体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
443 / 1,046

心霊特番・滋賀(2)合戦

しおりを挟む
 暗い砂浜に、冷たい風が吹く。そこで、僕達は身を潜めて、それを見ていた。
 学生らしき2グループの学生が睨み合う。各々20名程か。その先頭で睨み合うのは、ミトングローブの2人である。
「ねえ」
 コソッと美里が言う。
「これ、本当に武将?」
 高田さんも、妙な顔をしていた。
「いや、武将じゃないな」
 僕と直は、来た時からそれが視えていた。
「典型的な、ヤンキーだねえ」
 甲田プロデューサーが、ガックリと首を垂れた。
「え、武将じゃないの?古戦場跡が多いから、てっきり……」
 えりなさんが言い訳する。
 数字に結び付くかという目論見が外れてダメージの大きい甲田プロデューサーは放っておいて、僕と直は、目を戻した。
「祓わないといけないのは同じだし」
「そうだねえ」
「戦国武将の歴史ロマンが……」
 甲田プロデューサーの呟きに、美里が肩を竦めた。

 右手と左手は、腕を組んで向かい合っていた。
「西高にでかい面はさせねえ」
「東高がキャンキャン吠えやがって」
 そして、2人がおもむろに近付いて、両手を掴み合い、
「があああ!」
「うおおおおお!」
と奇声を上げるのをきっかけに、乱闘が始まった。
 勢いのまま琵琶湖に突っ込んで行く者もいれば、組み合っている者もいる。
 そんな彼らに、水面を滑るように近付いて来た落ち武者や水死した人の霊が近付き、興奮のまま憑りつこうとする。
「夜中に近所迷惑だろうが!」
「いつまでも乱闘してるのはどうかねえ」
 僕と直が踊り込み、直の札で、全ての幽霊が見えるようになった。同時に僕は、右手と左手に憑いているのを剥がす。
「ん?あれ?」
「え?わ、ぎゃああああ!」
 右手と左手が叫び声を上げ、それを皮切りに学生たちが泣き叫び、阿鼻叫喚の渦と化した。
 その中で、幽霊群は憑りつこうと接近する。
「もう成仏しよう!はい!」
 問答無用とばかりにそれらを祓い、一掃する。
 まだ性懲りもなく組み合うやつらもいたが、直が札で巻き上げた水を降らし、終わらせる。
「頭は冷えたかねえ」
 学生達は、寒さか恐怖かでブルブルと震えていた。
 そんな彼らの間に、いかにも「事故死しました」という風体の特攻服と呼ばれるものを着た暴走族風の霊が、ちらほらと立っている。
「説明してもらいましょうか」
「う、なんじゃあ、邪魔しやがって!」
「やる気かあ!?」
 なけなしの虚勢を張るのが数人いる。最後まで殴り合っていた数人だ。
る気だあ?ってもらいたいのか。魂だけ先に成仏させたいとは、変わった人生観だなあ、おい」
 彼らはそれで青い顔になって、
「いえ」
「別に」
と言いながら座って行った。
「で、どういうわけだ」
 右手と左手に憑いていた2人に訊くと、2人は項垂れながら口を開いた。
「2つの族は、ずっと張り合ってて」
「接触事故でこうなって、決着がつかないままだったから」
「いい加減、なあ」
「うん。決着をつけて成仏しようかと」
 直がそれに、溜め息をつく。
「それで、後輩達を巻き込んで、ミトングローブ右手左手に憑りついて、乱闘しようと思ったのかねえ」
「2人でやり合えばいいだろ?」
 僕も、嘆息する。
 霊達は、気まずそうに頭を掻いていた。
「後輩を巻き込むな」
「無関係の人は論外だしねえ」
「大体、無関係のミトングローブ左手右手に、よく従おうとしたな」
 言うと、彼らはキョトンとしながら、
「いや、現リーダーがそう言ったから……なあ」
と口々に言い、現リーダーは、
「伝説の元リーダーがそうしろって、言いに出て来たから」
と言い、皆の視線が、幽霊の元リーダーに向く。
「え、あ、いや……『王者』ってここに来るやつらが言ってたし」
「ちょうどいいかなあって……なあ」
 霊達が目をそらす。
 お笑いグランプリの事を、釣り客が話すのを聞いたのだろう。
「はあ。成仏しろ、仲良くな」
「はい」
 浄力を浴び、彼らは光になって消えて行った。

 落ち込む甲田プロデューサーをよそに、僕達は話していた。
「大昔の暴走族か。今どきあんな感じの、いないもんな」
 高田さんが苦笑する。特攻服にリーゼント。漫画でしか出て来ない風体だ。
「戦国武将の合戦かと思いきや、なんというか、しょぼいわね」
 美里が酷評すると、甲田プロデューサーが益々落ち込む。
「はああ。ただただ面倒臭い案件だった」
「だねえ」
 僕達は気の抜けた笑みを浮かべたのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...