463 / 1,046
ヤンデレ・ゴースト(3)デート
しおりを挟む
休日の渋谷は、若いカップルやグループが多かった。
その中で、武藤さんと烏丸さんのペアは、どことなく浮いていた。
『こちら筧。目の前をマルタイが通過。どうぞ』
『了解。塚本と及川は次の角を左折、筧、真白田は追尾に入れ』
『及川了解』
『筧了解』
その2人の後を尾けている僕達も、多分浮いているだろう。
教官に話したら、
「面白そうだな。よし。自主訓練だ」
と迫田教官も温水教官も悪乗りして、僕達は尾行の実地訓練を兼ねて武藤さん達を尾けているのである。本部で指揮を執るのは教官2人で、僕と直、筧と真白田、塚本と及川、相馬と倉阪、豊川と富永のペアが、無線機を装着して尾行していた。
目つきが真剣過ぎたり、視線が固定されていたり、いかにも「尾行しています」という雰囲気が出ていて、まだまだ修行が足りないと実感させられる。城北と葵は不参加だが、これはこれでいい経験になったと思う。
『こちら筧。マルタイは喫茶エンゼルに入店』
『筧ペアは表で待機、倉阪ペアは裏を確認。御崎ペアは入店して貼り付け』
『筧了解』
『倉阪了解』
「御崎了解」
僕は直に小さく頷いて、同じ喫茶店に入った。
店内のテーブルは8割方埋まっていたが、運良く、武藤さんの近くの席に滑り込む事ができた。
「何にしようかなあ」
直がメニューを開く。が、思い出す。
「飲み物はガブガブ飲んじゃいけないんだったねえ」
「暑いし、目の前にあるのにな」
冷たい水の入ったグラスを恨めしく眺める。
武藤さんは、チラッとこちらを見て、申し訳なさそうな顔をした。
武藤さんはこの尾行訓練の事を知っているのだ。
いや、教官達と話をしているので、尾行を撒くような動きを入れて来るかも知れない。
「コーヒーを」
「ボクも」
注文をして、視界の端で武藤さん達を監視する。
「目を使えば簡単なんだけどな」
「ボクもアオがいればねえ」
「まあ、基本を学ぶのも必要だしな」
「そうだねえ」
普通に雑談している普通の友人同士という感じで、武藤さん達を窺っていると、あちらはケーキセットを頼んだらしい。武藤さんがバームクーヘンとコーヒー、烏丸さんがミルクレープと紅茶らしい。
「あ……」
店中が注目したから、僕と直が見たのも自然だったと教官は評価してもらいたい。なんと2人は、「あーん」をしたのである。親子かな、という2人が、あーん。
武藤さんは最初かなり狼狽えて渋っていたが、烏丸さんが笑顔でケーキを差し出したまま引こうとしないので、注目を余計に浴びると観念したらしい。そして、お返しを待って鳥の雛よろしく口を開けて待たれ、烏丸さんにもあーんを返したのだ。
真っ赤になりながら汗を拭いて、残りを素早く片付けた武藤さんに、僕と直は心からエールを送った。
喫茶店を出ると、武藤さんは傍目にも疲れ果てているように見えた。反対に、烏丸さんは上機嫌だ。
武藤さんはフラフラと、歩き始めた。
「御崎より本部。マルタイは北へ移動を開始」
『了解。豊川ペアは追尾を開始。御崎ペアは店を出ろ』
『豊川了解』
「御崎了解」
歩いて行く武藤さんの後を、豊川と富永が間隔を置いてついて行く。
別れて歩き出した僕と直だったが、温水教官が訊いて来た。
『マルタイに何かあったのか?』
黙っておいてやるべきか、しばし迷った。が、報告も訓練の評価に入る。武藤さん、すみません。
「ええっと、2人であーんをして、店中の注目を浴びてました」
『……そうか……。本部了解』
「不倫カップルとか思われたのかねえ」
「な、仲良し親子?」
「ちょっと厳しいんじゃないかねえ。気の毒だけど……」
「やっぱりな……」
僕と直は、溜め息をついて武藤さんの健闘を称えた。
その時、無線に入電があった。
『マルタイに30代女性が接近。笑顔で挨拶して別れたけど、烏丸さんが物凄い笑顔で背中を見送ってる!黒くてやばい笑顔だよ、どうぞ!』
全員、冷や汗が出たと思う。
『そっそれでマルタイの様子は』
『公園に入ってベンチに座って……む、武藤さんが詰め寄られて、あ、落ちそう』
『御崎、町田、公園に急行して近くで待機』
「御崎了解」
僕と直は、不測の事態に備えて、公園を目指した。
「あ、烏丸さんが本当にマズイかも」
直が膨れ上がる気配に呟く。
「祓う事になるかもな」
「仕方ないねえ」
僕達が公園に足を踏み入れると、ベンチの周辺を、暗くて重い気配が支配していた。
その中で、武藤さんと烏丸さんのペアは、どことなく浮いていた。
『こちら筧。目の前をマルタイが通過。どうぞ』
『了解。塚本と及川は次の角を左折、筧、真白田は追尾に入れ』
『及川了解』
『筧了解』
その2人の後を尾けている僕達も、多分浮いているだろう。
教官に話したら、
「面白そうだな。よし。自主訓練だ」
と迫田教官も温水教官も悪乗りして、僕達は尾行の実地訓練を兼ねて武藤さん達を尾けているのである。本部で指揮を執るのは教官2人で、僕と直、筧と真白田、塚本と及川、相馬と倉阪、豊川と富永のペアが、無線機を装着して尾行していた。
目つきが真剣過ぎたり、視線が固定されていたり、いかにも「尾行しています」という雰囲気が出ていて、まだまだ修行が足りないと実感させられる。城北と葵は不参加だが、これはこれでいい経験になったと思う。
『こちら筧。マルタイは喫茶エンゼルに入店』
『筧ペアは表で待機、倉阪ペアは裏を確認。御崎ペアは入店して貼り付け』
『筧了解』
『倉阪了解』
「御崎了解」
僕は直に小さく頷いて、同じ喫茶店に入った。
店内のテーブルは8割方埋まっていたが、運良く、武藤さんの近くの席に滑り込む事ができた。
「何にしようかなあ」
直がメニューを開く。が、思い出す。
「飲み物はガブガブ飲んじゃいけないんだったねえ」
「暑いし、目の前にあるのにな」
冷たい水の入ったグラスを恨めしく眺める。
武藤さんは、チラッとこちらを見て、申し訳なさそうな顔をした。
武藤さんはこの尾行訓練の事を知っているのだ。
いや、教官達と話をしているので、尾行を撒くような動きを入れて来るかも知れない。
「コーヒーを」
「ボクも」
注文をして、視界の端で武藤さん達を監視する。
「目を使えば簡単なんだけどな」
「ボクもアオがいればねえ」
「まあ、基本を学ぶのも必要だしな」
「そうだねえ」
普通に雑談している普通の友人同士という感じで、武藤さん達を窺っていると、あちらはケーキセットを頼んだらしい。武藤さんがバームクーヘンとコーヒー、烏丸さんがミルクレープと紅茶らしい。
「あ……」
店中が注目したから、僕と直が見たのも自然だったと教官は評価してもらいたい。なんと2人は、「あーん」をしたのである。親子かな、という2人が、あーん。
武藤さんは最初かなり狼狽えて渋っていたが、烏丸さんが笑顔でケーキを差し出したまま引こうとしないので、注目を余計に浴びると観念したらしい。そして、お返しを待って鳥の雛よろしく口を開けて待たれ、烏丸さんにもあーんを返したのだ。
真っ赤になりながら汗を拭いて、残りを素早く片付けた武藤さんに、僕と直は心からエールを送った。
喫茶店を出ると、武藤さんは傍目にも疲れ果てているように見えた。反対に、烏丸さんは上機嫌だ。
武藤さんはフラフラと、歩き始めた。
「御崎より本部。マルタイは北へ移動を開始」
『了解。豊川ペアは追尾を開始。御崎ペアは店を出ろ』
『豊川了解』
「御崎了解」
歩いて行く武藤さんの後を、豊川と富永が間隔を置いてついて行く。
別れて歩き出した僕と直だったが、温水教官が訊いて来た。
『マルタイに何かあったのか?』
黙っておいてやるべきか、しばし迷った。が、報告も訓練の評価に入る。武藤さん、すみません。
「ええっと、2人であーんをして、店中の注目を浴びてました」
『……そうか……。本部了解』
「不倫カップルとか思われたのかねえ」
「な、仲良し親子?」
「ちょっと厳しいんじゃないかねえ。気の毒だけど……」
「やっぱりな……」
僕と直は、溜め息をついて武藤さんの健闘を称えた。
その時、無線に入電があった。
『マルタイに30代女性が接近。笑顔で挨拶して別れたけど、烏丸さんが物凄い笑顔で背中を見送ってる!黒くてやばい笑顔だよ、どうぞ!』
全員、冷や汗が出たと思う。
『そっそれでマルタイの様子は』
『公園に入ってベンチに座って……む、武藤さんが詰め寄られて、あ、落ちそう』
『御崎、町田、公園に急行して近くで待機』
「御崎了解」
僕と直は、不測の事態に備えて、公園を目指した。
「あ、烏丸さんが本当にマズイかも」
直が膨れ上がる気配に呟く。
「祓う事になるかもな」
「仕方ないねえ」
僕達が公園に足を踏み入れると、ベンチの周辺を、暗くて重い気配が支配していた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる