体質が変わったので

JUN

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裏切り(1)うわさ

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 入学から日が経ち、カリキュラムも進んで行く。僕達も、武道や射撃などについては、嗜み程度にはできるようにと訓練される。
 その中で、異様に張り切っているのが富永と筧だ。筧は空手のチャンピオンで、男勝りでもある事からか、絶対に体術関連で負けたくないようだ。富永は剣道では有名らしく、こちらも、執拗に試合をしたがり、勝つまでやめようとしないのだ。
 面倒臭くなって適当に手を抜いたら、2人共烈火の如く怒るので、皆、戦々恐々としている。
 射撃に関しては、グアムへ観光旅行へ行った時にした事があると言ったのが及川で、あとは全員初めてで、これには一様に興奮した。
 温水教官が見本を見せたのだが、普段はやる気があるのかないのかという感じなのが、拳銃を手にしたら別人のようにまとう空気が清冽になり、ドラマの如く、真ん中を射貫いていった。
「格好良かったよなあ、温水教官」
 御崎 怜みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
 思い出して、しみじみ言う。まあ、兄ちゃんの方が恰好いいが。
 心の声を聞いたらしい直が、笑いながら言った。
「オリンピックの強化選手候補だったらしいねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
「候補だった?」
 昼休みの食堂で、僕達は集まって話しながら食事をしていた。
 と、背後のテーブルで食べていたベテランの学生が口を挟む。
「あいつは、暴力団と癒着して情報を流していたという噂で、ここに飛ばされて来たんだ。強化選手なんて話、パアだよ、パア」
 言って、トレイを持って去って行った。
「温水教官が……?」
 僕達はそれでシンとなったが、気を取り直して食事を再開する。
「噂だろ。当てにならないよ」
「そうは言っても御崎、火の無い所に煙は立たないとも言うぞ」
 城北が言うのに、皆は、真剣に取り合わずに食事を再開させた。
「火の無い所にでも、無理矢理煙を立たせる輩もいるからねえ」
「そうそう」
「それよりも城北。あなた、いくらキャリアだからって言っても、座学以外ダメすぎでしょ」
「うっ、いいじゃないか、相馬。実際に犯人と撃ち合ったり取っ組み合いをしたりなんて、私達はしないんだ。大体、富永も筧も、そんなに暴れたいなら普通の警官になれば良かったんだ。今からでも警察学校に転校してしまえよ」
「成程。それもいいな。2人ライバルが減る」
 葵がうっすらと笑いながらぽつりと言ったが、
「早く食べろよ。時間がなくなるぞ」
と倉阪が言って、皆、急いで食事をかきこんだ。

 模擬交番の中をじっくりと見る。
「交番は、まあ、見た事があるだろう。落とし物を拾って届けたりして、カウンターまでは入った事があるだろうし、テレビでも出て来るしな。
 ここで、これから実習を行う。
 いくらキャリアでも、実務を知らないんじゃお話にならないからなあ。気を抜かずにしっかりとやれよ」
 城北が、ギクリという風に背筋を伸ばし、皆は笑いをかみ殺す。
 と、外から声がかかった。
「温水か?」
 皆、外を見た。
 2人組のスーツ姿の男が、こちらを向いて立っていた。
「本郷……」
 温水教官が思わずという風に声に出すと、ガタイのいい方が笑った。
「ハコ番実習か。はは。懐かしいねえ。
 いや、この辺りへ仕事で回って来たんだが、会えるとはなあ」
「……さぼっていていいのか。この中に、未来の上司がいるかも知れないぞ」
 温水教官が言うと、2人は、
「おっと。ほんの挨拶だよ。じゃあな」
とおどけたように言って、歩いて行った。
 温水教官は軽く嘆息して、
「続けるぞ」
と、淡々と授業を再開した。
 僕と直は、そっと目配せを交わした。
 今の本郷という刑事には、女の霊が憑りついていたのだ。
 面倒臭い事になる予感がしたが、まさか、そんな大事になるとまでは、思いもしていなかったのだった。



 
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