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丑の刻参り(1)肝試し
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授業が終わり、教科書などを抱えて寮へ戻る。
「着替えたらすぐに出るか、直?」
御崎 怜。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「そうだねえ。20分くらい、向こうでちょっとブラブラしてればすぐだしねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
今日は、兄と徳川さんと会う約束をしているのだ。
警察学校と違い、警察大学はそこまで厳しくはない。放課後の外出は割と自由だし、構内に居酒屋すらある。まあ、自宅から通うというのはいないが。
すでに警察官である人も、新しい知識や技能を身につける為に警察大学へ来るので、この前まで一般人だったヒヨッコだけの警察学校とは違うのだろう。
着替えて廊下へ出ると、同期の連中と会う。
「あ、御崎、町田。出かけるのか?俺達今から神社に行くんだけど、どう?」
豊川が誘って来た。
「神社?お参りか?」
「え、あ、まあ。な」
言われて、塚本がこくこくと頷く。
「オレも、面白そうだし、行こうと思って」
富永がウキウキと言う。
「まあ、門限とか、色々気を付けろよ」
「ボク達はこれから知り合いと約束があるからねえ」
そう言って、僕と直は彼らと分かれて寮を出た。
待ち合わせ、近くの小料理屋へ行く。
「どうだ、新生活は」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「まあまあ楽しいかな。同期のやつらも教官も、見た目通りってわけじゃ無さそうで、面倒臭いやつもいるけど」
「高校とも大学とも違うんだねえ。独特だねえ」
僕と直は、報告をした。
「ははは。校長の水戸さんはぼくの元先輩でね。昔はやり手で有名だったんだけど、見た目は人のいいおじさんなんだよねえ」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視正。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「うわあ。気を付けよう」
「だねえ」
乾杯をし、食べ始める。魚の煮付けがとても美味しい。
「兄ちゃんも冴子姉も敬も、変わりない?」
「ああ、元気だぞ。敬は毎日『帰って来たら見せる』って言って拾ったきれいな小石や花びらを集めてるし、冴子は料理本を睨みつけて奮闘してる」
冴子姉とは兄の妻で、敬はその息子だ。
「ははは。入学前、敬君にギャンギャン泣かれたんだって?」
徳川が笑う。
「ようやく納得してくれました」
兄が苦笑した。
「敬と隣の康介とで、マンションの入り口を通せんぼして大泣きしてたもんねえ」
直が笑い、僕と兄が、苦笑しながら言う。
「あれには参った」
「嬉しいけどな」
「微笑ましかったよぉ?」
「当事者じゃないからだな。
直君の所はどうだった?」
徳川さんに訊かれ、直は
「普通ですねえ。『使わないこたつとかとりあえずあんたの部屋に入れといていい?』とか、『お兄ちゃんのコンポ使わないでしょ。借りるから』とか。
はああ。名残を惜しんでくれたのはアオだけだよぉ」
と、眷属であるインコのアオを懐かしむ。
「流石に、動物を連れて来るのはねえ」
徳川さんが苦笑する。アオは今、京香さんに預けているのだ。
そんな風にお互いに報告しあい、元気なのを確認しあって、僕達は別れた。
「明日から、また、兄ちゃんは待ち受けだけになってしまうな」
スマホの画面を見ながら溜め息をつく。
「相変わらずだねえ。
それより、いい店だったねえ。アットホームで、美味しい」
「刺身も良かったしなあ。
あいつらには教えないでおこう。この前みたいになったら、この店に来にくくなる」
「そうしようねえ」
僕と直は内緒にしようと言い合って、寮に帰って行った。
翌朝、皆で顔を合わせる。
「どうした、お前ら」
豊川、富永、塚本、及川の顔色が冴えない。
「かぜか?4人揃ってというのも変か」
倉阪が首を捻るそばで、僕と直は、ピンと来ていた。
「お前ら。変な所に行ったな」
彼らは一様にギクリとし、葵は笑いながら
「風俗?教官に言ったらどうなんだろうねえ?」
と脅しにかかる。物凄く楽しそうなのが怖い。
「フン。これだから男は」
「性別じゃなくて性格だわ。ひとくくりにするものじゃないわよ、筧」
筧と相馬のやり取りに、彼らが慌てて否定する。
「違う、違う!」
「この俺がそんな所に行くとでも?冗談じゃない」
「じゃあ、何よ」
筧が仁王立ちになって迫る。
僕は嘆息した。
「神社とか言ってたけど、悪いヤツを憑けてるぞ。どこの神社に行ったんだお前ら」
「肝試しとかに行ったんじゃないのかねえ」
4人は泣きそうな顔になり、他のメンバーは、ザッと1歩後ずさった。
「助けてくれよお」
豊川が言ったが、チャイムが鳴ったので、
「後でな」
と言い、益々泣きそうになる彼らに、直が、札を配っておいた。
ああ、面倒臭い。
「着替えたらすぐに出るか、直?」
御崎 怜。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「そうだねえ。20分くらい、向こうでちょっとブラブラしてればすぐだしねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
今日は、兄と徳川さんと会う約束をしているのだ。
警察学校と違い、警察大学はそこまで厳しくはない。放課後の外出は割と自由だし、構内に居酒屋すらある。まあ、自宅から通うというのはいないが。
すでに警察官である人も、新しい知識や技能を身につける為に警察大学へ来るので、この前まで一般人だったヒヨッコだけの警察学校とは違うのだろう。
着替えて廊下へ出ると、同期の連中と会う。
「あ、御崎、町田。出かけるのか?俺達今から神社に行くんだけど、どう?」
豊川が誘って来た。
「神社?お参りか?」
「え、あ、まあ。な」
言われて、塚本がこくこくと頷く。
「オレも、面白そうだし、行こうと思って」
富永がウキウキと言う。
「まあ、門限とか、色々気を付けろよ」
「ボク達はこれから知り合いと約束があるからねえ」
そう言って、僕と直は彼らと分かれて寮を出た。
待ち合わせ、近くの小料理屋へ行く。
「どうだ、新生活は」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「まあまあ楽しいかな。同期のやつらも教官も、見た目通りってわけじゃ無さそうで、面倒臭いやつもいるけど」
「高校とも大学とも違うんだねえ。独特だねえ」
僕と直は、報告をした。
「ははは。校長の水戸さんはぼくの元先輩でね。昔はやり手で有名だったんだけど、見た目は人のいいおじさんなんだよねえ」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視正。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「うわあ。気を付けよう」
「だねえ」
乾杯をし、食べ始める。魚の煮付けがとても美味しい。
「兄ちゃんも冴子姉も敬も、変わりない?」
「ああ、元気だぞ。敬は毎日『帰って来たら見せる』って言って拾ったきれいな小石や花びらを集めてるし、冴子は料理本を睨みつけて奮闘してる」
冴子姉とは兄の妻で、敬はその息子だ。
「ははは。入学前、敬君にギャンギャン泣かれたんだって?」
徳川が笑う。
「ようやく納得してくれました」
兄が苦笑した。
「敬と隣の康介とで、マンションの入り口を通せんぼして大泣きしてたもんねえ」
直が笑い、僕と兄が、苦笑しながら言う。
「あれには参った」
「嬉しいけどな」
「微笑ましかったよぉ?」
「当事者じゃないからだな。
直君の所はどうだった?」
徳川さんに訊かれ、直は
「普通ですねえ。『使わないこたつとかとりあえずあんたの部屋に入れといていい?』とか、『お兄ちゃんのコンポ使わないでしょ。借りるから』とか。
はああ。名残を惜しんでくれたのはアオだけだよぉ」
と、眷属であるインコのアオを懐かしむ。
「流石に、動物を連れて来るのはねえ」
徳川さんが苦笑する。アオは今、京香さんに預けているのだ。
そんな風にお互いに報告しあい、元気なのを確認しあって、僕達は別れた。
「明日から、また、兄ちゃんは待ち受けだけになってしまうな」
スマホの画面を見ながら溜め息をつく。
「相変わらずだねえ。
それより、いい店だったねえ。アットホームで、美味しい」
「刺身も良かったしなあ。
あいつらには教えないでおこう。この前みたいになったら、この店に来にくくなる」
「そうしようねえ」
僕と直は内緒にしようと言い合って、寮に帰って行った。
翌朝、皆で顔を合わせる。
「どうした、お前ら」
豊川、富永、塚本、及川の顔色が冴えない。
「かぜか?4人揃ってというのも変か」
倉阪が首を捻るそばで、僕と直は、ピンと来ていた。
「お前ら。変な所に行ったな」
彼らは一様にギクリとし、葵は笑いながら
「風俗?教官に言ったらどうなんだろうねえ?」
と脅しにかかる。物凄く楽しそうなのが怖い。
「フン。これだから男は」
「性別じゃなくて性格だわ。ひとくくりにするものじゃないわよ、筧」
筧と相馬のやり取りに、彼らが慌てて否定する。
「違う、違う!」
「この俺がそんな所に行くとでも?冗談じゃない」
「じゃあ、何よ」
筧が仁王立ちになって迫る。
僕は嘆息した。
「神社とか言ってたけど、悪いヤツを憑けてるぞ。どこの神社に行ったんだお前ら」
「肝試しとかに行ったんじゃないのかねえ」
4人は泣きそうな顔になり、他のメンバーは、ザッと1歩後ずさった。
「助けてくれよお」
豊川が言ったが、チャイムが鳴ったので、
「後でな」
と言い、益々泣きそうになる彼らに、直が、札を配っておいた。
ああ、面倒臭い。
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