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カンバスの向こう側(4)鏡の迷路
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病院へ行って佐竹君とパスをつなぎ、絵の中へ侵入する。
鏡がズラリと並んだ様は、まるで迷路で、方向感覚がおかしくなりそうだ。
「佐竹君。霊能師の御崎です」
ぼんやりとしている中学生に声をかけると、彼はこちらを向いた。
「霊能師……迎えに来たんですか」
「はい。戻れなくなる前に。長くなると、いざ戻っても、体の方が衰弱していて苦労するし」
佐竹君は考えて、弱々しく笑った。
「もう、いいかな。戻っても、また同じ毎日の繰り返しだし」
視線を辿ると、鏡に囲まれて小さくうずくまりながら頭を抱えて震える、茶谷君、秋山君、坂本君が見えた。3人共、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「やめてくれ、すまん、やめてくれ、頼む」
「何で俺が俺に――うわあ、やめろ、やめろよ俺!」
などとうなされていた。
「例の3人か」
「ここだと、虐められる心配はないからね」
「その代わり、分かり合える事も無いぞ」
「無理だよ」
僕は、教室での一部始終を聞かせた。
「――というわけで、皆、正面から取り組む約束をした。
1回だけ、チャンスを与えてやれよ。それで、佐竹君も、分かり合えるチャンスを生かせよ」
佐竹君は、迷っているらしい。
「でも……。ここにぼくがいるのは、もう逃げ場が無いなあと思って、気付いたらここにいたんだ。茶谷君達については、ぼくも知らないし……。
それに、戻ったら、この報復をされるだろうし……」
「それについては心配ない。銅鏡を割って、カンバスで欠片を受けたんだって?いいか。銅鏡に宿った断罪者の霊が、理不尽な行いをする茶谷君達を断罪する為に、宿っていた鏡の欠片が残っていたカンバスに引きずり込んだんだ。君は証人として呼ばれたんだな。
見ろよ。自分の行いが鏡で跳ね返されて自分に返って来て、それで反省してるだろ」
「ああ、あれ。鏡って不思議だね」
「因果応報だな」
クスッとだが、初めて笑った。
「家の人も心配してたぞ。だから、任せろ。
ただ、こんな事はこれが最後だ。最悪、抜け出せなくなるし、取り返しのつかない事態を引き起こすことにもなりかねない。その時は、佐竹君が断罪される側になる。わかるな」
佐竹君は、コックリと頷いた。
「痛みを知る佐竹君だからこそ、他人の痛みを理解できると信じるよ。
さてと」
僕は、呻く3人に、直から預かって来た札をひらりと飛ばした。
しばらくすると、3人共、
「申し訳ありませんでした!もう、絶対にしません!反省しています!勿論本人に、許してくれるまで謝りますから!」
と口々にそういう意味のことを口走り、断罪者の幻影を見せている札に土下座した。
こんなもんか。
佐竹君も居たたまれないようで、困ったように言った。
「もう、そのくらいで……」
「わかった。戻ろうか」
まず茶谷君達を痕跡を逆に辿るようにして学校へ帰し、佐竹君を連れて、病院へと戻った。
体に戻って、体を起こす。佐竹君も、目を開けた所だった。
「薫流!!」
佐竹君の両親と主治医がすぐに佐竹君に飛びつき、確認をする。
「怜、どうだったかねえ?」
「バッチリだ、直」
僕と直は、こっそりと悪い笑みを浮かべた。
後日、佐竹君から、クラスで話し合いをして、今は皆仲良くやっていると報告があった。
そして学校からは、職員室の窓の外に鏡の破片を埋めた『鏡塚』を作り、この教訓を忘れずにやっていく事にしたと報告があった。
「鏡塚……」
「思ったよりも、お灸が良く効いたというか、ねえ」
「まあ、いいだろう。喉元過ぎれば――になりがちだが、形が残っていれば、な」
「嘘も方便だしねえ」
「そうそう」
「だが、あれだな。学校絡みってのは、何かと面倒臭いな」
「だねえ」
僕と直は、もうこりごりだと、溜め息をついた。
鏡がズラリと並んだ様は、まるで迷路で、方向感覚がおかしくなりそうだ。
「佐竹君。霊能師の御崎です」
ぼんやりとしている中学生に声をかけると、彼はこちらを向いた。
「霊能師……迎えに来たんですか」
「はい。戻れなくなる前に。長くなると、いざ戻っても、体の方が衰弱していて苦労するし」
佐竹君は考えて、弱々しく笑った。
「もう、いいかな。戻っても、また同じ毎日の繰り返しだし」
視線を辿ると、鏡に囲まれて小さくうずくまりながら頭を抱えて震える、茶谷君、秋山君、坂本君が見えた。3人共、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「やめてくれ、すまん、やめてくれ、頼む」
「何で俺が俺に――うわあ、やめろ、やめろよ俺!」
などとうなされていた。
「例の3人か」
「ここだと、虐められる心配はないからね」
「その代わり、分かり合える事も無いぞ」
「無理だよ」
僕は、教室での一部始終を聞かせた。
「――というわけで、皆、正面から取り組む約束をした。
1回だけ、チャンスを与えてやれよ。それで、佐竹君も、分かり合えるチャンスを生かせよ」
佐竹君は、迷っているらしい。
「でも……。ここにぼくがいるのは、もう逃げ場が無いなあと思って、気付いたらここにいたんだ。茶谷君達については、ぼくも知らないし……。
それに、戻ったら、この報復をされるだろうし……」
「それについては心配ない。銅鏡を割って、カンバスで欠片を受けたんだって?いいか。銅鏡に宿った断罪者の霊が、理不尽な行いをする茶谷君達を断罪する為に、宿っていた鏡の欠片が残っていたカンバスに引きずり込んだんだ。君は証人として呼ばれたんだな。
見ろよ。自分の行いが鏡で跳ね返されて自分に返って来て、それで反省してるだろ」
「ああ、あれ。鏡って不思議だね」
「因果応報だな」
クスッとだが、初めて笑った。
「家の人も心配してたぞ。だから、任せろ。
ただ、こんな事はこれが最後だ。最悪、抜け出せなくなるし、取り返しのつかない事態を引き起こすことにもなりかねない。その時は、佐竹君が断罪される側になる。わかるな」
佐竹君は、コックリと頷いた。
「痛みを知る佐竹君だからこそ、他人の痛みを理解できると信じるよ。
さてと」
僕は、呻く3人に、直から預かって来た札をひらりと飛ばした。
しばらくすると、3人共、
「申し訳ありませんでした!もう、絶対にしません!反省しています!勿論本人に、許してくれるまで謝りますから!」
と口々にそういう意味のことを口走り、断罪者の幻影を見せている札に土下座した。
こんなもんか。
佐竹君も居たたまれないようで、困ったように言った。
「もう、そのくらいで……」
「わかった。戻ろうか」
まず茶谷君達を痕跡を逆に辿るようにして学校へ帰し、佐竹君を連れて、病院へと戻った。
体に戻って、体を起こす。佐竹君も、目を開けた所だった。
「薫流!!」
佐竹君の両親と主治医がすぐに佐竹君に飛びつき、確認をする。
「怜、どうだったかねえ?」
「バッチリだ、直」
僕と直は、こっそりと悪い笑みを浮かべた。
後日、佐竹君から、クラスで話し合いをして、今は皆仲良くやっていると報告があった。
そして学校からは、職員室の窓の外に鏡の破片を埋めた『鏡塚』を作り、この教訓を忘れずにやっていく事にしたと報告があった。
「鏡塚……」
「思ったよりも、お灸が良く効いたというか、ねえ」
「まあ、いいだろう。喉元過ぎれば――になりがちだが、形が残っていれば、な」
「嘘も方便だしねえ」
「そうそう」
「だが、あれだな。学校絡みってのは、何かと面倒臭いな」
「だねえ」
僕と直は、もうこりごりだと、溜め息をついた。
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