時に、直が札を切って烏丸さんを結界で囲う。
「武藤さん、こちらに。
烏丸さん。約束、しましたよね」
武藤さん 武藤さん
武藤さんが僕と直のところまで来ると、烏丸さんは表情も一変させ、怒りだした。
私だって幸せになりたい
私のモノ カエセ
「烏丸さん。浄化します」
浄力を放つ。
烏丸さんのまとう黒いものは薄れ、烏丸さんはさらさらと崩れるように消えて行った。
それを見ていた武藤さんは、溜め息をついた。
「はああ。もう少し、我慢するべきだったのかな」
「だめですよぉ」
直がとんでもないと声を上げる。
「元々不自然だったんです。
大体、これが生きている人間だったと考えて下さい。立派なストーカーですよ。危険な、接近禁止の命令を出すくらいの人ですよ」
「そう、だな。確かに」
武藤さんは頷いた。
「約束通りにしただけだし、成仏させたから、結局はこれで良かったんですよ」
「そうだねえ。気にしないでいいねえ。
むしろ、気にしないといけないのは、あーんについて事情聴取したがるだろう皆ですかねえ」
直が冗談めかして言うと、皆、前まで走り込んで来た。
「皆、ありがとうございました」
武藤さんが頭を下げるのに、笑う。
「気にしないで下さいよ」
「そうそう。面白――為になりましたし」
『全員、終了だ。帰って来い。駅の入り口で集合な』
教官からの無線を受け、僕達は歩き出す。
「しかし、ヤンデレの霊とは言え、2回り年下の女の子にもててあーんまでした御感想は?」
豊川がニヤニヤしながら訊いて、武藤さんは真っ赤になって頭を掻いた。
「私には向いていませんなあ。こりごりです」
「あら。武藤さんは頼りがいがあるし、署に戻ればわからないわよ」
相馬がふふんと笑うと、
「俺は、俺は!?」
と意気込んで富永が言い、
「あんたはもうちょっと落ち着きなさい」
という筧の言葉にしゅんとして、皆、爆笑した。
もうすぐ、研修配置で現場に出る。それが何だか無性に、待ち遠しい気がした。
「あの女とはどういう関係ですか」
「烏丸さんの後にコンビニに――」
「いえ、いいです。所詮、生きている女は全員邪魔者、敵です」
「え……」
「やっぱり、耐えられません。他の女と視線を交わしたり言葉を交わしたりするのは。それに、私以外の人間と親しくするのも嫌です。だって私が一番武藤さんの事を考えてて、一番何でも知ってるのに」
「いや、あの」
「男も女もです。武藤さんは私だけのものです」
烏丸さんは全開の笑顔を浮かべるが、歪で、恐怖しか感じない。言葉の意味は分かっているのに、違う言葉を聞いているような気がする。
武藤さんは、意を決したように口を開いた。
「烏丸さん。落ち着きましょう」
「武藤さん。やっぱり一緒になりたいです。死んで下さい」
笑顔が怖い。
「烏丸さん。もう無理です。お互いの為にならない」
「どうして?大丈夫。私、尽くす女だから」
烏丸さんのまとう負の気配が、濃く、重くなる。
限度だ。
「そこまでです」
僕が言うのと同時に、直が札を切って烏丸さんを結界で囲う。
「武藤さん、こちらに。
烏丸さん。約束、しましたよね」
武藤さん 武藤さん
武藤さんが僕と直のところまで来ると、烏丸さんは表情も一変させ、怒りだした。
私だって幸せになりたい
私のモノ カエセ
「烏丸さん。浄化します」
浄力を放つ。
烏丸さんのまとう黒いものは薄れ、烏丸さんはさらさらと崩れるように消えて行った。
それを見ていた武藤さんは、溜め息をついた。
「はああ。もう少し、我慢するべきだったのかな」
「だめですよぉ」
直がとんでもないと声を上げる。
「元々不自然だったんです。
大体、これが生きている人間だったと考えて下さい。立派なストーカーですよ。危険な、接近禁止の命令を出すくらいの人ですよ」
「そう、だな。確かに」
武藤さんは頷いた。
「約束通りにしただけだし、成仏させたから、結局はこれで良かったんですよ」
「そうだねえ。気にしないでいいねえ。
むしろ、気にしないといけないのは、あーんについて事情聴取したがるだろう皆ですかねえ」
直が冗談めかして言うと、皆、前まで走り込んで来た。
「皆、ありがとうございました」
武藤さんが頭を下げるのに、笑う。
「気にしないで下さいよ」
「そうそう。面白――為になりましたし」
『全員、終了だ。帰って来い。駅の入り口で集合な』
教官からの無線を受け、僕達は歩き出す。
「しかし、ヤンデレの霊とは言え、2回り年下の女の子にもててあーんまでした御感想は?」
豊川がニヤニヤしながら訊いて、武藤さんは真っ赤になって頭を掻いた。
「私には向いていませんなあ。こりごりです」
「あら。武藤さんは頼りがいがあるし、署に戻ればわからないわよ」
相馬がふふんと笑うと、
「俺は、俺は!?」
と意気込んで富永が言い、
「あんたはもうちょっと落ち着きなさい」
という筧の言葉にしゅんとして、皆、爆笑した。
もうすぐ、研修配置で現場に出る。それが何だか無性に、待ち遠しい気がした。
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