体質が変わったので

JUN

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カンバスの向こう側(1)消える

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 鏡の破片を、ひとつ、ひとつ、取り除く。ふざけて銅鏡を割ってその破片をカンバスで受けて、片付けておけと命令された。銅鏡を割ったのが自分だと言えとも。
 あいつらは、ずっとこのままぼくを虐めるのだろうか。中学を卒業するまで?高校も内部進学するだろうから、高校卒業まで?
 溜め息が出た。
 もう、嫌だ。うんざりだ。積極的にしてくるのは数人でも、クラスの皆が、面白がって見ているか、見ていないふりか、はやし立てたりする。担任に相談しようとしたが、あからさまに予防線を張って、問題は無い、虐められるお前に問題がある、という態度だ。助けてくれるとは思えない。
 カンバスをひっくり返して、表を見る。
 秋の美術展に出展するために描いて来た油絵だ。題名は『鏡の道』。合わせ鏡を覗く人物がいて、延々と鏡が続いている、そういう絵だ。
「締め切りに間に合って良かった」
 強いてそう言い、絵を、美術部部室に持って行く。
 明日から、何をしよう。もう、疲れた。

 僕は、課長に訊き返した。
「行方不明ですか」
 御崎 怜みさき れん、大学4年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「警察に言わないのはどうしてかねえ?」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
 課長は言葉を選ぶようにしながら、口を開く。
「依頼人は私学だから、普通よりも評判とかが大事なんだろうね。その、警察官が出入りすると目立つし」
「だったら、興信所とか。心当たりでもない限りは、なあ」
「あんまり、霊能師にとか思わないよねえ」
 何かに憑かれた学校というのも、ブランドイメージという意味ではダメージは大きいんじゃないかと思う。
「そこは、向こうで聞いて欲しい。それ以上は話そうとしないから」
 仕方が無い。僕と直は、和泉学園中等部へと赴く事になった。
 
 和泉学園のホームページを見る。郊外にあり、自由な校風を謳っていた。そこまで偏差値が高いわけでも無く、良い家柄の子女がいるわけでも無い、中途半端な学校というイメージを持っていたが、そこまではホームページからはわからない。
「家出じゃあないんだろうねえ、外部の人間を入れるんだし」
「でも、家出としても、それは1人じゃないって事になるぞ。個人の依頼ではなく、学校からだから」
「ちゃんと、協力はしてもらえるんだろうねえ」
「面倒臭い事になりそうだな」
 揃って、溜め息をついた。


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