体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
449 / 1,046

花壇(3)土の下

しおりを挟む
 その電話をかけて来た馬場さんは、どこか戸惑ったような声をしていた。
 猫の声がどこからかするとマンション中で噂になっているらしく、霊能師に相談してみようかという話が持ち上がったそうだ。
『その声なんですが、何種類もあるらしくって』
「わかりました。とにかくそちらへ伺います」
 僕と直はそう返事をして、すぐにマンションへ行った。
 住民が数名、エントランスに立っていた。
「あ、御崎さん、町田さん」
 馬場さんが声を上げ、ホッとした顔をする。
「猫の声が複数するとか」
「はい。野良猫かと思って探したりしたんですが、姿は全くで」
「この辺、猫がいなくなってるんですよ。それと関係してるんじゃないかって……ねえ」
「何か猫の祟りとか?」
 ブルッと主婦達が体を震わせた。
「どのへんで聞こえたんですか」
「だいたい、花壇の近くです」
 皆、花壇に注目した。
 今日の不毛花壇は何も無く、そばのビニール袋に、抜かれたばかりの枯れたパセリが入っていた。
「パセリ?花壇に?」
「きっと、強ければとにかく何でもいいと思ったんじゃないかねえ」
「成程な」
 その不毛花壇に猫が近付いて、土の上で丸くなったり、なあごおお、などと鳴いている。
 しかも1匹や2匹じゃない。7匹もいる。
「……何ですかねえ、あれ」
「え、さあ……」
「何か、気持ち悪いわ……」
「マタタビでも誰かまいたのか?それで猫が集まって、苗も枯れるのか?」
 言いながら、皆で花壇に近寄って行く。
「あ、管理人さん」
 誰かが言ってそちらを向くと、中年の男が、じょうろ片手に立っていた。
「皆さん……」
「猫が急に集まって来てね。何かと思って。ねえ」
「本当にねえ」
 住人達は言いながら、上手く僕、直、馬場さん、管理人さんの背後に回り、肩越しに花壇を覗き込む。
「ちょっと、ごめんねえ」
「ああ。もふもふ……」
 抵抗しない猫達を、花壇から退ける。
「あ、マタタビだ」
 馬場さんが、6センチ程の木の棒のような物を見付けた。
「それがマタタビですか」
 しげしげと、僕と直はそれを眺めた。
 管理人さんは固い表情で、言う。
「それを花壇に撒いたと……?」
「それで苗が全滅したんですかね」
 住人が言い、別の住人は、
「猫の声も、これじゃない?マタタビで動けなくて、却って見つからなかったのよ」
と言う。
 それに馬場さんは、首を傾げた。
「ん?マタタビに酔った猫の声は独特で、この前からの声とは違うような……」
 管理人さんは笑った。
「誰がこんなイタズラをしたんだか。
 皆さん、お騒がせしました。すぐに、対策をしますので」
 安心したような顔の者も、おかしいんじゃないかという顔をした馬場さんのような者もいる。
 が、僕と直は、それに気付いた。
「念のために、全員下がって下さい」
「え?」
 馴染みのあるそれ――気配が強くなる。
 住人は訝しみながらも花壇から距離を置き、ひとかたまりになった。
「来ます」
 花壇の土が、下からぼこりと、持ち上げられた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

処理中です...