体質が変わったので

JUN

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ヤンデレ・ゴースト(1)好きなんです

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 警察大学校には、昇任試験に合格してやって来るベテラン警察官もいる。
 武藤さんもその一人だった。武藤剛志むとうつよし、46歳。武骨な感じの大人しい男だ。同じ初任幹部課程教養を受けている仲間とは言え、お父さんのような安心感がある。
 そんな武藤さんをそばで見かけて、僕と直は、じっと視た。
「直、憑いてるな」
 御崎 怜みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「そうだねえ。どうしようかねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
 武藤さんに憑いているのは若い女性で、悪い感じはしないというものの、良い感じもしない。
 武藤さんに貼り付いてうっとりと眺めており、武藤さんが考えたり困ったりしていると「がんばれ」と言う風に応援し、ただの店員であろうとも、言葉や視線を交わす女性は睨みつけている。
「究極のストーカー?」
「だ、ねえ」
 視ていると、同期の連中がそばに来た。
「どうかしたか?ん、武藤さんか」
 倉阪が視線を追って言う。
「ああ、おっさんだな」
 ややばかにしたように城北が言うのに、
「そのおっさんに体力で負ける城北ってねえ」
と筧が溜め息をつき、豊川が吹き出す。
「人生経験は豊富で、実務も勿論ベテランだぞ。あっちが先輩だ」
 言うと、城北は
「はいはい」
とどうでも良さそうに生返事をした。
「でも、武藤さんがどうしたんだ?」
「まさか……?」
 豊川と及川が言って、僕と直は、頷いた。
「そのまさかだねえ」
 皆の注視する先で、武藤さんは肩を調子悪そうに回していた。その武藤さんに、通りすがりの若いのが、
「40肩ですか?もう年なんだからお大事に」
と、軽くばかにして言った。
 その途端、そいつの持つペンケースが派手に爆発するかのようにぶちまけられ、ノートも吹っ飛んだ。
 慌てて拾い、手伝った武藤さんにバツが悪そうに礼を言ってそそくさと立ち去るのを見、倉阪が訊く。
「あれも?」
「そう。霊がやった」
 僕と直は、武藤さんに近付いた。連中も付いて来る。
「武藤さん。流石ですねえ、情報を聞き出すやり方とか。やっぱりベテランだなあ。勉強になりますねえ」
 直がにこにこと話しかけると、少し身構えかけていた武藤さんも、力が抜けて、照れた。
「いや、どうも。ただ、多少長く経験しているだけですよ」
「職質だって凄いですよ。偉そうにすればいいわけじゃあないですからね」
「そうだねえ」
 僕と直が言うと、武藤さんはますます照れた。
 霊も、こちらに悪気が全くない事がわかったのか、にこにこと頷いている。
「それで、武藤さん。ちょっとお伺いしたい事がありまして……」
「はい?何でしょう?」
「若い女性の幽霊の心当たりなんてありますかねえ」
 僕と直の質問に、武藤さんはキョトンとし、それから何となく背後を振り返って確認し、
「ええっと、私に憑いているんですか?」
と訊いた。
 それに僕と直が頷きながら霊をジッと見ていると、武藤さんも霊も両方が慌て出した。
「え、無いです。全く無いです。誰だろう?何でかな」
 霊は霊で、
「ああ、バレた。恥ずかしい。でも、バレないとお話もできないし。でも、心の準備が」
とオロオロしていた。
「武藤さんに、見えるようになる札を渡しますねえ」
 直から札を受け取った武藤さんは、恐る恐る、僕と直の示す方へと目を向けた。
 2人の目が合う。
「んん?ええっと、コンビニの?」
「はい!好きです!結婚して下さい!」
「えええ!?」
 霊とは言え、2回り年下の若い女の子にいきなり告白されて、武藤さんは真っ赤になって狼狽えた。
「直。これは、面倒臭い事になりそうだぞ」
「ボクもそう思うねえ」
 僕達は、揃って溜め息をついた。


 
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