体質が変わったので

JUN

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武者と若(2)シンパシー

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 直は、話を聞いて、半笑いになった。
「へ、へえ。落ち武者って、合戦がトラウマになってないんだねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「確かに。やる気満々だったな」
 直は想像したのか、噴き出した。
「まあ、それはともかく、その武者ならあれかも知れないな。
 兜を小脇に抱えた落ち武者の霊が、深夜『若君はいずこ』って言いながら徘徊してるらしいねえ」
「もう噂になってるのか」
「目撃者がいてねえ」
 直は言って、
「ボクも手伝うよ。どうも、府中の方らしいよぉ」
 というわけで、夜、目撃情報のあった辺りへ出かけた。
「ん?あれも、落ち武者見物かねえ?」
 駅を出たところに自転車が数台止まっていて、中学生くらいの男の子が3人、そのそばに立っていた。
「早く行けよ」
「そ、そんなあ」
「できないんだったら代わりにその分の金を持って来い」
 中の1人が、泣きそうな顔で本屋を見る。いじめらしい。
「いいな」
「公園で待ってるからな」
 2人は自転車にまたがって、走って行く。
 どうするのかと、そのまま見る。
 と、その少年は、迷った末に本屋へ入って行った。
 僕と直は顔を見合わせて嘆息すると、後に続いた。
 少年はゲームソフトの棚の前で、あからさまに挙動不審な感じでウロウロしている。
「どうする、怜?」
「今止めても、いじめそのものを止めない限りなあ。
 とは言え、万引きはさせられない」
 店員がチラチラと注意して見始める先で、少年はソフトに腕を伸ばした。
「ふうん。そういうのが流行ってるのか」
 ギクリと、少年の顔が強張る。
「なるほどなるほど。参考になったねえ。ありがとう」
「行こうか」
 僕と直は、少年に流行りのソフトを訊いていたような顔で、少年を間に挟んで連れ出した。
 そして、少し行ったところで、足を止める。
「お前なあ。強要されたとしても、だめなものはだめだろう」
 僕達に補導されるとでも思っているのだろう。青い顔で、俯いている。
「さっきの子達に、いつもやらされてるのかねえ?」
「い、いえ。万引きしろって言われたのは、初めてです。いつもは、物を隠されたり、その、体育の時間に着替えを隠されたり」
「腹の立つやつらだなあ」
「お仕置きが必要だねえ」
 ここへ来た目的は覚えているが、放って置けない。
「補導、ですか」
「まだやってないだろ。それに、僕達は警察官じゃない」
「通りすがりの霊能師だねえ」
 少年は顔を上げ、
「あ。テレビで見た事ある」
と言った。
「そうか。別に、ドSじゃないからな」
「誤解だねえ」
 少年は少しホッとしたのか、ふふっと笑った。
「さあて、どうしようかな」
「暇を持て余してる例の人達を呼ぶかねえ?」
「お、それで行くか。落ち武者狩りゴッコしようって」
「あ、あの?」
「幽霊に追っかけられてびびって泣いてる所を写真で撮ってやるか?もしかしたら、泣くだけでなくちびるかも知れないけどな」
「……この人達ドSだよ」
「何か言ったかねえ?」
「いえ、別に」
「そう言えば、名前を聞いておこうか」
物部忠司もののべただしです」
「あいつらは?」
「田中と加藤です」
 まずはそいつらの顔をしっかり見に行こうと公園へ近付く。
 と、それが出た。
「あ」
「落ち武者だねえ」
 兜を小脇に抱えた武者が、前から歩いて来る。
「呼ぶまでもなかったな」
「ナイスだねえ、落ち武者」
「お、お、お知り合いですか」
「まあ……探していた相手だな」
 武者はこちらに気付くと、はたと足を止めた。そして、回れ右をしようとする。
「どこへ行く」
「せ、拙者、ちと急用が――」
「だめだよお。兜を見て若様を思い出したからって、若様はいないんだからねえ」
 武者を左右から、僕と直で挟む。
「兜の補修が間に合っていれば、若は……」
 肩を落とす武者に、
「もう、逝って楽になろうか」
と勧める。
「若……ああ、この兜があれば。兜が」
 間違いなく自転車の安全ヘルメットに遠く及ばない強度だが、武者の目には、若様の頭を守れたはずの兜に見えるのだろう。
 フッと武者の姿が消えると、兜が地面に落ちて転がった。
「あ、兜に憑依した」
「一種の引きこもりだねえ」
 僕と直は、仕方ないなあと思いながら転がる兜を目で追っていたが、それを物部君が、足元に転がって来たので拾い上げる。
「この人は?」
「戦場で、主君の若君を亡くしたんだって聞いたな。頭に矢を受けたらしい。あの時兜の補修ができていれば、自分がもっと強ければって、そう言ってたな」
「もっと強く……わかる気がします」
「……おい?」
 物部君と兜が、共鳴し始めた。
 そして、物部君は、兜をかぶった。
「憑かれたな」
「そうだねえ」
 ああ、頭が痛い。




 
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